つれづれぶらぶら

さて、そろそろ勉強に100%集中せねば(え、仕事は?)

打ちたての生牡蠣の記憶

今週のお題が「感動するほどおいしかったもの」なんですが、このお題を見た時に思い出したのは「生牡蠣」の記憶です。

私が幼少期を過ごしたのは、広島県の五日市という海沿いの町で、朝、目を覚ましてカーテンを開けたらすぐそこに瀬戸内海と江田島が見えるぐらいの場所に住んでいたのですよ。やっぱ海はいいですね。何の因果か現在は海なし県に住んでますが(;^ω^)

広島県のうまいもの」といえば、お好み焼きに柑橘類にあなごめしに、と色々思いつきますが、その中でも有名なのはやっぱり「牡蠣」だと思うんですよね。五日市の隣の廿日市の「地御前」の牡蠣とか特に有名ですよね。

ところでさ、皆さんにお聞きしたいんですけど、牡蠣ってそんな美味いっすか

スーパーで生食用のパック入り牡蠣とか買うじゃないですか。生食用ってことはそのまま生で食べて大丈夫よってことなんだけど、なんか、こう……、ずるずるしていて、ちょっこし苦いとこもあったりなんかして、ねっとり鼻につく濃厚な匂いもあって、そんな、言うほど美味いか?牡蠣毒に当たる危険性をおしてまで食べたいか?って思ったり、……しません?

いや、さ、牡蠣フライとか、焼き牡蠣とかだったらね、素直に美味いって思うんすよ。宮島の参道で売ってる焼き牡蠣の香ばしい匂いとかたまんないし、ファミレスで「広島県産牡蠣フライフェア」なんてやってたら注文しちゃうぐらい好きですよ。

でも、生牡蠣はね、うーーーーーん。

……と、私が悩んでいる理由は、ただひとつ、小学2年生の頃に、めちゃくちゃ美味い生牡蠣を食べてしまったからなのです。

あれは、いったい何がどうしてそうなったのか、前後の事情が全く分からないのですが、ある日、母が「牡蠣打ち場」から牡蠣を買ってきたことがあるのです。

広島では、牡蠣の殻を剥いて身を取り出す作業のことを「牡蠣を打つ」、その作業をする人のことを「打ち子さん」、その作業場のことを「牡蠣打ち場」と言います。牡蠣の養殖場のすぐそばには必ず牡蠣打ち場があって、牡蠣の殻が山ほど積んであります。潮風にのって牡蠣殻のむわっとした強い匂いが町じゅうにただよいます。私が住んでいた家の近くにも牡蠣打ち場がいくつかあって、その匂いは今でも思い出せるほどです。

そんな牡蠣打ち場は、あくまでも作業場であって、ふつう、小売りなどはやっていないはずなんです。だからこそ、なぜ母がそこで牡蠣を買ったのは分かりません。おそらく母ももう覚えてはいないでしょう。私が覚えているのは、牡蠣打ち場の窓から覗いた薄暗い内部の様子、カンカンとすごい速さで牡蠣殻を打つ音、流れる水の音だけです。

何はともあれ、母はその日、そこで牡蠣を買いました。そして、「せっかくの打ちたての牡蠣じゃけぇ、今日は生で食べようや」と、晩御飯の食卓に出してきました。皿の上に乗った剥き身の牡蠣は、とても大きくて、ぶりんぶりんに身が張っていて、つやつやと光り輝いていました。レモンを絞ってその汁をかけ、膨らんだ真っ白な部分に歯を立てました。

その「サクッ、」という歯応えは、今でもはっきりと覚えています。ぐじゅ、とか、ぶにゅ、とか、そういう歯応えじゃなかったんですよ。押し潰すような感覚じゃなくて、歯がまっすぐに身を裂いていく感じ。そして、その直後、「ぷつッ……!」と何かが弾けた感触があって、それと同時に、口の中にミルクが溢れ出してきたんです。

それはとても甘い、甘くて濃厚な、旨味そのものという感じのミルクでした。臭みや苦みは全くなくて、むしろレモンの爽やかさをまとって、本当に、もう、「美味しい」以外の語彙が出てこないぐらいの、圧倒的な美味さでした。

その後のことは覚えていません。とにかく、私の牡蠣の記憶は、その小学2年生の幼い味蕾に刻まれた記憶なわけです。つまるところ、生涯の一番初めの時点で、最も美味いものを喰ってしまったと、そういう悲劇の話なんです、これは。そのせいで、私の生牡蠣に対するハードルは初っ端からMAXに設定されてしまったわけです。基本的には「貧乏舌」で、何でもかんでもウマイウマイと食べることのできるのが私の長所ではあるんですが、残念ながら、生牡蠣に対してだけは舌が肥えているんです。だもんで、そんじょそこらのスーパーの生牡蠣では、とてもじゃないが美味しいとは思えなくなってしまったわけなんですよ、どうです、悲しい話でしょう。

それ以後、なるべく生牡蠣は避けてきたんですが、大人になってから1回だけ、父に連れられて、父の五日市の友人宅を訪問した際に、やっぱり打ちたての牡蠣を用意してくださっていたことがあって、それは遠慮せずにいただきました。やっぱりべらぼうに美味かったです。

こう言ってしまうと身も蓋もない感じですが、やっぱ鮮度が大事なんだと思いましたよ。遠くから時間をかけて運ばれてきたものではなくて、自らその現地に行って、新鮮なものを食す。やっぱそれに尽きるわけなんです。

嗚呼、また五日市に行って牡蠣が喰いたいなぁ。ううう。瀬戸内恋しや……。