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『眠れる森』のために塩対応で後輩を追い返したあの夜

今週のお題「もう一度見たいドラマ」について、もうひとつ語らねばならない。あ、ちなみに前回の記事はこちらです。 

sister-akiho.hatenablog.com

『ギフト』にももちろんハマっていたのだけれども、私が過去最大にハマったドラマといえば、なんといっても『眠れる森 A Sleeping Forest』をおいて他にない。

1998年、フジテレビの「木10」枠。原作と脚本は野沢尚中山美穂木村拓哉のW主演。

眠れる森 DVD-BOX

眠れる森 DVD-BOX

  • 発売日: 2005/03/16
  • メディア: DVD
 

またキムタクドラマかいと言われそうだが、別にキムタクだから観ていたわけではなくて、あの頃、優れたドラマにはほとんどキムタクが出演していたという、それだけのこと。いやまぁ、もちろん木村拓哉さんは好きですよ。

ただ、私はあまり出演者でドラマを選ぶタイプではなくて、それよりも誰が監督か、誰が脚本を書いたかということのほうを重視するほう。だもんで、このドラマを観るきっかけは破線のマリス』で江戸川乱歩賞を受賞した推理小説家の野沢尚氏の書き下ろしミステリ・ドラマである、という前評判にそそられたことだった。 

破線のマリス (講談社文庫)

破線のマリス (講談社文庫)

  • 作者:野沢 尚
  • 発売日: 2000/07/15
  • メディア: 文庫
 

 『破線のマリス』は、確かに推理小説としてはアンフェアな部分があったとはいえ、ヒロインであるニュース番組の編集者が、映像素材を自分の意図に合うように巧みに編集してスクープ映像を作り上げまくる、という背徳感に溢れたスリリングな導入部分が実に強烈で、その勢いに飲み込まれるように最後まで一気に読んでしまった。自分の仕掛けた悪意の罠にじわじわと追い詰められていくヒロインの姿が哀れで、現代社会の闇を見ているようだった。

ちなみに、個人的にはこの続編である『殺されたい女』(『砦なき者』に収録)のほうが好きなのでした。『破線のマリス』にも登場している赤松という若い男性ディレクターが主人公のサスペンス小説。通報者を救いたいという正義感と、真実を暴きたいテレビマンの欲望との間で激しく揺れ惑う赤松くんの姿や、『破線のマリス』同様、素材を編集することでありもしない真実を捏造する展開がスリリングで面白いんですよー。

 

で、『眠れる森』に話を戻しましょう。

これは当時、ものすごく話題になりました。私が当時勤めていた岡山の営業所でも多くの人がハマっていて、金曜日の朝ともなると、皆が出社してきて「おはよう」よりも先に、「観た?観た?!」「観た観た観た!!!」「いやー!もう何あの終わり方!気になる!」「犯人、誰だと思う?」「やっぱ〇〇怪しいよね!!」「ああ、もう、来週の木曜まで待ちきれなーい!!!!!」という会話であっちもこっちも盛大に盛り上がっておりましたよ。上司に「お前ら、ええかげんに仕事せえー!」と怒鳴られるまで延々くっちゃべってしまうぐらい、本当に皆で興奮していたものです。

私はというと、周囲の仲の良い同僚たちに「木曜日の夜10時から11時までの間は、絶対にアタシん宅に来ないでね。電話もやめてね。電話線は引っこ抜いておくから、絶対に邪魔しないでよね」と宣言しておりました。当時、私は営業所にほど近い、繁華街の片隅にアパートを借りていて、夜中でもかまわず同僚から「今から飲みに行こうや」という声がかかる毎日だったのです。

そんなふうに言って釘を刺しておいたにもかかわらず、木曜日の10時にピンポン鳴らす後輩がいたんだな、これが。

「すみましぇ~ん、飲み過ぎちゃったんでぇ~、お水くだしゃ~い」と玄関先にへたり込む可愛い後輩Iちゃん。

「うるせえ。お前、今、何時やと思っとんじゃ。21時55分ぞ。そして今日は木曜日。帰れ帰れ、水飲んだらすぐ帰れ」

「えええ~。冷たいっすよ先輩~。あ、そっかぁ~、ねむれりゅもり、でしたっけぇ?アタシ観てないんですけどぉ、どんな話なんでしゅかぁ~?」

「やかましいっちゅっとんじゃ。ああ、もうすぐ始まる。アンタの相手をしとるヒマはないんじゃ。はよ帰れ。アタシをドラマの世界に集中させてくれ!!!」

「あ~、おトイレ行きたいっす~」

「と・っ・と・と・用を・足して・か・え・れ!!!!!」

可愛い後輩に対してヒドイ扱いではあるが、ちゃんと宣言しておいたにもかかわらず最悪のタイミングで訪ねてくるIが悪い。っていうか『眠れる森』を観ていないアイツが悪い。もし観ていたならば、木曜の夜にへべれけになるまで飲みまくるなんてバカな真似をすることはなく、仕事が終わったらまっすぐおうちに帰っていただろうに、ねぇ。ぷんすか。

あ、もちろん、木曜日の夜10時台以外はIちゃんには優しく接していましたよ。そこんとこ誤解しないで頂きたい。こんなに善良で親切な私をも虜にしていたドラマであるということをお伝えしたかった、の、です。ええ、私はイイ先輩です。ええ。

 

余計な話が多過ぎて全然ドラマの話にならないのが申し訳ない。このドラマにはたくさんの想い出があって、それを思い出すと岡山時代の青春の日々が蘇ってくるのですよ。

ドラマはというと、結婚を控えた女性・実那子(中山美穂)と、実那子を15年間ずっと見守り続けてきた謎の男・直季(木村拓哉)が、森の中で「再会」したことをきっかけに、実那子の中に眠っていた恐ろしい記憶が少しずつあらわになってくるというストーリー。

「記憶の改変」がメインテーマ。

「自分の家族は交通事故で死んだ」と信じていた実那子が、実は「両親と姉を何者かに惨殺され、その犯行現場で唯一生き残った次女」という壮絶な過去を記憶の奥に封印していた――なぜ忘れていたのか、そして自分の持っていた偽の記憶は誰が何のために書き換えたのか、そして、自分は惨殺事件の真犯人を目撃しているはずだがなぜか思い出せない――という、幾重にも入り組んだ謎が全編を通じて展開されます。

 

そして、物語のもうひとつの鍵となるのが「三角関係」

直季と、実那子と、その婚約者の輝一郎(仲村トオル)。

直季の恋人である由理(本上まなみ)、直季、直季の親友であり秘かに由理に想いを寄せる敬太(ユースケ・サンタマリア)。

さらに、物語の背景にはもう2つの三角関係が隠されているのですが、それはここでは語りますまい。

本上まなみユースケ・サンタマリアの演技が切なくてイイ。報われない恋と知りつつ、自らが傷つく方向に向かって進まざるを得なかった2人。結果的にこの2人の行動が物語の謎を解く大きな手掛かりとなるわけですが、それにしたって切ないよなぁ。

 

とにかく、毎話毎話、こちらの予想を覆すような展開が続き、引き(ラスト)がめっちゃくちゃ気になる終わり方になっていて、ええええこの先どうなるのぉー!と身をよじるようなドラマでした。あの人が犯人に違いない!と思っても、次から次へと怪しい人物が登場してきて、ヤキモキしてしまうのよね。

 

あ、そうそう、惨殺事件の「犯人」役の陣内孝則の演技も鬼気迫る感じで良かったのよね。笑顔でキムタクをビニールテープで縛り上げて山の奥に埋める陣内孝則。スコップでざっくざっく土を掛けながら、楽しそうに言い放つ。

「言えよ。『助けてください』」

「………」

「腐るか?ここで」

「……助けて、ください……」

いいよいいよこういうの。恐怖におののくキムタクも味があってイイよね(Sっ気)。

 

 主題歌は竹内まりや


眠れる森 主題歌《沉睡的森林》主題曲

このオープニング映像は、全ての物語を観終わった後でもう一度観るとすごく意味深い。特にキムタクとミポリンが最後に出会っていないところなんか、もう切なくてたまんないわ。

 

そんでもって、このドラマにハマりまくった私は、当然のようにシナリオも買いました。 

眠れる森

眠れる森

  • 作者:野沢 尚
  • 発売日: 1998/12/01
  • メディア: 単行本
 

シナリオを読むと、野沢さんの伝えたいことがよく分かる。そして、ミステリとしてどのように伏線を張ればいいのか、効果的な展開とはどうあるべきかなどなど、このシナリオから教えられたことは非常にたくさんあります。未だにこの一冊は手放せません。

悲しいことに、野沢さんはその後、自らの命を絶ってしまわれたのだけれども、私が野沢さんの小説やドラマから受けた影響はとても多くて、ぶっちゃけ、私の書いた『梅の花、色は見えねど…』なんて、『眠れる森』の影響もろ出しで恥ずかしくもあるんだけれども、ああ本当に、生きていらっしゃったら今頃はどんな作品をお書きになっていただろうか、と思うだに切ないのであります。冥福をお祈りいたします。