つれづれぶらぶら

デニムリュック買えなかった。トグルボタンニットは買えたよ。わーい。

『犬王』

ロック・フェスのライブビューイングを観てきた。

……と、言いたくなるような映画だった。『犬王』の話である。

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前に、この映画の原作である古川日出男さんの『平家物語 犬王の巻』を読んでいて、ああ、これを湯浅監督が映像化したらさぞかし素晴らしかろうと思ったのだが、その期待を遥かに越えてきた。

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壇ノ浦での源平合戦から200年後の室町時代。壇ノ浦で平家の遺品を拾って生計を立てていた少年・友魚(ともな)は、草薙剣を目にしてしまったことで失明し、琵琶法師の弟子となって京に上る。

その少し前。京では琵琶法師が何者かに襲われ惨殺されるという事件が相次いで起こっていた。

その数年後。瓢箪の面をつけた異形の子どもが、人々を脅かしては愉しんでいた。その異形の子・犬王と友魚は出会い、2人は音楽と踊りを通じて意気投合する。そして彼らの歌と踊りは、それまでの猿楽能の世界に強烈な革命を起こすのだった――!


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やっぱり湯浅監督はセンス・オブ・ワンダーの人である。

序盤、失明した友魚が旅に出るくだりで「友魚の視界」が映像化されるのだが、これがまた良い。一面の闇の中に、シネカリグラフィーのような形で雨の筋が描かれ、鳥が鳴き、炎が揺れ動く。繊細で幻想的な映像である。

また、美しい脚を得た嬉しさのあまり、長い腕を振り回しながら幼い犬王が市中を疾走するシーンも良い。屋根から屋根へ、自由奔放に跳ね飛ぶ姿のなんと面白いこと。


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そして、後半のミュージカル・シーンの映像の面白さは湯浅監督の真骨頂だ。

だからさぁ、もう、あれはロック・フェスそのものなんだって。奇抜な仕掛けがあって、プロジェクションマッピングふうの舞台装置もあって、ワイヤー・アクションさえもあって、もう身分の上下も関係なく興奮のるつぼ、クラップヨーハーンズ、メイクサムノーイズ!踊れや踊れ、騒げや歌え!


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欲を言えば、ミュージカルシーンには字幕が欲しかった(公式パンフレットには歌詞が載っているのだが)。原作を読んでいて、さらに『平家物語』も読んだばかりだから、なんとなく何を歌っているのかはぼんやり分かったけど、平家物語を読んでいない人には何が何やらという感じだったかもしれない。『鯨』なんか特に面白いシーンだけど、壇ノ浦の合戦を知らないとなんでいきなり鯨なんだと思われそう。

 

あと、原作の『平家物語 犬王の巻』を読んでいない人にとっては、後半、いきなり友一(友魚)が歌い出してロックミュージカルになるのに面食らったかもしれない。あれは完全に「原作どおり」の展開なのだ。原作でも、前半はどこかの琵琶法師の静かな語り口で始まるのだが、いきなり途中で登場人物の友一自身がマイクを奪って「見届けようぜ!」と読者を煽り始めるのだ、本当に。

なので、この映画そのものは割と原作に忠実に出来ている。古川日出男さんのクセの強い文体の上に、湯浅政明監督のクセの強い演出が乗っかっているわけだ。脚本家の野木亜紀子さんは相当なご苦労をされたのではないかと思うのだが如何に。

そして、何といってもキャストが良い。友魚を演じるのは森山未來、犬王を演じるのは女王蜂のアヴちゃん。この2人は『モテキ』でも共演していたっけね。どちらも溢れんばかりの才能を持った稀代のアーティストで、私も大好きなのだ。ラスト近くの2人のハーモニーは痺れるほどかっこいい。

また、アヴちゃんは湯浅監督の『DEVILMAN crybaby』にも魔王ゼノン役で登場していたのだが、登場シーンが少なくて残念だった。しかし、アヴちゃんが歌う『デビルマンのうた』はかっこよかったなぁ。


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DEVILMAN crybaby』を思い出したことでふと気づいたのだが、そういえばこの『犬王』との間には、虐げられたもの、差別されたもの、「邪悪」のレッテルを貼られたものへの視点という点で共通点が多いなと思った。友魚も犬王も呪われし子であり、デビルマンも悪魔と合体してしまった人間である。その彼らの熱意が民衆を動かす。しかし、真に美しいものへと懸命に伸ばした彼らの手は、最終的には大いなる力によって断ち切られてしまい、歴史は閉ざされる――大枠で括れば、どちらも同じ物語だ。呪いを受けたほうと呪いをかけるほう、真に邪悪なのは――地獄に落ちるべきは――どちらなのかしらね。

 

まだ上映したばかりということもあるので、これ以上深く語るのは避けるが、とにかく面白かった。ただ、ロックフェスのライブビューイングのような映画であるという印象だということは繰り返しお伝えしておきたい。平家物語能楽、琵琶法師、ふぅん、和風のお話なのね、という認識を持って鑑賞するとかなりギャップを食らうことになるぞ、というね。ギターとドラムがギュオンギュオンドガシャーン鳴ってるからね。

そして、これはとにかく映画館で観たほうがいい、ということも言い添えておく。やっぱり良い音響に包まれて観てほしいなぁ。パソコンやテレビやスマホの貧弱な音ではこの「フェス」の没入感は味わえないだろうて。

っていうか、コロナ禍が明けたらでいいから、応援上映の形でもう一度観てみたいなぁ。手を叩いて、一緒に歌って、足を踏み鳴らして愉しみたいのだ。フェスシーンだけを再構成して流すのも楽しそうね。

 

あ、あとエンドロールが可愛かったな。カラフルな亡霊ちゃんたちがキャッチボール?したり踊ったりしてるの。かーわいいー。