つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『架空OL日記』

『架空OL日記』の映画を観に行きたい、と3月頃に呟いていたのだが。 

sister-akiho.hatenablog.com

あの後すぐに「県境またぐべからず」⇒「なるべく家から出んな」という状況になってしまって、結局、上映期間中に映画館へ行くことはできなかった。そもそも映画館も開館してるとこが少なかったし。この作品を含め、今年の春公開の映画は色々と気の毒だったと思う。

というわけで、本当は映画館で観たかったけど、やむを得ずレンタルビデオ屋で借りてきた。劇場版と、テレビ版のも一緒に。 

映画『架空OL日記』 Blu-ray通常版

映画『架空OL日記』 Blu-ray通常版

  • 発売日: 2020/09/02
  • メディア: Blu-ray
 

ところで、『架空OL日記』 というドラマは、お笑い芸人のバカリズムさんがかつて書いていた『架空升野日記』というブログを原作としている。

ameblo.jp

今でこそブログの表題にも「バカリズム」の名がはっきり表示されているが、当初は親しい人にもこのブログの存在を知らせず、こっそりとOLに成りすまして淡々と架空の「日記」を書き続けていたというのだから恐ろしい。ブログの内容がどっからどう見てもごく普通のOLの他愛のない日常の日記なのが、なおさらに狂気を感じる。

そんなブログをドラマ化するというので、これを普通に女優さんばかりでやったらあまりにも他愛のない日常すぎて面白くない。このクレイジーさを伝えるには、やはり違和感のある存在、すなわちバカリズムさん自身がOLとして存在していなければいけない。

したがって、このドラマではバカリズムさんがしれっと女子銀行員の制服を着て淡々と平凡な日常生活を送っているのだ。薄化粧にスカートという姿ではあるものの、女言葉も喋らず、大股を開けてドタドタ歩く。冷静に見れば、どっからどう見ても「おっさん」なのだが、あえて女っぽく演じていないせいで、逆に「こんな感じのガサツっぽい女いるよね」と思ってしまう。いや、なんなら私も「お前……、おっさんくさいのぉ」とよく言われていたぐらいだ。あ、言っておくが私は本当に女である、念のため。

 

さて、ドラマの内容はというと、ストーリーはまるでない。

ごく普通の女子銀行員が、月曜日の朝に嫌々起きたり、満員電車にうんざりしたり、女子更衣室で電源コードの取り合いをしたり、社員食堂で上司の悪口を言ったり、歯磨きしながら上司の悪口を言ったり、終業後にご飯を食べに行ったり、スポーツジムで体重計から目をそらしたり、そんな日常をひたすら繰り返すだけ。

たまに事件が起きるとしても、女子更衣室のハロゲンヒーターが壊れたとか、嫌な上司がコンタクトレンズを落としたとか、後輩が盲腸炎で入院したとか、その程度の「事件」である。そこから何かドラマチックな展開が起こるかというとこれっぽっちも起きず、せいぜい皆で小峰様を褒めたたえるぐらいで終わる。

じゃあ、劇場版になったらもうちょっとドラマチックな展開があるかもって、そんな安易な期待は容赦なく切り捨てられる。スクリーン上に展開される、変わり映えのないOLの日常風景。テレビシリーズの2年後を描いているが、課長が女性になったことと、韓国人のソヨンちゃんが入行してきたぐらい。男性の上司たちは顔ぶれこそ変われども、やっぱりウザい・キモいことに変わりはない。

主人公の「私(升野)」は相変わらず同期のマキちゃんと「月曜の朝」に対する呪詛の言葉を吐きながら通勤し、後輩のサエちゃんはやっぱり天然で空気が読めず、先輩の小峰様は今日もカッコ良くて、酒木さんは給湯室のスポンジの使い方が悪い人がいると怒っている。ソヨンちゃんはとても感じのいい子で歌も上手いが、ロッカーのドアを大きく開けすぎる。小野寺課長は仕事ができる美女だが、印鑑ケースのセンスが微妙。

 

ところで、この小野寺課長の印鑑ケースと同じもの、私も使っているのだ。アスパラのベーコン巻きの食品サンプル。私は鉛筆キャップだが、スカイツリーの中で買った。自分では可愛いと思って買って、周囲にも「可愛いでしょ」と見せびらかして歩いたが、そっか、皆、内心では(ダセぇ……)と思っていたのか。うう。

 

そんな印鑑ケースに対して「可愛いっすね」とあっさり言い放つ後輩の「かおりん」が、個人的にはお気に入りキャラである。いつも一緒につるんでいる5人組のメンバーではないが、時々は一緒に食事に行ったりする仲で、べったり仲良しでも、付き合いが悪いわけでもない、その絶妙の距離感が良い。きっとこの子は誰に対してもそうなんだろうな、と思わせるあっさりした雰囲気が付き合いやすそう。

  

この作品は、ドラマだけどドラマチックでなく、コントのようだがオチもなく(随所に入る「私」のツッコミナレーションがオチといえばオチではあるが)、じゃあ何なんだと言われると困るのだけれども、本当にただただOLの日常を切り取ってツッコミを入れてみた、という感じの映像が続くのだ。

けれども、ハッと我に返ると、これが全て「作り物=架空」のものであるということ、そしてそれを作ったのがOLでも女でもない男性芸人であるという、この恐るべき事実を我々は思い出す。あの温厚そうなバカリズム氏の内側に秘めた狂気の片鱗がここにある。なんでこんなに女の本音を深く理解しているんだ。「彼女たち」を観察しているはずの観客自身が、実はバカリズム氏に観察されていたのだ、という恐るべき事実を。

そして、テレビシリーズも劇場版も、ラストは「真実」を明らかにして終わる。

この物語は、ドラマ(作り物)であるということ。あのちょっとおっさんっぽい女の子の「私」は、架空の存在(作り物)であるということ。その真実を突き付けられるのは、ちょっとだけ切なくて、いつまでもあの架空の世界にとどまっていたいと甘ったれる観客たちを、そっと、優しく突き放すのだ。

 

いや、まぁ、何にせよ観れて良かった。いつかコロナ禍がおさまって、また劇場で上映される機会があったなら、その時には是非とも劇場に足を運びたいと思う。ていうか映画ぐらい気軽に観れる日が早く戻ってこないかな。ねー。 

 

今週のお題「最近見た映画」