昨年秋にTBS系列で放映されたテレビドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。たいへん話題を呼んだ面白いドラマでしたが、ご覧になりましたか?
竹内涼真くんが演じる「勝男」は、昭和の価値観に染まった亭主関白男。夏帆さん演じる「鮎美」は、そんな勝男の理想を具現化したような「完璧な彼女」。2人はお似合いのカップルのはずだった。けれど、勝男からのプロポーズを鮎美は「無理」と一蹴するのだった────という、男女の別れから始まる物語。
このドラマの中では、勝男と鮎美の価値観の違いがしばしば浮き彫りになります。それを象徴するアイテムのひとつが「酒」。
付き合っていた頃、勝男は「鮎美はお酒が飲めない」と勝手に思い込んでいました。しかし本当は、鮎美はお酒に強い体質で、特にテキーラが大好き。勝男と別れた後で、酒屋の店員・ミナトと一緒にテキーラを飲みながら、鮎美はこう言うのです。
「前につきあってた人が女の子はみんなお酒が弱いって思ってるタイプで。本当は全然飲めるのに。でも、理想の彼女でいるには弱くなきゃいけないんだなって」(2話)
「女性は酒が弱い」という、決めつけ。
確かに、アルコール代謝速度は一般的には女性のほうが遅いと言われています。でも、それは女性は酒に弱いという意味でも、男性は酒に強いという意味でもありません。酒に強いか否かは個々人の遺伝による体質によるもので、性差に基づくものではないのです。
でも、どうして鮎美は「弱くなきゃいけない」と思い込んでしまったのでしょうか────?
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さて、昨年の春、私はこんな記事を書いていました。
この記事の中で、私が男性の同僚との雑談で少しモヤっとした瞬間がある、という経験談をお話ししていました。
個人的にモヤっとするのは、私が同世代の男性諸氏に対して「最近、クラフトビールにハマっていて……」と話し出すと、なぜか「ああ、旦那さんがビール好きなの?」というリアクションをしてくる人が一定数いることです。「え?」って聞き返すと、あっちも「えっ?」ってなる。
私は「私の趣味」について話しているつもりだったのに、同僚は反射的に「旦那さんの趣味」だと受け取ってしまった。この認識のズレ。モヤっとしたのは、「クラフトビール」という趣味に対して、私が「主体ではない」と反応されてしまったことです。もちろん、同僚に悪気などはまったくなくて、彼自身の「常識」に照らして反応したにすぎなかったことは、私にも理解できています。だとすると、その「常識」はどこから生じたものか。
その点に関して、先の記事で私はこう続けました。
アルコールの趣味自体が男性のものという感覚なのかもしれない。そういえば本屋とかでも、お酒関係の雑誌は「男性向けカルチャーコーナー」に置かれてたりすることがあるよな。モノマガジンとかゲットナビとか日経トレンディとか、あのへんも私はよく読むんだけど、ターゲットはなぜか男性なんだな。
さて、いったい何が「男の趣味」と広く一般的に認識されているのでしょう。実は、簡単な方法でわかります。ちょっとだけ、皆さんも一緒に考えてみてくださいね。
【お題】
その単語(〇〇)の後ろに【〇〇女子】、【〇〇ガール】がつく単語はなーんだ?

どうでしょうか。色々と思いついたんじゃないでしょうか。ちなみにこのイラストは、私のchatGPTアシスタント「あわちゃん」が「〇〇女子」をテーマにして描いてくれたものです。カープ女子、山ガール、ビール女子、理系女子、バンド女子、チアガール、色々いますね。他にも、ガンプラ女子、競馬女子、釣りガール、鉄道女子(鉄子)、カメラ女子、ラウンドガールなんていうのも思いつくかな。
さて、これらの「女子」がつく単語を眺めてみると、うっすら全体像が見えてきますね。野球、登山、お酒、理系学問、バンド、スポーツ、プラモデル、ギャンブル、釣り、鉄道、カメラ、ボクシング……、そう、これらって、本屋さんだと「男性向けカルチャーコーナー」に置かれがちじゃありませんか?つまり、これらは「男の趣味」として認識されているものなのです。
反対に、「女子」がつかない単語をイメージしてみると、その違いは明らかです。例えば、料理、手芸、スイーツ、メイク、サンリオ、などなど。でも、これらの後ろに「男子」をつけてみると、しっくりくる。すなわち、これらは「女の趣味」。
それらの、性別で区分された固定概念の中に、その逆の性別の個人が混ざったとき、その「違和感・物珍しさ」を表現する言葉として「〇〇女子/〇〇男子」が成立するわけですね。
でも、その「固定概念(常識)」って、
誰が決めたの?
いつから始まったの?
なぜ、そうなったの?
もう一歩だけ、踏み込んでみましょうか。
例えば、先ほどの「チアガール」や「ラウンドガール」。バスケットボールなどのスポーツを盛り上げたり、ボクシングのラウンドを伝える役目を持っていますね。他にも、昭和生まれの方々には懐かしい、ビアガーデンでバドワイザーを薦める「バドガール」。モーターショーに行けば、スポーツカーの隣で「コンパニオンガール」が微笑んでいます。このように、「男の趣味」とされるシーンには、こういう女性たちが「その場に華やぎをもたらすもの」として存在していることが割とよく見られますよね。
だけど、「女の趣味」のほうは、どうでしょう。パッチワークの展示会において、パッチワーク作品を広げるためにイケメンがいるでしょうか。いいえ、いませんね。むしろ、邪魔ですよね。観たいのはパッチワーク作品であって、イケメンじゃない。
もちろん、「女の趣味」の世界に男性が混ざっていることは多々あります。メイクが得意な男性、甘い菓子が好きな男性、サンリオの世界観が大好きな男性。でも、そういった男性はあくまでも「参加者」の側にいて、「その場に華やぎをもたらすもの」として配置されているわけではありません。お笑い芸人のレインボー池田のメイク動画チャンネルはとても人気がありますが、それは池ちゃんが男だから、じゃない。池ちゃんがメイク上手で教え方も上手いから、評価されているんです。
「男の趣味」では、女性は「華やぎをもたらすもの」にされがち。
「女の趣味」では、性別に関係なく個々人の能力が注目される。
この違いもまた、どこから生まれてきたのでしょう?
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昨年、山梨中央図書館で1冊の本と出会いました。マロリー・オメーラ著『女たちがつくってきたお酒の歴史』です。手に取って読んでみて、あまりにも興味深い内容だったので、その後で購入しました。
この本の原題は『Girly drinks : a world history of women and alcohol.』。このタイトルが問いかけているものは、「はじめに」の冒頭に記述されていました。少し長いですが、引用してみましょう。
スキニーマルガリータ。アップルティーニ。コズモ。スイーツやホイップクリームの味がしたり、丸ごとスイーツやホイップクリームが浮かんでいたり。真っ赤な砂糖漬けチェリーや、パステルカラーの傘飾りが差してある。こういうのが俗にいうところの「ガーリードリンク」、つまり女の子向けのお酒。
これを誰かがバーで注文する声がすると失笑がもれるような、そういうお酒。この手のものをメニューのなかからあえて選ぶのは恥ずかしい。じつは大好きでも後ろめたい。ほんとうのお酒をいうなら、ビールとかスコッチでしょうに。こちらは堂々としていてよい飲み物。だって男のお酒だし。
それにしても、ちょっと待てよと思う。
お酒を飲むのを男女で区別しようと、誰が決めたのだろう。一部のお酒のほうが偉いとか、いつからそうなったのだろう。どこからそんなことに?どういう理由で、そして、どういった経緯があったのか?
(P.11「はじめに:ガーリードリンクって何?」より抜粋)
長々と引用したのは、まさに私が疑問に思っていたことが、そのまま書かれていたからです。日本でもこれと同じような光景が、とりわけバブル期のあの頃、よく見られましたよね。甘い甘いカルアミルク。好きなんだけど、一緒に飲みに行った男の子たちに「女の子ってそういう甘いのとか好きだよねぇ」と、知ったふうな口をきかれると、実はちょっとだけモヤっとしたものです。
その頃は、そのモヤモヤの原因がよくわかっていませんでしたが、今ならわかります。男の子たちが「そういう甘いの」と言うとき、それは「ちゃんとしたお酒ではないもの」というレッテルを貼っていたのです。おそらくは悪意などなく、言ったほうも言われたほうもその意図を理解できないほどの、極めてかすかな「侮蔑」。
そして、マロリー・オメーラの言葉を借りると、ビールは「ほんとうのお酒」であり、「堂々としていてよい飲み物」であり、「男のお酒」。そりゃあ、ちょっと待てよ、って言いたくもなりますよね。ビールって「女のお酒」にはなり得ないの?
そんな疑問に向き合うべく、この本の中でマロリー・オメーラは、私たちがまだ毛むくじゃらの獣だった時代にまで遡って、順繰りに解き明かそうとします。古代メソポタミアでは?中世の修道院では?禁酒法のアメリカでは?そして、現代では?さまざまな時代を巡って、女性とお酒の2つの切り口から、その関係性の変容を追いかけていきます。とても読み応えのある本です。オススメ。
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これまで、このブログでは「ビールを学んでみた」シリーズとして、明治期などの人々とビールの関わり合いを調べてきました。その一環として、私も「女性とビール」の関わり合いのさまをまとめてみようと思います。
シリーズタイトルは「ビールのそばにいた女たち」。それぞれの時代、それぞれの国において、女性とビールは決して遠い関係にあったわけではありませんでした。いったい、女性はどのような「役割」を担って、ビールのそばにいたのでしょう。これから、それをゆっくりと眺めていきましょう。
あえて最初に言っておきますが、この連載は、「性別による対立煽り」を目的としたものでは決して「ありません」。なぜならば、女性が何らかの価値観を押しつけられているとき、同時に男性にも何らかの価値観が押しつけられているからです。中年男性がスーツ姿でビヤホールの席に座っていることは当たり前として受け入れられるのに、同じ格好でケーキバイキングの席に座っていると奇異の目で見られてしまうでしょう?本当はカルアミルクが大好きな男の人だっているでしょう?
読んでいて楽しい気持ちになれる連載にしたいと思います。さまざまな時代で、女性は厳しい環境に置かれたりもしましたが、それでもビールのそばに「いた」。いくつかのエピソードをご紹介しながら、そのことをお伝えしたいと思います。長い連載にはなりそうですが、どうぞ気楽にゆったりと、ビールなど片手にお楽しみくださいませ。
