『この世界の片隅に』は日本映画史上に残りうる名画だと確信しているのですが、まぁホント、戦争映画と思わずに、昭和初期の日常ドラマと思って多くの方に観てほしいです。
さて、最近、息子が学校で「昔の日本の暮らし」について学んできたようで、井戸ってどんなの?とか蓄音機って知ってる?とか聞いてくるわけです。
すると、ちょうど良いタイミングで、東京の大田区にある「昭和の暮らし博物館」で「すずさんのおうち展」という企画展をやっているという情報をゲット。
実際の古民家を、映画の中に出てくる嫁ぎ先の「北條家」に合わせて小物等を揃えて展示してあるとのこと。
“例の天秤棒”も担げるよ!と、実際に行った「このセカ」クラスタの皆さんが楽しそうにツイートしていらっしゃる。
こりゃあ面白そうだ。息子に「こういうのあるけど、興味ある?」と聞いたら、「行きたい行きたい!」と。よっしゃ行きますかー。
とりあえず出発前日に、予備学習として、息子と一緒にブルーレイで映画鑑賞。
もう何度か見せているので、最初はビビッていた機銃掃射のシーンとか、北條夫婦のキスシーンなんかも普通に観てる。
この時代は水道がないから朝早くからああやって井戸まで水を汲みにいかなきゃいけなかったんだね、子供もしっかり働いてたんだね、とか色々予習したら、いざ、東京へ。
東京とは言いつつ、大田区はいつまでも昭和の香りが残る地域ですなぁ。蒲田には何度か行ったけど、久が原には初めて降り立った、のに初めて来た気がしないこの絶妙な田舎感。
公式サイトの地図を頼りに、駅からてくてく歩き、看板が出てなかったら絶対に分からないであろう民家と民家の間の細い路地を抜けて、たどり着いた小さな博物館。
小さな門を抜ければ、まるでおばあちゃんのおうちに戻ってきたような懐かしさに包まれます。玄関先の小さな井戸ポンプ、明るくて小さな中庭、縁側には柿や唐辛子が吊るしてある。
このセカを愛する人たちや、昔を懐かしんで来られた年配のお客さんたちで、予想以上に賑わっていました。
ボランティアスタッフの女子大生さんたちが積極的にお客さんに声をかけてくれるのも嬉しい。
海苔すきに使う道具は広島風じゃなくて江戸前風。そりゃそうか、東京も海苔の名産地だったもんね。
手押しポンプに竹筒の水鉄砲、天秤棒とバケツ、竹馬、洗濯板と桶などが中庭に並べられ、さっそく息子は目を輝かせて片っ端から試していきます。
水の入ったバケツ2つを天秤棒で背負ってみるのは、分かってはいたけど結構大変。こりゃー体力も必要だけどバランス感覚が必要ね。ちょっと体勢を崩すとおっとっと、ってなる。
映画のラストに登場する「ワニのお嫁さん」もちゃっかりいたりして。
後ろの縁側にあるのは、映画の冒頭で子供時代のすずさんが背負った風呂敷包み。
息子もその様子を思い出しながら、よっこらしょと背負ってみます。あら上手ねぇ坊や、と褒められたり。
さて博物館の中へ。博物館と言っても本当に普通の民家なので、玄関をがらがらっと開けて、土間で靴を脱いで靴箱に入れてお邪魔しますって感じで上がります。
ちなみに館内は(一部を除き)撮影禁止ですよ。
玄関脇の書斎は広工廠にお勤めのお義父さんのかしら、いかにも技師らしい製図用具などが置いてある。片淵監督の私物かなぁ(監督はアニメ界有数のミリヲタなのである)。
台所、お茶の間、座敷には、映画を観た人なら「ああ、あれだな」とすぐに気づくものがさりげなく、たくさん並べてあります。
いろりの上には「お豆さん炒りょってん?」の豆。
座敷には登場人物の衣装が並び、箪笥の上には帽子の箱が。
ちゃぶ台の上には野草入りのお食事に、例の“楠公飯”。
ちなみにこの食事サンプルは少女漫画界のレジェンドである高野文子先生の作とのこと(!)。なんでも高野先生はこの博物館に展示協力として参加されているのだそう。
中庭に面した談話室には、このセカのファンの間ではすっかり有名な「水口マネージャー」のファンアート展を開催中。
(※あまちゃん時代からの「のん」さんのファンで、「このセカ」関係のイベントには全国どこであろうと必ず訪れ、イラストを描かれている男性。)
談話室ではドクダミ茶のもてなしがあり、昔の玩具で遊んだり、もんぺの試着などが出来ます。
息子は昔懐かし「コリントゲーム」にすっかりハマってしまって、絶対に最高得点を出すんだと何度もビー玉をころころ。
談話室の2階には、とても小さな部屋だけれども、たいへん貴重な映画の資料がズラリと並べてあって、めっちゃ見ごたえがありました!
そもそもこの博物館は、この映画の製作に初期からずっと関わっていて、当時の生活や食事などについて教えていたのです。
というわけで、監督補の浦谷さんが学んだメモやラフスケッチなどはきめ細やかなもので、これだけでも一冊の資料になりそう。
あと、映画序盤のワンシーンである「草津のおばあちゃんちでの夏のご馳走」は、映像ではほんの一瞬映るだけなのですが、レイアウト原画でその内訳が分かりました。
そうか!あれは「コイワシの煮つけ」だったのか!
コイワシ(片口鰯)は広島の人間にとっては絶対に外せない鉄板料理。そうそう、生姜に梅干しで甘じょっぱく炊いてねぇ、ありゃーご飯がぶち進むんよぉねー。
思わずテンション上がっちゃって、ボランティアの女子大生さんにコイワシの煮つけについて説明しちゃった。ホラ、関東の人って、鰯って言うと真鰯のイメージになっちゃうからさ。
本館の2階では、「楽しき哀しき昭和の子ども展」を開催中。
昭和初期の子どもの玩具、お人形などを飾り、当時の子どもの遊びを再現したお部屋があり。
かと思うと、貧困家庭の子どもに待ち受ける哀しい出来事についての説明もあって、映画に登場するリンさんの来し方に想いを寄せます。
また、当時の学校の給食の献立表もあるんだけど、ほとんど「ご飯・汁」だけ。何かもう一品あればいいほう。そりゃ栄養不足にもなるよね。
いや、これらは決して過去の話ではなくて、今現在も“この世界のどこか”ではこれと似たような話が実在するわけなんですが。だからこそ、我々は他民族を嗤ってはいかんのよ。来た道よ。
それからもう一度中庭に戻って、息子はまた井戸やら石臼やら洗濯板やらにちょっかいを出し、私は売店でお土産を買いました。
今回の展示会オリジナルの絵葉書セット(2種)と、海苔。海苔には1枚だけ、月と星の形の切込みが入ってる。映画冒頭ですずさんが「ばけもん」退治に切り抜いたアレ。おっさんおっさん。
それらを自分用と、このセカファンの広島の姉へのプレゼント用に、2つずつ買って、博物館を後にしました。
いやー、小さな博物館ではあったけど、じっくり勉強できたなぁー。
昭和生まれの私にとっては、微妙に知ってる~よく知ってるものばかりだったけど、10歳の息子にとっては何もかもが新鮮だったようで、「とっても面白かった!」と鼻を膨らませておりました。
すずさんのおうち展は来年のGWまで開催しているそうです。未見のかたは是非とも映画をご覧いただいて、より深い理解をなさりたい方は是非こちらの博物館へどうぞ。
【後日談】
この旅行の一週間後(12月1日)には、イオンシネマ松本にて、『この世界の片隅に VIVE AUDIO5.1ch 片渕監督監修バージョン』を鑑賞!
その名のとおり、片渕監督が音響を念入りに再調整された、全国でも2か所でしか鑑賞できない貴重なバージョンでの鑑賞となりました!
いや、映画自体はもう何度も見ているんですが、音の迫力が全ッ然違う!
ばけもんの絵を描くシーンでの階下からの鬼イチャンの咳の音、波のウサギを描くシーンでの風の音、周作さんと大和を見るシーンでの蜂の羽音!
今まで(確かにあったものの)ほとんど聞こえなかったそれらの音がくっきりと観客を取り巻き、臨場感が半ッッッ端ないッス!!!
空襲やら機銃掃射に至ってはもう(絶句)
このセカクラスタがしきりに「松本へ行け」と連呼するのがよーーーーく分かりました。いや、ホントに観て良かった。映画は良い音の映画館で観るのが一番の贅沢ね。