つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『カスタムメイド10.30』

前記事からの流れで、トヨエツの『娚の一生』の映画がやっぱり観たくなって、近所のレンタルビデオ店に行ってきました。

そんでもって、目的の『娚の一生』を探していたら、ふと見上げた棚の隅に、昔観た映画のタイトルを見つけて、うわぁ、めっちゃ懐かしい……と思って衝動的に借りてきました。『娚の一生』も観たいけど、ちょっと先にこっちから観よう。

 

2005年に公開されたカスタムメイド10.30。 

木村カエラちゃんの女優デビュー作。初々しいカエラちゃんのたどたどしい広島弁がなんともいえず愛らしい。

ほんでもって、内容としては奥田民生広島市民球場ライブのドキュメンタリー】木村カエラ扮する少女の日常を描いた青春ドラマ】との融合、という、えーと、何を言っているのか分からないと思うけれども、実際に観たらですね、えーと、なおさら分からん、という非常に困った映画。ま、ぶっちゃけB級映画

監督さんはCMクリエイターさんなのかな?映画としてのまとまりは残念ながら残念な出来ばえで、カラフルなイメージ映像が無意味にカットインしてきたり、カエラ側のストーリーが進んだかと思うと唐突に民生側のドキュメンタリー映像に切り替わったり、そんで民生が歌ってる途中にまたドラマ側に戻ったりと、ちょっと何がしたかったんだろうと思うことしばしば。

キャスティングはそれなりに豪華ではあるのだ。

若き日の松山ケンイチ木村カエラのキスシーンなんてのもある。かなり引きの映像なので実際にチューしてるかどうかは分からんけど。他にも柳沢慎吾とかザ・たっちとか宮崎美子とかがチョイ役で出てきたりもする。元カープの名捕手・達川光男も声の出演しよるよ。

 

木村カエラ演じる主人公の小林マナモは18歳女子高生。両親の離婚と再婚によって一家はバラバラになり、マナモは広島の横川という小さな町でひとり暮らし。そのマナモのもとに、ある日、妹のミナモがイギリスから戻ってくる――というところから物語が始まる。

この舞台が「横川」である、というのが最高。逆に言うと、この映画は横川じゃなかったら成立しなかったんじゃないかしらん。

広島市民の皆さんには分かっていただけると思うんだけど、横川は、広島の市街地からは電車やバスですぐに行ける距離にあって、都会でもなく田舎でもない、お洒落なものと古くさいものが混在する、どことなく猥雑(カオス)な雰囲気のある独特な町。

横川のランドマークといえば、この映画の中にも登場する「竹田衣料品店」と「横川シネマ」、そして「ゴッドバーガー」。

竹田衣料品店はカオスとしか言いようがない店で、店内にごちゃっと溢れる服の山、そして手書きの値札には「10000円」と書かれた文字が赤ペンで消されて「100円」になってたりする、物量も価格設定も不思議きわまりない衣料品店

横川シネマは、JRの高架下にある、インディーズ映画専門の小さな映画館。私がこの映画を封切当時に観に行ったのが横川シネマで、客席に座ってスクリーンを観ていたら、スクリーンの向こうにも今まさに自分が座っている客席が映し出されて不思議な気持ちになったものです。

ゴッドバーガーは今はもう閉店したそうで、残念です。ファストフードではないハンバーガーショップで、注文してから作り出すので、お客さんの多い日は30分ぐらい待たされることも。でも美味しいので「横川にバーガー食いに行こう」というぐらい人気がありました。

他にも、横川には細い路地がたくさんあって、裏路地にちょっと入るとお洒落な喫茶店があったり可愛い雑貨店があったり、戦後の風景をそのまま残したような飲み屋があったり、散歩をすると色々な発見があって面白いのです。

で、映画の話に戻ると、マナモが抱えるモヤモヤした女子高生の心情と、映画自体の持つB級感・どう考えても詰め込み過ぎで洗練されていない感じとが、この「横川」という町の雰囲気と絶妙にマッチしていて、これが例えば「並木通り」であったり「尾道」であったりしたら全然かみ合わないものになっていたであろうなぁと思うのです。

 

この映画が真価を発揮するのは終盤30分。

2004年10月30日。その日は、マナモのアルバイト先であるキャバクラで、キャバ嬢仲間と結成したバンドの初ライブの日。そして広島市民球場では奥田民生のコンサートが行われる日。

金髪のウィッグを被り、ギターをかき鳴らしながらマナモ――木村カエラは歌い上げる。これがめっちゃくちゃ上手い。いや、今となってはそんなこと知ってるけど、この映画を観る前までは「主演は“木村カエラ”?あー、名前は聞いたことあるけどよう知らん。アイドル映画なん、これ?」という程度の認識だったから、このライブシーンには度肝を抜かれた。とりわけ『父ちゃんのメロディ』では、魂を揺さぶるような歌声、そして「歌いたいんじゃ!歌いたいんよぉ!」という絶叫に心を鷲掴みにされたのです。その瞬間、この映画が奥田民生ドキュメンタリー映画であるという事実を忘れてしまうぐらいに。

そして、ミナモと天使たちの導きによって、マナモは広島市民球場に足を踏み入れる。そこでマナモは、ギターの弦も切れるほどにかき鳴らし、喉も張り裂けんばかりに『ラーメン食べたい』を絶唱する奥田民生の姿を観客席から目の当たりにする。そして、自分の心を塞いでいた不機嫌の根源、自分が何を求めていたかを悟って、妹と微笑み合う――。

 

こんな感じで、ラスト30分は木村カエラVS奥田民生という、たいへん贅沢な競演となっておりまして、もうこの30分だけで、その他の部分の粗さには目をつぶってもいいとさえ思えるのであります。

個人的に言えば、あの時代の広島の風景――広島市民球場の小汚い感じとか、流川・薬研堀・銀山町あたりの歓楽街の様子とか、平和公園前の橋から見た光景とか――そういう懐かしさを含めて、この映画は心に残る、決して優れた映画ではないものの、こんなふうにふと思い出してみたくなる、そんな雑然とした魅力を持っているのであります。

 

そんでもって、ああ、イイ話ダナーとしんみりして終わるところへ、唐突にぶち込まれるエンディングでの奥田民生の謎ダンス」は民生ファンなら必見です。変な振り付けのダンスをグダグダと踊りながら、なぜか巨大化して広島の街を見下ろす奥田民生の姿で終わる。ああ、最後の最後までB級映画………(;^ω^)

 

ちなみに、この奥田民生のコンサート自体は別にDVD化されていて、私も持っているのであります。すごく聴きごたえのある素晴らしいコンサートなので、機会があったらぜひ聴いてみてくださいませ。 

ひとり股旅スペシャル@広島市民球場 [DVD]

ひとり股旅スペシャル@広島市民球場 [DVD]

  • アーティスト:奥田民生
  • 発売日: 2005/02/23
  • メディア: DVD