つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『偶然と想像』

『ドライブ・マイ・カー』があまりにも良くて、出来ることならもう一度観たいと願っている。近場で再上映してくんないかしらね。頼むよ岡谷スカラ座

sister-akiho.hatenablog.com

で、この監督の作品なら多分ハズレはあるまいと思えたので、有給休暇の消化を兼ねて、濱口監督の新作『偶然と想像』を観に甲府のシアターセントラルBe館まで出掛けてきた。それにしても、どうしてこんなに上映館が少ないの。オスカー獲るかもしれない監督だっていうのに、ねぇ。

『偶然と想像』は濱口監督のオリジナル脚本で、3本の短篇から成る。なお、パンフレットによると、このシリーズは全7篇の予定だそうで、今回の映画はその第1話から第3話ということらしい。

短篇なので、あらすじの説明はここではしない。まだ公開されたばかりだからネタバレも避けたいし(特に第3話)。とりあえず、次の99秒トレイラーを観ていただきたい。


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まぁ、そもそも、あらすじと呼べるほどのストーリーもない。『ドライブ・マイ・カー』のように誰かが死んだり殺したり旅に出たりするような物語の起伏はほとんどなく、あるのは、ただ、誰かと誰かが向き合って語り合う――ただひたすら語り合うだけ――の物語。

これは比喩でも誇張表現でもなく、本当に、ただ2人の人物が語り合っているシーンの連続なのだ。カメラは基本的に固定され、驚くほどの長回しで、延々と2人の会話を撮り続けている。しかも、その会話の背後にある登場人物たちの過去は全く映像化されない――全く、だ。

だから、登場人物たちが語らない限り、真実は明らかにされない。いや、その語っている事柄ですら、真実であるとは限らない。強がり、嘘、思い込み、記憶違い、それらが登場人物の言葉を覆い隠していて、何が真実なのか、観客は常に想像を巡らせていなければならないのだ。

 

この映画のテーマは、おそらく「ディス・コミュニケーション/コミュニケーション」ということなのだろう。

いや、『ドライブ・マイ・カー』でもそれは明らかだった。多言語(手話を含む)演劇という特殊な舞台装置。お互いの言葉が通じない中で、俳優たちは相手の言葉に耳を澄まし、理解しようと努力する。対して、家福は、妻と身体を重ねていても、その心が分からない。もっとたくさん語り合えば良かったのだと気づいた頃には、全ては失われてしまった後だ。

『偶然と想像』では、登場人物たちは懸命に「対話」を試みる。自分の心の深い部分で澱んでいるものを「言葉」にしようとすることは、大変しんどいことだ。見なかったふりをして口を閉ざしていれば傷つかなくて済むのに、彼ら/彼女らは、まるで心療内科のカウンセリングでも受けているかのように、必死になって言葉を紡ぐ。それは時として痛々しくもあり、美しくもある。

そして、誰かが本質的な言葉を口にするとき、カメラはその人物を正面から真っすぐに映し出す。観客はその誰かに真っすぐに向かい合う形になる。彼らが発する言葉が、観客の心の中に真っすぐに飛び込んでくるのだ。

 

それにしても、やっぱり、脚本が良い!

脚本集が売り出されたら是非とも買いたい。恐ろしいほどのテキスト量だけれども、無駄な台詞が一つもないというか、細部まできっちり作り込まれている。聞くところによると、俳優にはそのキャラクターの背景となるエピソードのシナリオが別に配付されているそうで、例えば、西島秀俊さんと霧島れいかさんには「家福夫妻が娘を亡くした時期のシナリオ」が渡され、映画の収録とは別に、そのシーンの練習があったそうだ。そういうサイドストーリーのシナリオ込みで、どっかの出版社さんが本にしてくれないかなぁ。欲しいんだけどなぁ。

 

ネタバレを避けて語ろうとすると、こんなふわふわした感想にしかなんないね。本当はもうちょっと踏み込んで、シーン単位で語りたい気持ちもあるんだけど、ま、我慢しましょ。

ああ、でもひとつだけ言うと、第3話のラストは良かったなぁ。最後にようやく「思い出したこと」を、彼女に伝えに走る。何を思い出したかって、それは第三者が聞いたら何ていうことのない小さなことなんだよなぁ。でも、そこまでの会話――お互いの心の深い部分をまさぐるような会話(第1話ふうに言えば「エロい会話」)の末に、ようやくその小さな記憶を彼女たちは共有する。その相互理解の形を最後に示すことで、後味の良い映画に仕上がっている。

ま、とにかく観てください。素晴らしい映画です。『ドライブ・マイ・カー』が気に入ったなら、こっちも多分気に入るはず。願わくば上映館がもっと増えてくんないかしら。

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なお、気にはなるけど、感染症が怖いから劇場には行きたくないわ、という方には、ヴァーチャルシアター(要するに配信版)が用意されているようですよ。詳しくは上に貼った公式サイトをご覧あれ。期間限定らしいので、気になった方はお早めに!

 

あ、そうそう、もうひとつだけ。

この映画のレーティングはPG-12なんだけど、映像的にはたいしてエロティックではございません。絡みのシーンはあるけど、ブラ外すまで至らないしね。じゃあエロくないのかと聞かれたら、うん、映像的にはさほどエロくないんだけどね、映像的には…………ただテキスト的には、延々とエロいシーンが、かなり直截的にエロいので、うん、やっぱりお子さまを連れては行かないほうがいいと、思うよ、うん…………(特に第2話が…………)