つれづれぶらぶら

うああああマジか!!!ウナギイヌさんがカープに来る!!!マジか!!!

『きのう何食べた?シナリオブック ドラマ編』

名古屋に行ったついでに、ジュンク堂書店へ立ち寄ってみました。諏訪にはこういった大規模書店がないので、店内に入っただけでも胸が躍りますね。いや、最近はなんでもかんでもネットで注文しちゃいがちなご時世ですけれども、私としてはやっぱり本は手に取って選びたいほうです。そのせいで予定していなかったものまで衝動的に購入しちゃうこともありますが、それはまぁ、ご愛敬ってことで。

月刊『ユリイカ』の2018年9月号を見つけたので即買い。この号は、映画『寝ても覚めても』の公開を記念して「特集 濱口竜介」と銘打って、濱口監督の過去作品に関する批評や対談が多く掲載されているとのことで、ちょっと欲しいなと思ってたんです。

まだ読みかけだけど、ものすごい情報量。しかも硬派な芸術批評誌だけあって、ひとつひとつのシーンについてしっかり深く掘り下げています。映画に関する教養がないとなかなか読みこなせないのが難しいところ。でも、何気ない短いシーンに対して監督やスタッフが熟慮を重ねていることがよく分かって、本当に面白いです。これはじっくりと時間をかけて読んでいきたい。

そんでもって、本当は『ドライブ・マイ・カー』のシナリオが掲載された月刊『シナリオ』の2021年11月号を探していたんだけど、こちらは見つからなくて残念。ま、ネット上でも売り切れってなってるから無理だろうとは思ってたんだけどね。っていうかシナリオ集を出してください本当に。絶対買うんで。お願いしますよ。

 

そんなことを考えながら本棚を眺めていると、おっと、ドラマ版の『きのう何食べた?』のシナリオ集が出版されているではないかーッ!

もちろん、見つけた瞬間に即購入ですよ。だってあのドラマ、本当に好きなんだもん。大好きなよしながふみ先生のお気に入りの漫画が原作、その宝物が実写化されるだなんて、一歩間違えたら最悪ですよ。ただでさえ「漫画原作の実写化は地雷」って言うじゃないですか。ええ、アレとかアレとか。こちとら宝物を幾度となく踏みにじられてきたんでィ。あーッ思い出すだけでも腹が立つ。

それがね、本当に、このドラマに関しては、第1話を観た時点で「ブラボー!」と叫んで真夜中のテレビ前でスタンディングオベーションしたくなってしまったぐらい、原作のイメージそのまんま、主役2人にいたってはよしなが先生の筆先から飛び出してきたのかというぐらいにハマってて、お部屋の雰囲気もばっちり、音楽も気が利いてて、そして料理がめっちゃ美味しそうで!

やっぱりね、実写化の成功の可否を決めるのは「原作へのリスペクトを感じるか否か」ですよ。どんなに人気の脚本家、監督、キャストを揃えたって、原作が主張しようとしている核の部分を安易にいじくって「オリジナリティ!」なんてドヤられたんじゃ鼻白むばかりですわぃ。いや、アレンジが全部ダメとは言わないよ。必然性があって、原作の伝えたいことを邪魔しないのならば、ね。

このドラマは全話視聴して、お正月スペシャルも、劇場版も観たけど、全くガッカリさせられることが全然なくて、むしろ原作のエピソードを上手に繋いでいることに感心していたんです。

sister-akiho.hatenablog.com

シナリオや絵コンテはあくまでも制作過程の一部にあるものだから、我々はただ完成品を味わえば良いのだという意見にも頷けるところではあるけれども、それでもやっぱり私はシナリオや絵コンテを覗き込んでしまいたくなる。なぜなら、そこには監督や脚本家の意図が明確に書き込んであるからなのです。ト書きや、台詞の順番、声にならない「……」という台詞、カットの切り替え。それらの書き込みから、このシーンではこういうことを伝えたいんだぞ、という意図を読み込むのが楽しいのです。

そして、もっと楽しいのは、原作、シナリオ、完成した映像を見比べて、それらの違いが意味するところを読み解くこと。

今回、このシナリオブックで注目したのは、ドラマの第8話でした。テツさんとヨシくんのカップルを巡る物語です。

原作では、第4巻の#25から#26までの話です。そこに、本来はこの話に関係のない第3巻の#23(佳代子さんと桃を半分こする話)を、ごく自然な形で混ぜ込んであります(この桃のエピソードを挿入した意図については、この本の中に収録されている、脚本家の安達奈緒子さんと原作者のよしながふみ先生の対談の中でも触れられています)。

この第8話の山場となるシーンは、テツさんが自身の遺産相続について「故郷の両親にはビラ一文だって渡したくない」と心情を吐露するくだりです。この台詞は、原作のテツさんは穏やかな微笑みを浮かべたまま淡々と語ります。この「淡々と」というのが、かえってテツさんの過去に何があったのかを読者に想像させるのですが……。

対して、ドラマ版では、この台詞の直前までは穏やかな微笑みを浮かべていたテツさんが、苦しそうに胸を押さえ、絞り出すようにその台詞を発する、というシーンになっていました。思わず手を握って支えようとするヨシくん、その2人の姿を心配そうに見守るケンジという構図で、原作とはニュアンスが違うと思いながらも、キャスト4人の心のこもった演技が生み出す画面の緊張感の素晴らしさが印象に残ったのでした。

さて、あのシーン、シナリオではどう書かれていたのだろうか、と気になっていたのでした。それはこう書かれていました。

史朗「ご両親には3分の1の遺留分があります。テツさんの財産の3分の1は、お父様とお母様のもとに渡ります」

テツさん「そうなんです」

テツさん、穏やかな顔でうなずく。

その穏やかな顔のまま、少しだけ声に力が籠もる。

テツさん「でもね。僕は、僕が今まで歯を食いしばって稼いできた金を、いなかの両親にはビタ一文だって渡したくないんです」

史朗「……」

賢二「……」

テツさんの声色に、過去の両親との確執が透けて見える。ヨシくんは黙って話を聞いている。

(『きのう何食べた?シナリオブック ドラマ編』P174~P175)

どちらかと言えば原作に近い描写ですが、テツさんの声がここでわずかに変化することを示しています。このシナリオを受けて、現場において、監督やキャストの意見を取り入れて完成したのがあのシーンでしょう。黙って話を聞いていたヨシくんが思わずテツさんの手を握るのは、キャストの身体から自然に生まれた動作だったのかも。

同じ8話の中で、シロさんがケンジを大切に思っていることを知って感動した佳代子さんが、自分用の桃をひとつ「おまけ!」と言ってシロさんに渡すシーン、シナリオのト書きではただ「桃を史朗のほうに移す」としか書いてないんだけど、映像では佳代子さんがシロさんの頬っぺたに桃をぷちゅっと押し当てるというキュートなお芝居になっていて、これなんかは多分アドリブでしょうね( *´艸`)

あとね、お正月スペシャルのラストシーン、シロさんとケンジが誰もいない真夜中の商店街を相合傘して歩くドラマオリジナルのくだりなんですが、あれね、シナリオだと、ケンジが相合傘してみたかったのと言ってシロさんを傘に入れて歩くという内容なんですが、実際のドラマでは……、ああ!これはぜひ実際の映像を見てほしいなぁ!めっちゃ尊いんだもの( *´艸`)

原作のテーマのひとつが「シロさんの成長を描く」ことであって、それをこのドラマはしっかり押さえてくれてて、原作にあるいくつかのエピソードを上手に繋いで、1話ごとにシロさんが後悔や反省を乗り越えて、ケンジや両親、周囲の人々との関係を通じて人間として成長していく様子を分かりやすく表現してくれている。その認識をスタッフとキャストがきちんと共有したうえで丁寧に作っていることが分かるので、だから私はこのドラマがとても好きなのだなぁと再認識したところです。

 

ところで、安達さんとよしなが先生の対談の中で、続編の話題がちらりと……。ケンジと佳代子が遭遇するエピソード、シロさんとケンジの家族が鰻屋に行くエピソード、シロさんの元恋人のエピソードなど、次回作があるならこのあたりを……という話題の締めに、シロさんが老眼鏡をかけるエピソードも書きたい、と。

西島秀俊さん演じるメガネ男子のシロさん!!!

それは!!!絶対に!!!!観たいぞ!!!!!