つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『マイ・ブロークン・マリコ』

今年の秋は、観たい映画がけっこう多い。

差し当たっては、9月30日封切の『マイ・ブロークン・マリコ』と『四畳半タイムマシンブルース』はどちらも観ておきたいと思ったのだ。ところが、いつものことではあるが、近場で上映されていないのであった。ちくしょう。

かくなるうえは、まぁ感染症もだいぶ下火になってきたことではあるし、いつものように軽率に東京に映画を観に行ってやれと思って調べてみたら、おっ。立川シネマシティ(シネマ・ツー)でちょうど両方やってるじゃないか。しかも上映時間の並びもいい。特急電車との兼ね合いもいい。ついでに言うとシネマ・ツーのすぐ近くにクラフトビールを売っているお店もいくつかある。ほっほっほ、映画2本観てビール買って帰る、そりゃナイスな休日の過ごし方じゃないか。

しかもこの土曜日は「1日」、映画が安く観られる日。いつもは1本1900円の映画が700円引きの1200円になる。2本観れば1400円のお得。おお、ビール代が浮くぞ。最高じゃないか。行こう行こう。ってなわけで、本日10月1日の土曜日、1人で特急あずさに乗って立川まで映画を観に行ってきたのである。

 

先に観たのが『マイ・ブロークン・マリコ』である。


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原作は、平庫ワカによるコミックである。2019年にWEBコミックで公開されるや否や爆発的な反響を呼び、「この漫画がすごい!2021年」オンナ編第4位、2021年文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞などの高い評価を受けた。

第1話のボイス付き試し読み動画があるので、原作漫画の雰囲気を知りたい方はまずこちらをご覧あれ。


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幼い頃から虐待を受け続け、そのために精神を病んだマリコ。そのマリコの突然の死を知った親友のシイノは、マリコの遺骨を奪い取り、かつて2人で約束したあの海へと旅に出る――という物語。

主人公のシイノは、化粧っ気のない顔にぼさぼさ髪、ヘビースモーカーで口が悪く、薄汚れたコートと履きつぶしたカビ臭い靴を履いている。感情を剥き出しにし、汚い言葉で悪態をついたかと思えば、鼻水を垂れ流しながら激しく泣く。

この、お世辞にもあんまり美しいとはいえないヒロインを、永野芽郁が演るというのだ。可愛く明るく清純で、つやつやの真っ白な肌に愛くるしい目鼻立ち。そんなパブリック・イメージからすると、ミス・キャストじゃないのか?とさえ思ったのだ。

いや、もちろん『地獄の花園』でヤンキーOL役を演ってたりはしたよ?でも、あれはコントだという前提があったから。清純派女優がオラオラの台詞を喋るというギャップで笑う、という仕掛けだったからさぁ。

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でも、今回はコントじゃない。ガチだ。あの永野芽郁が包丁やフライパンを振り回して怒鳴る、暴れる、ラーメンをすすり、飯をかっこむ。鼻水をだらだら垂らしながら泣く。そこにいつもの可愛らしい永野芽郁はおらず、「シイちゃん」がいた。

そして、マリコを演じる奈緒もまた、鬼気迫る演技を見せてくれる。全身に痣を作りながらへらへらと頼りなく笑い、たった一人だけ心配してくれる親友のシイノに依存し、友情という鎖でシイノを束縛する。その壊れた心のさまを、見事に演じ切っている。

そのマリコのクズな親父は、いやホンマに救いようのないクズ親父だったわけだが、エンドロールで「尾美としのり」という名前を見てビックリした。大林映画で多感な少年を演じていた彼が、こんなクズ親父を演じるなんてなぁ。遺骨を持ち逃げされた瞬間の表情が、さまざまな感情を含んでいて良かった。やっぱり上手いね。

 

公開したばかりの作品なので、内容の説明はここではしないことにする。虐待や共依存といったかなり重めのテーマを扱っているので、そういう内容が苦手な人には少々キツいかもしんない。

ただ、ずっと暗いばかりではなく、若干ではあるがクスッと笑えるシーンもいくつかあることはある。特にマキオとの別れのシーンは、しんみりした後だけにちょっと笑った。

あと、映画全体の色彩感覚が良い。原作漫画の持つ、醒めたような褪せたような微妙な色合いが上手く表現されている。秋の海とススキのコントラストも寂しげで美しい。

 

ところで、映画の中でほんの一瞬だが、この立川シネマシティのシネマ・ツーが登場するのである。えっ、此処、ついさっきジンジャーエールを買ったとこじゃん?ってビックリしてしまった。立川に観に来た人だけのお楽しみと言えるかもしんない。立川でご覧になる方はお楽しみに。短いシーンだけど。

 

あと、パンフレットがマストバイである。平庫ワカの描き下ろし表紙イラストだけでも豪華だが、スチール写真、キャスト紹介、スタッフ紹介、キャストやスタッフへのインタビューなどなどコンテンツも多く、そしてなんと決定稿のシナリオが丸々収録されているのだ。良い映画を観るとシナリオを読みたくなる私にとっては、これはもうめっちゃ嬉しいサービスである。あ、だから上映前にパンフレット買う派の人は先に読んじゃダメだよー。あのシーンのあの表情がどのような意図で生み出されたか……などなど、映画を観た後でシナリオを読むと理解が深まってなお充実感がある。買うべし。

 

『四畳半タイムマシンブルース』については、次の記事にて。

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