つれづれぶらぶら

カセットテープミュージックで久々に「レインダンスが聞こえる」を聴いた。こんなカッコいい曲だったかな。懐かしいな。

「先生、来てよ。」とあの子は言った、広島弁で。

「他県の方々に伝わりにくい広島弁」について、第2弾。前回はこちら。

sister-akiho.hatenablog.com

今回は、尊敬語の表現、とりわけ「て」に注目してみたいと思います。

広島弁、ここでは広島県西部のいわゆる「安芸方言」を指しますが、その尊敬語の表現は、知らない人には聞き逃されやすい、あるいは、誤解を招きかねない言い回しなのですね。たとえばこんなワンシーン。

(♪学校の始業チャイムの音)

「うぉぉ!もうちょいでレベルアップするでぇ!」

「あんたら、早うゲームやめんと、先生、来てよ

「まだ来てんないわいや、もうちょいで終わるけぇ」

「先生、来ちゃったよ!」

「おーい、授業を始めるぞー。あ?ゲームしよんは誰なら?」

「げーっ!没収されてしもうた!」

これを共通語に変換すると、こうなります。

「うぉぉ!あとちょっとでレベルアップするぞ!」

「あなたたち、早くゲームをやめないと、先生がお越しになるわよ」

「まだ来られやしないよ、あとちょっとで終わるからさ」

「先生がお見えになったわよ!」

「おーい、授業を始めるぞー。むっ?ゲームをしているのは誰だ?」

「げーっ!没収されちゃったよ!」 

気持ち悪いですね。こんな喋り方するやつ今どきおらんじゃろ。

さて、内容はともかく、赤字で示したところが尊敬語の表現になります。

「来る(くる)」の尊敬語の過去形、お越しになった、来られた、お見えになった、に当たる表現が、安芸方言では「来ちゃった(きちゃった)」になります。可愛い響きですよね。共通語だと「来てしまった」という意味に受け取られがちですが、これが広島弁だと尊敬の意味になるわけです。老若男女問わずフツーに使います。「来んさった(きんさった)」と言うこともありますね。

で、これが現在形、あるいは未来形だと、一気に縮まって「来て(きて)」になります。この「て」の一言で尊敬の意を表すのですが、これがあまりにもさりげなさすぎて、他県の人には通じんのよのぉ。

例えば、『この世界の片隅に』の晴美さんのこんな台詞を覚えていませんか。

「お母さん、大和がおってじゃ

この「おって」という短い言葉が「いらっしゃる」という意味の尊敬語だと分かっていると、晴美さんは戦艦大和に対して尊敬の念を抱いていた子なのだなぁ、としみじみ悲しゅうなるんですがねぇ……(涙)

それはさておき、先ほどの例文に戻ると、「来る」の尊敬語の否定形、お越しにならない、の言い方は「来てんない(きてんない)」になります。「来んさらん(きんさらん)」と言うこともありますが。

この「来てんない」は「来」+「て(尊敬)」+「ない(否定)」の組み合わせで、それだと「来てない」になりそうなもんですが、間に「ん」が挟まるあたりが可愛らしい。広島弁まる出しのイカツい男性が「部長、おってんなかったで(いらっしゃらなかったよ)」なんて言っている姿はなかなかに愛らしいものがありますよ。

さらにややこしくしてみよう。「来る」の尊敬語の現在進行形、こちらにお越しになっているところだ、はどうなるかというと、「こちらに来ちょって(きちょって)じゃ」になります。「来」+「ちょる(進行形)」+「て(尊敬)」の組み合わせですね。広島弁の現在進行形は「~しちょる」または「~しよる」または「~しとる」の形で表されます。厳密に言うと「しよる」と「しとる」は少しだけニュアンスが違う気もするけど、まぁだいたい一緒です。

はい、以上を踏まえたところで、では、次のシーンを解読してみましょう。

(昼下がりのオフィスにて)

「はぁ、ぼちぼち常務が乗ってん新幹線が広島駅に着く時間じゃのぅ」

「出迎えに行った係長から、さっきメールが来ましたよ。無事に着いちゃったそうなです」

「ほぅか、ほいじゃぁ良かった。ほいでのぅ、今夜の親睦会の後じゃが、わし、薬研堀の八昌にお連れしようかぁ思うとるんじゃ。前に、お好み食うてみたい言うとっちゃったけぇのぉ」

「ありゃ、ほりゃぁいけんですよ。たった今、係長からメールが来て、昼食に麗ちゃんで肉玉そばダブルを食べよってんですと」

「ほんまかー。昼にお好み食べとっちゃったら、夜にゃぁ、はぁ、食べてんなかろうのぅ。どがいしようかのぅ」

何を話しているのか、お分かりになったでしょうか。

ちなみに、広島は「3B」すなわち、BUS(バス)、BRIDGE(橋)、BRANCH(支店)が多い街だと昔からよく言われています。東京の本社から役員が視察か何かの用事ではるばるお越しになる、広島支店を挙げて精一杯おもてなしをしなければ、というシーンでしょうか。

では、共通語に訳してみましょう。

(昼下がりのオフィスにて)

「もう、そろそろ常務がお乗りになっている新幹線が広島駅に着く時間だな」

「出迎えに行った係長から、さっきメールが来ましたよ。無事にお着きになったそうです」

「そうか、それなら良かった。それで、今夜の親睦会の後なんだが、俺、広島市中区薬研堀(やげんぼり)にある広島風お好み焼きの人気店、八昌(はっしょう)にお連れしようかと思っているんだ。前に、広島風お好み焼きを食べてみたいとおっしゃっていたからね」

「あら、それはいけませんね。たった今、係長からメールが来て、昼食に広島駅ビル内のekieダイニング1階にある広島風お好み焼きの人気店、麗ちゃん(れいちゃん)で、豚肉・玉子・中華麺2玉入りの広島風お好み焼きをお召し上がりになっているところですって」

「本当かい。昼食に広島風お好み焼きを召し上がったのなら、夜食には、もうお食べにはならないだろうなぁ。どうしたもんだろうか」

広島人ならね、昼にも夜にもお好み食べたって平気ですけどね。ですが、一見すると薄っぺらく見えても、中には蒸したキャベツやもやしなどの野菜がぎっしり詰まっていて、そばやうどんなども入っていますから、見た目以上にボリュームがあるというか、他県の方々は「意外とお腹いっぱいになるね」っておっしゃいますね。慣れないうちはダブルは避けたほうが無難でしょうなぁ、ってそんなことはどうでもいいですね。

耳で聞いているだけでは非常に分かりづらい広島弁の尊敬語表現、少しでもお分かりいただけましたでしょうか。それでは今日はこのへんで。よかったら、また読みに来ちゃってつかぁさいや~(^_^)/