つれづれぶらぶら

栗林くんの記念Tシャツ申し込んだよん(*^^*)

『野球が好きすぎて』

たまたま手に取ってみた本の作者がプロ野球ファンだと、ちょっと嬉しい。

例えば、村上春樹さんが、東京ヤクルトスワローズがまだサンケイアトムズだった頃から神宮球場に通い詰めておられたこととか、『空中ブランコ』の奥田英朗さんが中日ドラゴンズのファンだとか、『博士の愛した数式』の小川洋子さんが大の阪神タイガースファンだとか、ね。

私、小川洋子さんは『薬指の標本』から入ったクチで、あの繊細で耽美的な雰囲気に惹かれて、ならばと、作者のエッセイを読んでみたところ、熱烈な猛虎愛を語っておられて、そのギャップに驚いた。『博士の愛した数式』にも江夏豊への愛が迸っていて、しみじみと読んだのだ。

人間、自分の「推し」を語るときが最も輝いている。ましてや、文章の表現者として最上級のスキルを持っている小説家の手にかかれば、なおさらである。

そんなわけで、図書館の新刊コーナーに、『野球が好きすぎて』という、そのものズバリのタイトルの小説が置かれていたのを見た瞬間、迷わず手に取ったのだ。だって、表紙にどう見てもカープ女子らしき女の子の絵が書いてあるんだもの。 

作者はどなたかなと思ったら、おや、東川篤哉さんではないか。今まで読んだことはなかったけれど、『謎解きはディナーのあとで』などのヒット作を連発している超人気作家であることは、もちろんよく知っている。

で、装丁がもう見るからにカープ推しなので、もしやと思って著者略歴を最初に見たら、おお、やはり広島県民(尾道出身だそうだ)なのですね。7歳、広島カープが初めてリーグ優勝をした1975年からの年季の入ったカープファンでいらっしゃるとか。いや、まぁ、広島に生まれた子供は高確率でカープファンになるべく洗脳教育を受けるので、そりゃあそうでしょう、そうでしょう。ありゃ宗教じゃけぇ。

 

警視庁捜査一課の若手刑事・神宮寺つばめと、その上司にして警部の神宮寺勝男(熱狂的スワローズファン)の「親娘燕」コンビが、奇妙な5つの殺人事件を捜査する。その途中で彼らは「謎のカープ女子」に出会うが、そのカープ女子は、神宮寺親子の説明を聞いただけで事件の真相を見抜いてしまう――という連作もの。

推理小説のジャンルとしては「安楽椅子探偵もの」に属する小説だが、トリックそのものは割とシンプル。松本清張推理小説のように社会問題や人間性に深く切り込むようなものでもなく、肩の凝らない「ユーモア謎解き小説」といった雰囲気だ。

なので、この連作は、推理そのものよりは「実際にプロ野球で起きた出来事とリンクした筋立て」を楽しむ、野球ファンによる野球ファンのための読み物であるといえよう。

新井貴浩の背番号28のカープユニフォーム」、「阿部慎之助の2000本安打」、「試合中断が長すぎた広島阪神戦」、「パットン冷蔵庫殴打事件」、「千葉マリン西日による中断」……ああ、どれもこれも野球ファンなら「あったあった」と頷ける、ここ5年以内に起きた印象的な出来事ばかりだ。カープ絡みの出来事が多いのは、やはり作者がカープ推しだからだろうか。

また、1年に1話ずつ、2016年から2020年までの5年間の物語になっている。したがって、1話目の「カープレッドよりも真っ赤な嘘」では、カープが25年ぶりの優勝を目指して快進撃を続けていることや、メジャーリーグイチローが日米通算安打の世界記録を樹立したことなどが話題になっている。最終話の「千葉マリンは燃えているか」では、このコロナ禍のプロ野球開催の難しさや、マスク着用が当たり前となった社会を描いている。

探偵役となる「謎のカープ女子」も、そのつど名乗る名前が異なる。2016年は「神津テル子」――そう、流行語大賞にもなった緒方監督のコメント「神ってる」にちなみ、2017年と2018年は「田中菊マル子」――田中広輔菊池涼介丸佳浩タナキクマルトリオにちなみ、丸がFAで読売に移籍して連覇が途絶えた2019年には「連覇タエ子」、ついに2020年は「暗黒トキ代」を名乗り出すのであった。うっ、ま、まだ暗黒時代が始まったって決まったわけじゃないもん、これから若鯉の時代がやってくるんだもん、うっうっ。

ま、こんな感じで、プロ野球ファンならニヤニヤしながら読めてしまう楽しい連作ミステリシリーズだ。野球ファンなら知っておきたい小ネタもたくさん詰まっている。あまり多くは言えないが、うーん、そうだな、智辯学園の「ジョックロック」は迫力があっていいよねぇ、なんて、曖昧にぼやかして言っておくとするか。


www.youtube.com

東川篤哉さんの小説にはこれまで縁がなかったが、これを機に少し読んでみようかな。レビューを斜め読みすると、他の作品にもちらほらカープ愛がにじんでおられるようだし。やっぱり創作家は自分の好きなものを小説にするのが一番筆が乗るんだね、とかなんとか言ってしまうと、自分自身の、首が、締まる結果に、なって、しまう、の、だ…………、ぐはぁっ!(吐血)