つれづれぶらぶら

記事の更新順序が時系列に沿ってなくてごめんなさい。映画の感想はどうしても時間を空けずに書きたいのよねん。

『標本バカ』

富士見町図書館の新刊コーナーに『標本バカ』という本が展示されていた。タイトルのインパクトと絵の可愛らしさ、そして国立科学博物館で哺乳類(専門はモグラ)の研究をされている川田伸一郎先生がお書きになったエッセイだということで、興味をそそられて借りてきた。 

標本バカ

標本バカ

  • 作者:川田 伸一郎
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 読んでみると、これが実に面白い。

元々は『ソトコト』という月刊誌に掲載されているようで、調べてみたらオンライン上でも何編かが無料で読めるようだ。学術的ではあるが決して堅苦しくなく、人間味とユーモアの溢れるエッセイなので、ちらっとでも覗いてみてほしい。

sotokoto-online.jp

この本では、標本とはそもそも何のためにあるのか、なぜ同じ生き物の標本を何体も何体も作らなければならないのか、標本はどうやって作るのかなどといった、我々が普段あまり考えたことのない事柄を分かりやすく説明してくれるとともに、日夜その標本を作り続ける研究者たちの苦労や楽しみをリアルに伝えてくれる。

例えば、動物園や市町村などから「動物の死体があります」という連絡が飛び込んでくると、どんなに大事なスケジュールが入っていようともキャンセルして現場にすっ飛んで行き、新鮮なうちに回収して解体、すぐさま標本にしなければならないこと。

それがゾウやキリン、クジラやトドといった大型動物の場合はとんでもなく大変な仕事になること。ゾウを研究所で解体しようとすると廃棄する肉の量が多すぎて産廃業者から届く請求書の金額が途方もないものになってしまうこと。

1日半がかりでキリンの解体をしたら腱鞘炎になってしまい、整形外科を受診したエピソードが面白い。

問診票の「いつからその症状があるか」という質問に対して、「3月末にキリンの皮剥きをした翌日から」と正直に回答し、待合室で本を読んでいたところ、看護婦さんから「キリンというのはあのキリンですか?」との質問。僕は「そうです、あの首が長い動物です」と返答した。

(P124「腱鞘炎の治し方」より抜粋)

看護婦さんもさぞや驚いただろうなぁ。問診票を見て「……は?」と二度見しちゃったんではなかろうか。「キリンの皮剥き」というパワーワードはなかなか目にするもんじゃなかろうて(;^ω^)

また、岡山から膨大な数のヌートリアが届いて、ひたすらヌートリアの解体をしまくった過酷な作業の中から生まれた名(迷)曲『ヌー(トリア)』の歌詞も巻末に掲載されているが、これは引用しないのでぜひ本を手に取って歌ってみていただきたい。川田先生の心の叫びが凝縮された歌詞が笑える。た、大変だなぁ研究者って……(;^ω^)

他にも、うちで飼ってる猫が謎の生き物を捕まえてきたんだけど何かしら、といった質問に対して、その生物がどの種に属するものかを見極める「同定」という仕事もあるのだが、テレビのミステリー番組の制作会社から「チュパカブラの同定依頼について」といったメールが来たこともあったそうだ(※チュパカブラ:家畜などの血を吸うとされる未確認生物のこと)。でも、だいたいその手のUMAの正体は皮膚病に侵された動物なんだって。

 

ちなみに、YouTube国立科学博物館公式チャンネルでは、このコロナ禍を受けて、「#おうちでかはく」といういくつかの動画をUPしている。川田先生の動画もいくつかあるが、ご自宅でモグラの頭骨標本を作る動画が実にほのぼのとしていて面白いのだ。


モグラの頭骨標本作り(動物研究部・川田先生)

近くの幼稚園か保育園のお遊戯の歌が聞こえる中、鍋焼きうどんの容器でモグラの頭をぐつぐつ煮ている川田先生。後はピンセットでひたすらちまちまちまちま肉を剥がす。大雑把な私からすると気が遠くなるような細かい作業だが、そこはさすが、科博で何万点もの標本を作ってこられた川田先生である。

 

しかし、こうして標本について調べていると「ああ、科博に行きたい行きたい」という欲がうずいてしまう。上野の科博の剥製や標本の展示もかなり見応えがあるのだが、川田先生が勤務されている茨城県つくば市の標本収蔵施設のほうも年に1回だけ見学できるそうだ。今年のオープンラボは去る11月3日に開催されたらしい。ううー行きたかったなぁ。

 

なお、この本のあとがきによると、このインパクトのあるタイトルは、フランク・ザッパの『Dancin' Fool』(邦題:『ダンスバカ』)のもじりだとか。


Frank Zappa- Dancin' Fool

懐かしいなぁザッパ。子供の頃、年の離れた兄貴が一時期狂ったように自室のステレオで流しまくっていたっけなぁ。

『架空OL日記』

『架空OL日記』の映画を観に行きたい、と3月頃に呟いていたのだが。 

sister-akiho.hatenablog.com

あの後すぐに「県境またぐべからず」⇒「なるべく家から出んな」という状況になってしまって、結局、上映期間中に映画館へ行くことはできなかった。そもそも映画館も開館してるとこが少なかったし。この作品を含め、今年の春公開の映画は色々と気の毒だったと思う。

というわけで、本当は映画館で観たかったけど、やむを得ずレンタルビデオ屋で借りてきた。劇場版と、テレビ版のも一緒に。 

映画『架空OL日記』 Blu-ray通常版

映画『架空OL日記』 Blu-ray通常版

  • 発売日: 2020/09/02
  • メディア: Blu-ray
 

ところで、『架空OL日記』 というドラマは、お笑い芸人のバカリズムさんがかつて書いていた『架空升野日記』というブログを原作としている。

ameblo.jp

今でこそブログの表題にも「バカリズム」の名がはっきり表示されているが、当初は親しい人にもこのブログの存在を知らせず、こっそりとOLに成りすまして淡々と架空の「日記」を書き続けていたというのだから恐ろしい。ブログの内容がどっからどう見てもごく普通のOLの他愛のない日常の日記なのが、なおさらに狂気を感じる。

そんなブログをドラマ化するというので、これを普通に女優さんばかりでやったらあまりにも他愛のない日常すぎて面白くない。このクレイジーさを伝えるには、やはり違和感のある存在、すなわちバカリズムさん自身がOLとして存在していなければいけない。

したがって、このドラマではバカリズムさんがしれっと女子銀行員の制服を着て淡々と平凡な日常生活を送っているのだ。薄化粧にスカートという姿ではあるものの、女言葉も喋らず、大股を開けてドタドタ歩く。冷静に見れば、どっからどう見ても「おっさん」なのだが、あえて女っぽく演じていないせいで、逆に「こんな感じのガサツっぽい女いるよね」と思ってしまう。いや、なんなら私も「お前……、おっさんくさいのぉ」とよく言われていたぐらいだ。あ、言っておくが私は本当に女である、念のため。

 

さて、ドラマの内容はというと、ストーリーはまるでない。

ごく普通の女子銀行員が、月曜日の朝に嫌々起きたり、満員電車にうんざりしたり、女子更衣室で電源コードの取り合いをしたり、社員食堂で上司の悪口を言ったり、歯磨きしながら上司の悪口を言ったり、終業後にご飯を食べに行ったり、スポーツジムで体重計から目をそらしたり、そんな日常をひたすら繰り返すだけ。

たまに事件が起きるとしても、女子更衣室のハロゲンヒーターが壊れたとか、嫌な上司がコンタクトレンズを落としたとか、後輩が盲腸炎で入院したとか、その程度の「事件」である。そこから何かドラマチックな展開が起こるかというとこれっぽっちも起きず、せいぜい皆で小峰様を褒めたたえるぐらいで終わる。

じゃあ、劇場版になったらもうちょっとドラマチックな展開があるかもって、そんな安易な期待は容赦なく切り捨てられる。スクリーン上に展開される、変わり映えのないOLの日常風景。テレビシリーズの2年後を描いているが、課長が女性になったことと、韓国人のソヨンちゃんが入行してきたぐらい。男性の上司たちは顔ぶれこそ変われども、やっぱりウザい・キモいことに変わりはない。

主人公の「私(升野)」は相変わらず同期のマキちゃんと「月曜の朝」に対する呪詛の言葉を吐きながら通勤し、後輩のサエちゃんはやっぱり天然で空気が読めず、先輩の小峰様は今日もカッコ良くて、酒木さんは給湯室のスポンジの使い方が悪い人がいると怒っている。ソヨンちゃんはとても感じのいい子で歌も上手いが、ロッカーのドアを大きく開けすぎる。小野寺課長は仕事ができる美女だが、印鑑ケースのセンスが微妙。

 

ところで、この小野寺課長の印鑑ケースと同じもの、私も使っているのだ。アスパラのベーコン巻きの食品サンプル。私は鉛筆キャップだが、スカイツリーの中で買った。自分では可愛いと思って買って、周囲にも「可愛いでしょ」と見せびらかして歩いたが、そっか、皆、内心では(ダセぇ……)と思っていたのか。うう。

 

そんな印鑑ケースに対して「可愛いっすね」とあっさり言い放つ後輩の「かおりん」が、個人的にはお気に入りキャラである。いつも一緒につるんでいる5人組のメンバーではないが、時々は一緒に食事に行ったりする仲で、べったり仲良しでも、付き合いが悪いわけでもない、その絶妙の距離感が良い。きっとこの子は誰に対してもそうなんだろうな、と思わせるあっさりした雰囲気が付き合いやすそう。

  

この作品は、ドラマだけどドラマチックでなく、コントのようだがオチもなく(随所に入る「私」のツッコミナレーションがオチといえばオチではあるが)、じゃあ何なんだと言われると困るのだけれども、本当にただただOLの日常を切り取ってツッコミを入れてみた、という感じの映像が続くのだ。

けれども、ハッと我に返ると、これが全て「作り物=架空」のものであるということ、そしてそれを作ったのがOLでも女でもない男性芸人であるという、この恐るべき事実を我々は思い出す。あの温厚そうなバカリズム氏の内側に秘めた狂気の片鱗がここにある。なんでこんなに女の本音を深く理解しているんだ。「彼女たち」を観察しているはずの観客自身が、実はバカリズム氏に観察されていたのだ、という恐るべき事実を。

そして、テレビシリーズも劇場版も、ラストは「真実」を明らかにして終わる。

この物語は、ドラマ(作り物)であるということ。あのちょっとおっさんっぽい女の子の「私」は、架空の存在(作り物)であるということ。その真実を突き付けられるのは、ちょっとだけ切なくて、いつまでもあの架空の世界にとどまっていたいと甘ったれる観客たちを、そっと、優しく突き放すのだ。

 

いや、まぁ、何にせよ観れて良かった。いつかコロナ禍がおさまって、また劇場で上映される機会があったなら、その時には是非とも劇場に足を運びたいと思う。ていうか映画ぐらい気軽に観れる日が早く戻ってこないかな。ねー。 

 

今週のお題「最近見た映画」

『ポプテピピック』と『でんぢゃらすじーさん』

アニメファンの方々には「え、今頃?!」と言われてしまいそうなんですが、今さらながらNetflixでアニメ版『ポプテピピック』を全話視聴してみました。

hoshiiro.jp

漫画・アニメファンには有名な作品だから説明は不要だと思うんだけれども、非ヲタの方々もいらっしゃると思うので念のため簡単に説明しておきますかね。

原作は『まんがライフWIN』に連載中の大川ぶくぶ氏の四コマ漫画で、ジャンルはギャグ漫画――てか「クソ4コマ」。あ、いや、これは私が悪口を言っているのではなくて、出版元の竹書房自体がこの漫画につけたキャッチコピーなんですってば。不条理で過激、毒舌に破壊行為、見つかったら各方面から怒られそうなパロディ、四コマ漫画のお約束を無視した実験的なギャグなどを端的に言い表す言葉としての「クソ」。

あ、このへんで既に何が何だか分からなくなっている方には、このへんでブラウザバックして頂くことをオススメします。あなたにはきっとポプテピピックは必要ない、うん、きっとそのほうが精神衛生上よろしいかと思いますゆえ。

 

で、もちろん「サブカルクソ女」であるところの私は、ずいぶん前からポプテピピックの存在は認識しておりました。電気グルーヴとコラボした際には、Tシャツ欲しいなとも思っておりました。

そんなふうに、チラチラと横目では覗いていたものの、なかなか手を付けようという気にはならんかったのです。なんででしょうね。うちの旦那もギャグ漫画好きなんですが、微妙に「ツボを外れている」というか、2人ともあえてスルーしてきたところがあります。

ところが、退屈な休日の昼間、息子に何かアニメ見せてよとせがまれて、なにげなく私のNetflixアカウントでアニメのラインナップを眺めていたら、ポプテピピックのアニメがリストに上がってきたのです。あーあのクソアニメの。ま、いっか、これで。

ところが、これに息子が激しく喰いつきまして。

第1話の「星色ガールドロップ」がデストラクションされて本編が始まるあたりから、もうぶっひゃぶっひゃ腹を抱えて笑いまくっている。次から次へと矢継ぎ早に展開される各コーナーにいちいち反応して、「えいえい!おこった?」とか「かつ丼食えやァァァ!」とか叫んでいる。うるせえ。正直、「ボブネミミッミ」あたりは、初めて見た時、私はどう反応すべきか分からずに若干引いていたのですが、息子はすんなり吸収して面白がっているのでした。

アニメとしてもかなり異色な構成(極めて短い単独のコーナーがスピーディーに次から次へと入れ替わる、声優が異なるだけの同じ内容が前半と後半で2回繰り返されるなど)であり、内容自体は「分からん人はついてこんでええ」と言わんばかりのニッチなサブカルネタ、扱っているパロディの元ネタもファミコン世代じゃないと分からないものばかり。

どうしてファミコン世代ど真ん中の私よりも、現在小学6年生の息子のほうが反応が良いのかしら――と考えていたら、あっ、そうか、『でんぢゃらすじーさん』か、と気づいたのです。 

でんぢゃらすじーさんといえば、男子小学生必携の漫画雑誌『コロコロコミック』の看板作品。ずいぶん昔から連載しているけれど、現在うちの息子が買ってくるコロコロにも未だに連載してます。いったい何年やってるんだコレ。不条理過激ギャグ漫画といえば間違いなくその先頭に立つのが『でんじー』。今でもその破壊的なギャグの冴えは衰えを見せることなく、元気に連載中です。本当に何年やってるんだコレ。

で、『でんじー』も、過激でキレやすくめちゃくちゃ自己中心的な「じーさん」が自由奔放に行動して、ツッコミ役の「まご」を困惑させる、という内容で、そういえば昔テレビでやってたアニメも、短いコーナーが目まぐるしく展開される内容だったわ、と思い出したのでした。

「じーさん」と「女子中学生」の差こそあれ、そのギャグのテンションの高さや、次から次へと主人公が予想外の行動をすること、そして、だいたい最後は派手に爆発するあたりが、そういえばよく似ているわ。そういう意味では、『ポプテピ』は『でんじー』の対象年齢を上げて、サブカルのバイアスをかけたもの、と言えなくもないわ。

 

ま、そんなことを考えながら視聴しておったのですが、最初は若干の抵抗感があった私も2話あたりじゃすっかり馴染んでしまって、やだ古川登志夫さんと千葉繁さんって『うる星』じゃないの贅沢ねー、とか、その顔で「かしこま!」って言うんじゃねぇよ、とか、お土産屋で売ってるロードカラミティ(笑)とか、息子と一緒になってぎゃはぎゃは笑ってて、こうやってブログ書いてる間も、あ、ごめんヘルシェイク矢野のこと考えてた

元ネタもファミコン世代向けとはいえ、うちの息子は図書館で『超クソゲー』とか借りてくるヤツで、しかもガンダムネタもあちこちぶっこまれているとあって、けっこう分かっている模様。しまいには私のほうが息子に「これ何のネタ?」「SEEDだよ」「あ、ありがと」と教えてもらう羽目になる始末。

何しろ声優が豪華すぎて、各話、それぞれ前半と後半で違う声優の演技が楽しめるという面白さにすっかりヤラレてしまいました。

しかも、スペシャル版として放映された13話と14話にいたっては、内容がほぼ同じで主役2人の声優が異なるものが4種類もある(すなわち、2話×2回×4種類=16パターン!!!)というのに、最初は「どうしようコレ、内容同じなら全部見なくてもいいよね」と思っていたにもかかわらず、声優さんごとの演じ方の違いを比べるのが楽しくて楽しくて、結局全部見てしまったという。もーホントにおもろい。

しかも声優2人の組み合わせにそれぞれ意図がある(別作品でコンビを組んでいる声優さん同士など)ので、その点も加味して見ると「あ、今、タチコマって言いかけたろ敦子さん」と思わぬ楽しさがあったりします。13話の『コンビニ』の長回しの演技とか聴き比べるとそれぞれ解釈が違ってて面白い。ってか花澤香菜、それ台本と違う…www

 

ええと、結論から言えば、このクソアニメをそもそも文章なんかで説明しようと思った私自身がクソ。観んと分からん。そして別に観たくない人は観んでええ。しょせんサブカルというものは、通じ合う人だけがヴィレッジヴァンガードの棚ごしにニヤリと笑い合うものなのであって、解釈なんて必要ねぇーんだ。クソ万歳!!!

 

ちなみにキングレコードYouTube公式には41分にも及ぶ楽曲メドレーが無料公開されております。同じ曲がひたすら続くような気がしますが、ちょっとずつ違うんだ、これが。


ポプテピピック 楽曲メドレー

でも私の好きな「エイサイハラマスコイおどり」は入ってない……ぐすん。