つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『海が走るエンドロール』

先日ちょっと話題になった漫画で、試し読みしたら面白そうだったので買いました。

『海が走るエンドロール』

ま、私がごちゃごちゃ言うよりも、試しに読んでみてもらったほうが早いんで、とりあえずリンク先から第1話を読んでみてくださいな。

arc.akitashoten.co.jp

夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れたうみ子

そこには、人生を変える衝撃的な出来事が待っていた。

海(カイ)という映像専攻の美大生に出会い、うみ子は気づく。

自分は「映画が撮りたい側」の人間なのだと――。

心を搔き立てる波に誘われ、65歳、映画の海へとダイブする!!

(コミックスカバー裏より抜粋)

このブログで過去に取り上げた作品との関連で言えば、『メタモルフォーゼの縁側』の舞台装置で『映画大好きポンポさん』をやっている感じです。

sister-akiho.hatenablog.com

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『メタモルフォーゼの縁側』は、夫に先立たれた75歳の市野井雪が「BL漫画」に導かれて、コミュ障の女子高生・佐山うららとともに同人誌即売会にブースを出したり好きな漫画家に会いに行ったりする物語。

『映画大好きポンポさん』は、社会不適合者のジーンと、落ちこぼれ女優の卵のナタリーが、「映画作り」への熱い情熱に突き動かされて作品を作り上げていく物語。

これら3作品に共通しているのは、いずれもスタート地点は「自分には無理だ」「こんなことしたらおかしいと思われるかも」というネガティブな感情から始まっていて、ところが登場人物同士の感情のぶつかり合いから、おそるおそる一歩ずつ前に進み、気づいたらもはや抑えようもないほどの強い情熱に飲まれ、かけがえのない唯一無二の世界を構築していくというもの。

そして、その情熱のスタート地点は、決して若者である必要はなく、恵まれた環境にある選ばれし者だけが得られるものでもなく、その人が「そうしたい」と思った瞬間が、いつだってスタート地点であるという話なのです。この『海が走るエンドロール』においては、それは「波」という形で形容されています。忘れかけていた映画への熱、映画を観る側ではなく撮る側であるという自分を発見した瞬間の、激しい感情の動きは、うみ子の足を掬い取らんとする大きな波そのものなのです。

そしてまた、感情の読み取りづらいクールな青年・海もまた、うみ子と出会い、映画を撮りたいという感情を強くします。最初は友人とのただの遊びだった――「ただの遊び」で済まなくなったのは自分、あきらめられなくなったのは自分。自分自身の傷ついた心に向き合った海は、うみ子のカメラの前で、弾けるような笑顔を見せます。

船を出すかどうか

…だと私は思う

その船が最初からクルーザーの人もイカダの人もいて

それは年齢だったり環境だったりで変わるけど

誰でも船は出せる

私はあの日

目の前に海があることに気づいた

…とっても

ゾクゾクした

(第5話)

それにしても、雪さんにしても、うみ子さんにしても、元気なおばあちゃんはなんて魅力的なんだろうね。身体は着実に加齢により衰えていくけれども、好奇心やチャレンジ精神は年齢には関係なく、人を内側から輝かせる。瞳の輝きとでも言いましょうか。

でもね、私もちょっとずつ「おばあちゃん」と呼ばれる年齢に近づいてきているわけだけれども、なんつーかな、偏見かもしれないけれど、そういう心の柔軟さっていうのは、どっちかっていうと女のほうが伸びやかかもしれないね。私の周囲のおばあさまたちも、ご主人さんを亡くしてから、海外旅行に行ったり韓流スターにハマったりジャニーズカウントダウンのチケット争奪戦に参加してたり、元気な方々がいっぱいいらっしゃるもの。私も死ぬまでにいっぺんでいいからフェスに行ってみたい。タオルぶん回して過呼吸熱中症でぶっ倒れたい。あとやっぱ大学かどっかで社会学をもっぺん学び直したい。文化人類学とか比較民俗学とか、ああでも考古学も面白そうなんだよな、フィールドワーク多そうだけど耐えられるかな、ああやりたいこといっぱいだ。

…脱線した。

『海が走るエンドロール』のコミックスの良いところは、もうひとつ、このカバーイラストがなんつっても良いですね。夢中になってカメラを回しているうみ子さんのどアップ。素敵な笑顔。私もこんな魅力的なおばあちゃんになりたいな。ならなくちゃ。絶対なってやる。