つれづれぶらぶら

例のアレの実写版ってどんななん?不安しかないんだが。

『世界は寒い』

「1999年、7の月に、人類は滅亡する」

 

昭和生まれには懐かしいフレーズではあるまいか。昭和48年に出版された『ノストラダムスの大予言』である。占星術師のノストラダムスがかつて予言したとされ、日本中にオカルトブームを巻き起こしたアレである。

もちろん、誰もそんな与太話を本気で信じていたわけじゃないのだ。

でも、20世紀の終わりが近付き、阪神大震災だのオウム真理教だのと世間がきな臭くなってきて、来るべき新世紀にもどうやら希望が持てそうもないことに薄々気づいていて、何となく暗澹とした気分になっていたあの頃。シンジ君、えばぁに乗りなさい。えっ、逃げちゃダメなの?なんでなんで?

そんな鬱屈とした、どことなく逃げ場のないような気分の中で、ある意味での救済となったのは、

 

「まぁ、どうせ、1999年になったら、世界は滅びるし」

 

という根拠のないイメージだったのだ。この世界は近く最終回を迎え、そこで全ての物事はうやむやになって消滅する。恋も愛も憎しみも日々のストレスからも解放される。最後の日にはどうやって過ごそうかな。最後には何を食べたい?あっはっは。

 

まぁ、当然のことながら、1999年の7の月どころか、12月も過ぎてゆく年くる年、2000年あけましておめでとうございます。あーあ。

……そんな、クッソくだらないこと、そういえばあの頃は割と真剣に考えていたっけなぁ、と高野雀さんの『世界は寒い』を読みながら、思い出していたのである。全2巻。 

世界は寒い(1) (FEEL COMICS swing)

世界は寒い(1) (FEEL COMICS swing)

 

それは、閉店間際のフードコートに忘れられていた。

紙袋に入った拳銃を拾ったのは、

バイトの女子高生6人組。

突然手に入れた武器を前に、彼女たちは思い浮かべる。

裏切られた元カレ、行き別れた父親、

支配的な母親――あるいは自分自身。

 自分たちの世界をより良くするために、

消えてほしいと願う人間を…。

(1巻カバー裏より引用)

 

「殺意」を軸に、6人の女子高生を描いたオムニバス青春ドラマ。

 

「死ね」が口癖で、元カレを殺したい古賀詩音。

膝を故障してバレー部を退部した吉川恵令奈。

自分を捨てた父親を殺したい三好咲良。

支配的な母親に抑圧され、自分を消したい早坂羽依音。

派手で男にモテるが、どこか不穏な岡村優花。

冷静でオタク気質、犯罪方面にも頭脳の回転が速い細野栞。

 

ひょんなことから拾ってしまった本物の拳銃。

警察に届けなきゃ、という古賀と早坂を制して、誰かを殺せるチャンスだと提案する三好と岡村。そこで細野は、拳銃と弾丸5発を1人ずつバラバラに分けて持たせ、各自が殺したい相手を決めて、決まったら1発ずつ使おうと提案する。 

うーん、いいねぇ、この細野の冷静なマジキチっぷり。それぞれがバラバラに持つことでお互いの牽制になるし、彼女たちは「共犯」という意識で結ばれる。完璧だ。

彼女たちはそれぞれに複雑な事情を抱えていて、とりわけ三好、岡村、早坂の抱える闇はかなり深い(古賀はいつも殺す殺す言ってるけど、その割には常識人なんだよな)。

 

で、なぜ私が不意にノストラダムスの大予言なんぞを思い出したかというと、この作品の中で、支配的な母親の抑圧に黙って耐えている内気な優等生・早坂が、自分に割り当てられた実弾をお守り袋の中に入れて、それを持っていると「なんだか強くなれる気がする」と笑顔で語るシーンがあるのだ。

周りの5人は、早坂が母親を殺したがっているのだと理解しているのだが、実は早坂自身は「『世界から消失する私』という希望」を心の中に隠している。

何もかも消滅してしまえば一番ラク。アンゴルモアの大王の復活を待たずとも、自分にとっての世界を消してしまうのはいとも簡単。でもそれは虐待され続けた者の発想だよ、早坂さん。

 

作品自体は、2巻のあとがきを読むところによると、どうやら若干の打ち切りっぽい背景があったらしく、後半の展開がちょっと詰め込んだ感じになっていて、岡村の過去のトラウマにケリがついてなかったりとか、吉川がただのイイ人で印象が薄かったりとか、色々と「もうちょっと見ていたかったな」という感想も無きにしも非ずではあるのだが、それはそれとして面白かった。彼女たちがお互いに悪態をつきながら、好奇心と共犯意識、そしてほんのちょっぴりの友情で協力するのもドライな感じで楽しい。

なお、高野雀さんのTwitterでは彼女たちの現在をちょっとだけ垣間見ることもできるのだ。このコロナ禍でも彼女たちはけっこうしぶとくやってるぜ。

 

最新作『しょうもないのうりょく』も面白いので読んでね! 

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