つれづれぶらぶら

一気にまとめて書こうとしたけど時間が足りないので、旅行の記事はちょこっとずつ書いていきますね。

『私をくいとめて』

あーあ映画でも観に行きたいなーと思いながら、いつものようにYouTubeで『モモウメ』を観ていたら、こんなアニメがUPされていたのだ。


【コラボ動画】すぐOL体操を踊らせてしまう私をくいとめてください…。<【SNSアニメ】モモウメOL編>

ふんふんコラボ動画ね、最近『モモウメ』は色んなところとコラボしてて好調だねー、と思っていたら、えええ、のんちゃん?のんちゃーーーん???!

なんと、のん(能年玲奈)ちゃんの新作映画とのコラボだという。しかもモモウメの2人も出演するとかなんとか言ってるし、えー気になるな、どんなんか調べてみよう。

kuitomete.jp

ほほー、綿矢りさの小説を映画化か。体内に横隔膜がある、じゃなくて「脳内に相談役がいるOLの話」。31歳おひとりさま女子の恋を描くラブロマンスらしい。まぁ、ざっくりした雰囲気はこちらの予告編をご覧くださいまし。


【祝・TIFF2020 観客賞受賞!】映画『私をくいとめて』本予告 〈12月18日全国ロードショー〉

予告を観た時点で、ああこれはもしかしたら「私自身」の物語かもしれないわ、と強いシンパシーを感じたので、よっしゃ観に行こう。さて、どこの映画館でやってんのかなっと。

……ああ、やっぱり、長野県内は1館しかやってないのか……(-_-;)

いつものことだけどね。私が観たい映画はたいてい近場でやってくれないというね。岡谷にも松本にも映画館はあるってのに、どこもかしこも某ヤイバばっかやってんのかよ、と脳内で悪態をつく私。でもまぁ、いつもなら特急あずさに飛び乗って新宿に走っていくとこだけど、それが今はできないっていう哀しさよ。

ただ、唯一の長野県内の上映館が「長野相生座・ロキシー」だったのが救い。夏に片渕監督のオンライン舞台挨拶を観に行った映画館、館内のコロナ対策も徹底されていて安心できるから。 

sister-akiho.hatenablog.com

というわけで、またしても長野市まで片道3時間かけて出掛けてきた。日曜日なので電車も空いていたし、映画館もお客さんが少なかった(悲)ので、ソーシャル・ディスタンス的には問題なし。映画文化的には問題ありまくりだが。

 

さて、映画について。

 

31歳のOL・みつ子(のん)は、他人との距離感をはかるのが苦手なおひとりさま女子。社内にも友達はほとんどおらず、唯一、先輩のノゾミさん(臼田あさ美)にだけ心を許している。

そんなみつ子は、ひょんなことから、取引先の年下営業マン・多田くん(林遣都)に、手料理をおすそわけすることになった。毎回毎回、タッパーを持って玄関先に訪れる多田くんに、肉じゃがやら何やらを渡してやるみつ子。多田くんはご飯を貰うと、上がっていくわけでもなく帰っていく。まるで托鉢僧と檀家のような奇妙な関係。

そんな煮え切らない関係について、みつ子は「脳内の相談役A」に相談する。Aは、みつ子が既に多田くんに恋していることを指摘し、もっと踏み込んでいくべきだと進言する。しかし多田くんとの関係が壊れることを懸念するみつ子には勇気が出ない。

分かる。分かるわみつ子。わかりみ~

なんせ私もおひとりさま歴が長かったもん。10代や20代ならドッカンドッカン当たりまくって粉々に砕け散っても復活できるけど、30過ぎたらもう残機は少ない、無駄弾は撃てない、ゆえに慎重にならざるを得ない。分かる~~~(;^ω^)

しかも、多田くんも多田くんでマジメ過ぎる奥手くんなのだ。どう考えてもみつ子に好意を寄せているとしか思えないんだけど、はっきりした意思表示がないんだもん。ってか食事に呼ばれてんのにバイクで来んなよ。ったく。

で、みつ子もみつ子で、実に難しい女子なのだ。

表向きは常に平然として、感情をあんまり外に出さないのに、その内面にはどろどろした感情が常に渦巻いている。ちょっとしたことにも過敏に反応して、混乱して、Aに相談しては気に入らない返答に悪態をついて、ネガティブなほうへネガティブなほうへとずんずん落ち込んでいく。傍から見れば、神経質で考え過ぎの面倒くさい女。

だが、分かる分かる。わかりみ~

そりゃ、おひとりさまを謳歌するほうが絶対に楽しいさ。私もひとりでどこへでも行って、自分の好奇心の赴くままに自分の時間を費やしていたもん。ってかサンプル食品作りって楽しそうね、私もやってみたいなー。

それに比べりゃ、会社の人間関係は面倒くさいことこの上ないし、セクハラやらパワハラやらジェンダーの壁やらに立ち向かっていくのもしんどいし。それ以上に恋愛は本気で疲れる。何が悲しゅうて相手の一挙手一投足にあんなにも心をすり減らさにゃならんのだ。めんどくさッ!

そりゃもう今すぐ逃げ出したくもなるよね。分かる。わかりみ~

 

演出面に目を向けると、見る人によってはちょっと分かりにくい映画かもしれない。

というのも、頻繁に「みつ子の妄想世界」や「回想」が映像中に入ってくるのと、場面転換がかなり急なので、そのへんの把握ができないと混乱してしまうかも。

みつ子はしょっちゅうAと大声で話し合っているのだが、心の中で話しているのか、実際に口に出しているのかが分かりにくい。広場で大声を出したシーンでは子供がビックリしているから声を上げてしまったことが分かるけど、飛行機の中で大声を出したシーンは妄想だろう。機内に乱れ飛ぶバルーンの映像はとてもユニークで美しいが、まさかあんなことが現実にできるはずないもんな。

 

さて、役者さんに目を向けると、のんちゃんを始め、好きな役者さんがけっこう出ていて嬉しい。

ノゾミさん役の臼田あさ美といえば『架空OL日記』での頼れる先輩・小峰さまであるが、同じく『架空OL日記』の酒木さん役の山田真歩が1シーンではあるが面白い役柄で登場しているのにニヤリとする。

ヘッドハンティングで来た凄腕上司・澤田役には片桐はいり。出番はさほど多くはないが、重厚感のある演技で印象に残る。

また、今かなり勢いに乗っている女芸人の「吉住」が、本人役で出演してネタをやっている。過去にテレビでも見たことがある吉住の持ちネタなのだが、この映画ではそれが単なる「おもしろ演出」に止まらず、物語中盤のクライマックスへと繋がるきっかけとして機能している。

そして、共演者の中で最も話題になっているのが、みつ子の親友・皐月を演じるのが橋本愛であるということだろう。言わずもがな、『あまちゃん』でコンビを組んだ仲である。残念なことに能年玲奈はもうその思い出を公に語ることができないのだが。つくづく理不尽である。

 

そうとも、理不尽だ。

のんちゃんは一見すると、ほや~っとした素朴な風貌で、いつもニコニコしている。だからなんとなく、何の悩みもないんだろうなぁってふうに見てしまうけれど、かつて能年玲奈であった彼女がのんになった経緯や、この映画や『この世界の片隅に』が民放の情報番組に取り上げられないことを考えれば、彼女が「平然として見える」ことがどれだけ大変なことか、考えるとぞっとする。

そう、『この世界の片隅に』の「すずさん」だってそうだ。知らない男の家に勝手に嫁がされて、戦局が厳しくなる中でも野草を摘んで楽し気にしている。だから皆はのんきな嫁さんだと笑っている。その微笑みの内側に渦巻いている感情について、誰も気に留めようとしていない。 

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だから、この映画の中で、みつ子がひとりになると凄まじい感情を剥き出しにしてくるのに、我々は驚く。でも、そりゃそうだ。皆だってそうでしょう。笑顔の裏に色んな感情を隠しているでしょう。忘れたい過去、隠しておきたい誰かへの嫌悪感、そんな自分への嫌悪感、弱い自分、逃げたい自分、嫉妬、後悔、誰か、私をくいとめて。

 

そんなわけで、この映画は8割笑えて、2割グサグサ刺してくる、実にわかりみ深い作品となっております。女子は観たほうがいいよ。いや、男子にも意外と刺さるかもしれんなぁ。のんちゃんと愛ちゃんが微笑み合っている姿を観るだけでも尊いので、『あまちゃん』ファンはもれなく観るべし。

 

あ、そうそう、モモちゃんとウメさんの「出演」はですねー、ほんの一瞬でございます。社員食堂のシーンを注意深くご覧ください。っていうかあれ出演じゃなくて設置って言わないかな(笑)