つれづれぶらぶら

花粉症持ちにとっては例年以上につらい春です(主に精神的に、周囲の視線が)

『さんさん録』

はてなさんのお世話になって半月ぐらい経ったけど、魔法のiらんどさんのブログサービスよりはるかに使い勝手が良くて感動している。

いやー、長年お世話になってるiらんどさんをディスりたくはないんだけど、1ページあたりの文字制限があるのは、私のようなだらだら長文書きたがるタイプの人間にとっては地味にストレスなのだよな。いや、もっと簡潔に書けって話ですが。

ってなわけで、「あ、これブログに書こう」と思いたっても、「……いや、めんどい」と書かずにきたネタもいくつもあるわけで。

そういうのも、これからちょいちょい暇を見つけて書いていきたい。喋り倒したいモノゴトはいっぱいあるのだ。ギターソロを弾きまくらせてほしいのだ。

 

その第1弾、本日ご紹介したい漫画は『さんさん録』です。 

さんさん録 : 1 (アクションコミックス)

さんさん録 : 1 (アクションコミックス)

 

 

原子爆弾の後遺症を描いた『夕凪の街 桜の国』のヒットによって、はからずも「戦争漫画家」という目で見られることとなってしまった、こうの史代先生。

ところが、こうの先生は元々は何気ない日常ものやほのぼのしたコメディを描くのを得意としていたところであって、「周囲が書かせたがるもの」と「自分が書きたいもの」のズレに悩んでいた時期があったのだそうな。

そんな時期に書かれたのが、この『さんさん録』。

妻に突然先立たれた中年男、参平。息子夫婦の家に同居することとなった参平は、ある日、妻が残した1冊の分厚いノート「奥田家の記録」を見つける。ゴミの出し方、料理や掃除の手順、家族に関する覚え書き…それを参考に、参平はこれまで全くやってこなかった「家事」に取り組むのだった――というお話。

さんさん録』という奇妙なタイトルは、亡くなった奥さん(鶴子=おつう)が参平を「参さん」と呼んでいたことに基づく。つまり、さえない中年男の「参さん」が周囲の人々との日々の中で、何を覚え、何を感じ、どう変わっていくかの「記録」。

最初は肉じゃがひとつ作るのに5時間かかっていた参さんが、根っからの真面目人間のせいか、奥さんの記述が的確なのか、どんどん家事の技能を上げていくのが面白い。息子の嫁が仕事に復帰したいというのを応援し、自ら「主夫」に立候補。しまいにはチョコレートケーキや指編みマフラーまで作ってしまう。さらに、2巻のカバーを外すと、ものすっごいものを作っているので気になる方は読んでみてくだされ。

 

周囲の人々もそれぞれに味があって良い。

ちょっと意地っ張りで鈍感な、息子の詩郎。いつもにこにこ笑っている、嫁の礼花。昆虫好きで不愛想な小学生の孫娘、乃菜。

この乃菜と参平のコンビがなんとなくおかしみがあって良い。お世辞にも可愛いとは言えない容姿の乃菜は、参平を「ボケ老人」呼ばわりしたりと酷い扱いなのだが、なんだかんだで参平を頼ってくるのが可愛いのだ。

礼花さんは典型的な「こうの史代ヒロイン」で、いつもにこにこしているんだけど何を考えているのかよく分からない。で、いきなり怒り出して夫婦喧嘩。分かりづらい人物ではあるんだけど、実は冷静に周囲を観察していて、参平の隠している悩みにさりげなくアドバイスしたりする配慮を持っている。あと、礼花さんは広島県呉市の出身。呉であることは作中で語られてはいないんだけど、実家の両親の方言がもうコテコテの呉弁なので分かる人にはめっちゃ分かる。

そして、奥田家以外の登場人物として出てくるのが、仙川さんという妙齢の美女。

最初は人材派遣会社の社員として詩郎を引き抜くために来た仙川さんが、色々あって、いつの間にやら参平と微妙な関係になっていく。年齢は親子ほども違うのに、そして参平は鶴子を失った悲しみが未だに癒えていないのに、なんとなくお互いを男女として意識していく。そう、ラブストーリーの要素もあるのだ、この地味な漫画には!

 

漫画として楽しいのは、家事のマニュアルが漫画の中に次々に登場してくること。クッキーのレシピ、折り紙の折り方、アイロンのかけ方などなどが図解入りで。この手法が後に『この世界の片隅に』の楽しい節約料理のシーンに繋がってくるのだなぁ。

そう考えると、『この世界の片隅に』は、『夕凪の街 桜の国』 のテーマ性と『さんさん録』の日常コメディの融合した先に生まれたものであるとも言えるかな。

 

不愛想で気難しい「じじい」が、なぜか愛しく見えてくる漫画。そして、心の持ちようひとつで人間はいつでも変われる。何歳であろうとも人生は面白く、なにげない日常や、ほろ苦い気持ちすら、楽しむことができる。そう感じさせてくれる漫画です。