クラフトビールに興味を持ってから、さまざまなスタイルのビールを飲んでみたり、あちこちのビアパブに出かけてみたり、麦汁の仕込みの見学をさせてもらったりと、色々勉強させてもらってきたんですが、そんな私がずっと、いっぺん見てみたい、と切望していたのが、ホップ畑。
実際にホップが実っている様子をこの目で見てみたい、あわよくばホップを摘んでみたい、と願い続け、その機会を探し続けていたところ、ついに求めていた機会がやってきました。
長野県東御市の「OH!LA!HO BEER(オラホビール)」さんで、7月22日と23日に「ホップ収穫祭2023」というイベントが開催されるというのです!そう、そのイベント名のとおり、それはオラホさんのホップ畑でホップ摘みしましょう、という内容だったのです!もうね、そのお知らせを見た瞬間に、間髪入れず「参加申し込み」のボタンをポチーしましたとも!
そんなわけで、今日(7月23日)、朝も早よから茅野の自宅を出て、車でえっちらおっちら2時間かけて野を越え山を越え東御市まで走ってきました(長野県の面積は全国4位の広さなんですよ)。
ホップ収穫体験は朝10時に始まりました。スタッフさんの後について畑へ向かうと、そこには天高く蔓を伸ばしたホップの姿がありました。高さ6~8mぐらいかな。その高さを見ただけでも、ホップ栽培の大変さが分かりますね。
さて、ここで基本的なところを押さえておきましょう。ホップとは何か。
ホップ(勿布、忽布、オランダ語: hop、学名:Humulus lupulus)は、アサ科のつる性多年草。雌雄異株。和名はセイヨウカラハナソウ(西洋唐花草)。
雌花は「毬花」と呼ばれビールの主要な原料の一つである。ビールの苦味、香り、泡にとって極めて重要で、雑菌の繁殖を抑え、ビールの保存性を高める働きがある。
(Wikipediaより引用)
この、蔓からたわわにぶら下がっている松かさのような形をしたものが「毬花(まりはな、きゅうか)」。これがビール造りに欠かせない原料「ホップ」の正体です。
さて、畑の一区画では、この収穫体験のために、既に2列ほどの蔓を地上に引き下ろしてありました。
参加者にはホップを入れる袋とビニール手袋、蔓を切るための鋏、熱中症予防のための麦茶が配付されました。蔓の両側にビールのプラスティックケースが点々と並べてあって、参加者はそれに座って、プチプチと手でホップを摘み取っていきます。
ぼっち参戦なので最初のうちは勝手が分かりませんでしたが、私の周りに座っていた人たちは既に何度もこのイベントに参加している常連さんたちであったらしく、手慣れた様子で適当な長さに蔓を切って手繰り寄せると、手際よくプツプツと毬花を摘んで袋に入れていきます。見よう見まねで私も同じようにやってみました。あ、意外とハマる、この作業。没頭して黙々とやれちゃう。
それにしても、なんてイイ香り。柑橘類の香りにも似た、甘く爽やかでうっとりするような香り。最初に摘んだこのホップの名は、カスケード。アメリカンホップの代表品種で、とりわけその強いアロマが世界中のビールファンから支持されています。この香りはIPA好きにはもはやお馴染みの香りでしょう。
スタッフさんは参加者の様子を見ながら、写真を撮ってくれたり、ホップやビール造りに関する面白い話をたくさん聞かせてくれました。
例えば、ホップの花言葉は「不公平」。なぜかというと、ホップは雌雄異株の植物なんですが、農家で育てられているホップは全て雌株。つまり、ここに植えられているのはみーんな女の子。で、農家さんは雄株が1株でも紛れ込んでいると、ただちに廃棄する。男は出てけってことです。なぜかというと、雌株にある毬花は、受粉してしまうと、その味や香りが変わってしまって使い物にならなくなってしまうらしいんですね。だからホップ農家さんは雌株だけを大切にし、雄株を嫌う。雄株にとっては不公平だ……って意味なんですって。へー。
また、ホップはアブラムシなどの病害虫対策が欠かせないらしく、今から数年前のある年には、収穫体験の募集を終えた後でホップ全体が病気にかかってしまい、ホップ摘みを楽しみにして来たお客さんに急きょブルーベリー摘みをしてもらって、大ひんしゅくを買ってしまった……とのこと。でも、今年は幸いにも大きなトラブルに見舞われることなく収穫ができてよかったですよ、というお話だったんですが、やっぱりそういう話を聞くと、農業というのは大自然を相手にする仕事だから思うようにいかない大変な仕事だなぁ、としみじみ思うのですよね……。
カスケードの列の摘み取りが終わると、隣の列へ。こちらは「チヌーク」という、違う種類のホップです。しばしば「松のような」と表現される力強い香りが魅力的です。カスケードよりも毬花が柔らかいせいか、皆さんあっという間に摘み終わってしまいました。ホップ収穫体験は10時から12時までの予定でしたが、スタッフさんから11時半に「ちょっと早いんだけれども暑いからこれで終了にしましょう」という声がかかりました。摘み取ったホップを、品種が混ざってしまわないように注意しながら、スタッフさんに渡します。
畑の隅にあるテントの下では、参加者から渡されたホップをせっせと大きなカゴに移しているスタッフさんがいらっしゃいました。「この後このホップはどうなるんですか」とお尋ねしたところ、冷凍してから粉砕してビールの製造に使うのだそうです。
さてこの後、13時半から「交流会」として、食事やビールの提供&ビール工場見学を含む有料のイベントが控えているわけなんですが、私は自家用車で来ているのでもちろんアルコールを摂取するわけにはいきません。というわけで、交流会には最初から申し込みをしていませんでした。したがって、ここで離脱です。ああ、交流会にも参加したかったな~。
参加者全員に、隣にある「湯楽里館」という温泉施設の無料チケット(レンタルタオル付き)が配られたので、せっかくなのでお風呂に入ってきました。なんせもう汗で服がびちゃびちゃだったんですもん。こんなこともあろうかと着替えも持ってきているのです、ふふん。お風呂で髪や身体を洗って服を着替えるとスッキリしますね。
もちろん、帰り際には売店に立ち寄って、オラホさんの缶ビールを買い求めましたよ。これは今後のクラフトビール記事の中でおいおい紹介していきますね。
さて、ホップ摘み作業の途中で、スタッフさんから「もしよかったら、おうちの方へのお土産としていくらかホップを持ち帰ってもいいですよ。蔓ごといっちゃってください」と言われていたので、その言葉に甘えて、少しばかりビニール袋に詰めて持って帰ってきたのでした。じっくり観察してみたかったし、息子にも見せてやりたかったしね。
こちらがカスケード。
毬花の、松かさの形がしっかりしています。縦に切ってみると、中心部分に黄色い粒々が並んでいるのが見えます。この黄色い粒々が「ルプリン」。ホップの香りや苦みの元になる成分です。ちょっと舐めただけでも、顔をしかめたくなるぐらい苦いです。
そして、こちらはチヌークです。
松かさの形がやや開いていて、カスケードに比べるとやや大きくて柔らかめです。こちらも毬花の中にはルプリンが詰まっています。
さてさて、せっかくだから貰えるもんは貰っておこうとばかりに、こんなにもたくさんホップを持って帰ってきちゃったんだけど、はてさて、これをどうしたものかしら。
とりあえず、「ホップは天ぷらにすると美味い」という話を前に聞いたことがあるので、作ってみました。
てんぷら粉で衣を作って、油でカラッとなるまで揚げてみて、塩をふってみました。息子と一緒に、ちょっと味見をしてみましょう。サクッ。カリカリ……。お、良い食感。塩気も効いてて、これは美味し――苦ァァァァァ!!!!!
かなり強ーーーーい苦味が後からやってきます。にっが!そして、お口の中はアロマホップの強烈な香りでいっぱい。他の料理の味や香りが分かんなくなっちゃうぞ。こりゃあかんわ。家族も、1個や2個までは「面白いね」とか何とか言いながら口に運んでくれましたが、その後、誰ひとりとして箸は動かず、残念ながらこれはうちの家族の誰の舌にも合いませんでした。
残った毬花は、まとめて水で煮込んで、さらに大量の砂糖を加えて煮詰め、ホップシロップにしてみました。少量ずつを、サイダーや水で薄めて飲みます。こちらはさほど苦くないので、暑い昼間の水分補給にも使えそう。ちなみにホップには気分を沈静化する効果があって、不眠症などのトラブルにも効果があるそうですよ。へー。