つれづれぶらぶら

ワクワクしている時って、本当に胸の中で何かが踊ってるみたいな感覚あるよね。

『クラメルカガリ』(付『端ノ向フ』・『ウシガエル』)

この記事からの続き。

sister-akiho.hatenablog.com

てなわけで5月3日の憲法記念日、息子を連れてテアトル新宿に映画を観に行ってきましたよっと。

前にも言ったとおり、現在、テアトル新宿では『クラユカバ』と『クラメルカガリ』を続けて観られるタイムテーブル(もちろん1本ずつの入れ替え制だから2本分のチケットを事前に買っておくべし)になっていて、しかも塚原重義監督が過去に発表した自主制作短編作品を本編上映前に併映するというお得な内容になっているのです。

つまり、2本連続で鑑賞すると『端ノ向フ』⇒『クラユカバ』⇒『ウシガエル』⇒『クラメルカガリ』という流れでこの独特の世界観をどっぷり愉しめるわけなのですよ。

しかもこの組み合わせがとても気が利いていて、子どもの失踪事件を主題とする『端ノ向フ』は『クラユカバ』の主題に繋がり、『ウシガエル』は『クラメルカガリ』の物語に直接的に関わってくるお話だけに、それぞれの映画を単体で観るよりもさらに理解度が増すという仕組み。

まぁ、ぶっちゃけて言えば『ウシガエル』を観ていないと『クラメルカガリ』の途中ぐらいでポカーンとすることになっていたかも。そういう意味でもこの併映はありがたいです。とはいえ私は先にYouTubeで観ていたんだけどね。しかしながらスマホの小さい画面で観るのと、大きなスクリーン、かつテアトル自慢の大迫力音響システム「Odessa」で観るのとでは全ッ然違うんよだなぁコレが。だーかーらー映画は映画館で観ろとあれほど(以下略)

 

そして、今回テアトル新宿に来たのは、名古屋で買えなかったパンフレットを買うという目的もありました。到着して真っ先に売店に行ったら、なんとパンフレットもグッズ類も全て売り切れとのこと。そんなぁ。設定資料とか見ておきたかったのにぃぃ……。

……とガッカリしていたら、『クラユカバ』終了後、『クラメルカガリ』の上映回を待っている間、売店から「パンフレット再入荷しましたー!」との声が。ダッシュで買いましたよ!1冊のパンフレットで、左から読むと『クラユカバ』、右から読むと『クラメルカガリ』の表裏仕様になっていて、美術や機功、キャラクターの設定資料、製作スタッフや声優へのインタビューなどが掲載されています。買えて良かった!

 

さて、本題の映画の話に移りましょう。まずは、『端ノ向フ』⇒『クラユカバ』の上映回の感想から。息子には「展望塔のクリイム・ソオダ」、私には「箱庭夕焼けオレンヂ」を買って、劇場内に入りました。ttcg.jp

『端ノ向フ』は2012年に制作された自主制作作品(11分)。前にも言ったとおり、公式チャンネルで無料公開されているので、ごちゃごちゃ言うより観てもらったほうが早いかもしんないっすね。女性新聞記者が、かつて失踪した幼友達の姿を目撃してその後を追い、やがて恐ろしい目に遭う……、というダークホラー。オチがじっとり怖い。独特の滲んだようなフィルター、活動弁士坂本頼光さんの巧みな口上など、この時点で既に『クラユカバ』の原型がかなりの完成度で仕上がっていることが分かります。


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この『端ノ向フ』の不気味な余韻を引きずったまま、続いて『クラユカバ』が上映されます。さすがに同人作品と商業作品のクオリティの違いは明白ですけれども、こうして並べて観ると、『端ノ向フ』の世界観がちゃんと『クラユカバ』の下敷きとなっていることがよく分かります。

『クラユカバ』は2回目なので、今回は細かい部分までしっかり鑑賞できました。何といってもこのテンポの速さがイイですね。サキが誘拐されてしまう前後の流れ、会話と会話の間にストーリーを入れ込むことで、一瞬にして観客に事態を把握させる仕掛けが秀逸です。荘太郎がガーンとうなだれているのを見ただけで、ああ、だから言わんこっちゃない、と思えちゃいますもんね。このあたりの演出は特に良かったです。

ちなみに、うちの息子の感想はというと──、「逆関節のヤツがかっこ良かった」。うん。皆さんには何を言っているのか分からないと思いますが、古のヲタである私には分かりますよ。小型戦車「ウノハナ」のことですね。途中まではキャタピラで走ってくんだけど、急にすっくと脚を伸ばして戦闘態勢に入るの。その脚部の構造が逆関節になっていて、ロボット好きには「おおお……!」ってなるっていう……あ、うん、えーっと、分かる人にだけ分かってもらえたらいいのよ、コホン。

 

『クラユカバ』終了後は、入れ替えのため退出。ロビーでしばらく待機していると、やがて『ウシガエル』⇒『クラメルカガリ』上映回の入場が始まりました。同じ座席を連続で予約しておくと移動がスムーズなのよ。

ウシガエル』は2004年の作品で、ニコニコ動画flash黄金時代において、塚原重義/弥栄堂の名を一躍有名にしたという伝説の動画であるそうな。20年前の自主制作作品とあって、さすがに現在の作品と比較すると簡素な仕上がりではあるものの、逆にあの時代でこの完成度、この造型、この世界観の構築度はすごいと感動してしまう。


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そして当時、この動画には多くの熱心なファンがつき、そのうちのひとりが成田良悟さん。言わずもがな『バッカーノ!』や『デュラララ!!』『Fate/strangeFake』などでお馴染みの人気作家さんであります。

その成田さんが『クラユカバ』のクラウドファンディングに参加したことに起因して、『クラユカバ』のスピンオフ作品を執筆する流れに。そのスピンオフ作品こそが『クラメルカガリ』なのであります。そしてその作品を原案として、塚原監督自身がリライトして脚本を仕上げたのが今回の映画『クラメルカガリ』なんだとか。身も蓋もない言い方をすると、ファンによる二次創作が公式に取り込まれたってってコトかな?

その『クラメルカガリ』は、『クラユカバ』とはガラッと雰囲気が変わって、「地図」を描く少女と少年を主人公としたジュブナイルものの趣きとなっておりまする。


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www.kurayukaba.jp

零細採掘業者がひしめく炭砿町…通称“箱庭はこにわ”。
日々迷宮の如く変化するこの町で地図屋を営む少女―カガリ
“箱庭”からの脱却を夢想する幼馴染―ユウヤ。

昨今この町で頻発する不審な“陥没事故”は、
次第にふたりの日常を侵食し始めて…
果たして、町の命運は、カガリはこの事態を乗り越えられるのか!?
困難の先で、少女は今日“ちょっとだけ”大人になる―

(公式サイトより転載)

『クラメルカガリ』は『クラユカバ』よりも主要キャラクターが多く、それぞれの人間関係を把握するのにちょっとだけ手間がかかります。また、謎の陥没事故「ムシクイ」を調査して、日々刻々と変わりゆくこの町の新しい地図を描く「ツムギ」という職業や、炭鉱の町「箱庭」などは『クラユカバ』にはない設定ですね。

『クラユカバ』が地下の物語であったのに対して、こちらは地上あるいは半地下の物語です。しかし、ヤクザもの同士の権力争いがあったり、怪しい情報屋が暗躍していたりと、そこそこきなくさい雰囲気は漂っております。この「箱庭」を牛耳っているのは「泰平砿業」という一大企業なのですが、元々は違う名前の会社で、ある不祥事を起こしたことでいったん没落していたという設定。

そして、子どもたちの公園を作っている謎のボケ老人兼天才発明家の朽縄を演じているのが寺田農さん。今年の3月14日に惜しまれつつお亡くなりになりました。アニメ声優としては『天空の城ラピュタ』のムスカなどが有名ですが、この作品も遺作のひとつとなったわけです。映画の最後には追悼の言葉が掲げられていました。

映画の後半では、この朽縄じいちゃんが覚醒して、箱庭全体を巻き込む大騒動を巻き起こします。朽縄じいちゃんの正体は如何に──ということでお楽しみに。

個人的には、箱庭内で随一の賑わいを見せる「狛犬市場」の代表・栄和島を演じるのが細谷佳正さんだったのが嬉しいです。ほそやんの声好きなんだもん。明るい好青年の笑顔を見せつつも、敵対するヤクザとは丁々発止の攻防を繰り広げる、まぁ要するにこちらもヤクザもん。ちらっと凄みのあるところが垣間見えて素敵です。

 

といった感じで、塚原ワールドを存分に堪能できる4作品がまとめて鑑賞できる楽しい企画でございました。前にも申し上げたとおり、5月9日までテアトル新宿で開催されております。詳しい上映時間などはテアトル新宿の公式サイトをご覧くださいませ。

ttcg.jp

いやー、面白かった。息子はどちらかと言えば『クラメルカガリ』が面白かったと言い、私の好みは『クラユカバ』のほうです。自堕落な探偵が事件に巻き込まれる系の話に弱いのよ、私(笑)