つれづれぶらぶら

記事の更新順序が時系列に沿ってなくてごめんなさい。映画の感想はどうしても時間を空けずに書きたいのよねん。

『カラオケ行こ!』

TOHOシネマズ甲府で、映画『カラオケ行こ!』を観てきました。


www.youtube.com

movies.kadokawa.co.jp

合唱部部長の岡聡実(おかさとみ)はヤクザの成田狂児(なりたきょうじ)に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲はX JAPAN「紅」。聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が・・・。聡実の運命や如何に?そして狂児は最下位を免れることができるのか?(映画公式サイトより転載)

 

原作は「和山やま」さんのコミック。


www.youtube.com

和山さんの漫画は『女の園の星』がめっちゃ好きで(エターナルカオルあたりで息が苦しくて死ぬかと思ったぐらい、息子と一緒になって笑い転げた)、この『カラオケ行こ!』の原作も読みたいなと思っていたところです。今度『ファミレス行こ!』と一緒に買ってこよーっと。

 

公開されたばかりの作品なので、内容にはあまり触れないでおこうと思うんですが、総評としてはめっちゃ良かったです。

原作が「ヤクザと中学生がカラオケ特訓」という奇想天外な内容なので、笑える映画だということは分かっていたんですが、ちょいちょいエモい——青春のほろ苦さをしみじみと味わうようなシーンがあって、じーんとしました。とりわけ、聡実くんが「紅」を歌うシーンは思わず目頭がうるっと。いやー、魂の熱唱だったねぇ。

もちろん、笑えるシーンはたくさんあって、狂児の「紅だぁーーーーっ」とか、傘の柄とか、ヤクザへのダメ出しとか、もう劇場内も笑い声がどっかんどっかん上がってたんだけど、特に我慢できなかったのが「愛とは、分け与えること」だと知った直後に聡実くんが両親のある行動から目が離せなくなってしまったシーン。「俺の心の中で光ってるで……ピカピカや……」っていうエモいフレーズは、このシーンのためのフリやったんかッとツッコミたくなるぐらいにピカピカに光ってましたな、アレが(笑)

 

主演は、狂児役の綾野剛さんと、聡実役の齋藤潤くん。

とはいえ、パンフレット内で山下監督も語っているように、この映画の実質的な主役は聡実であって、これは思春期の男子中学生の成長を描く物語なんですね。なので、狂児は表には感情をほとんど出さず、聡実からのフィルターを通した「幻のような男」として描かれています。

それにしても、綾野剛さんはこういった役どころを演るとホンマにハマりますね。人懐っこく甘えたような笑みを浮かべたかと思うと、ちらっと狂気じみた暴力的な目つきもする。映画を観ながらふと思い出したのは、竹中直人さんの若い頃の持ちネタの「笑いながら怒る男」なんですが、綾野剛さんがあのネタやったら面白いだろうなぁ(笑)

しかしながら、やっぱりこの映画の肝は齋藤潤くんの瑞々しい演技ですよ。すっごくいいですね、この子。原作漫画ではモノローグがいっぱい書かれているから、聡実くんが何を考えているのかが難なく分かるんだけど、この映画では一切モノローグを使っていないんですね。齋藤潤くんが表情やしぐさで感情を表現しないといけないわけなんですよ。それがね、ホントにものすごーく上手かったです。

狂児に最初にカラオケに連れてこられた時の、怯えて身体をすくめている感じからの、なんで僕がこんな目に遭わんといけんのやといううんざりした感じ、狂児の歌を聴いてビックリしつつも、次第に開き直ってチャーハンをふてぶてしく食べているところとか、モノローグがなくてもちゃんと心の動きが伝わってくるんですよね。そしてトドメの「終始裏声が気持ち悪い」(笑)

学校生活や家庭でのパートは原作にない部分がかなり追加されているらしく、あの「映画を見る部」は映画オリジナルだそうです。聡実くんが唯一本音を話せる場所って感じで、ああいうフラットな友人関係っていいですよね。上映されている映画もまた渋いものばっかりで、死んだ天本先生の趣味なんだろうなぁって思ったりね。

 

観終わってから、映画パンフレットを見てようやく気づいたんですが、この映画を撮った山下監督って、『1秒先の彼』の監督さんだったんですね。そういえばあの映画もTOHOシネマズ甲府で観たんだったっけな。

sister-akiho.hatenablog.com

あの映画も、さんざん笑える映画だけどエモい、という印象だったので、この監督さんの持ち味なのかもしれませんね。今後注目してみたい監督さんですね。

 

そんでもって、エンドロールの途中で驚いたのが、ロケ地に「甲府市」とあったこと。お話の舞台が大阪なので、てっきり関西方面で撮影したのかと思いきや、撮影自体は横浜や千葉などの関東で行われたとのこと。そしてこの甲府ではどのシーンを撮影したのかというと、ヤクザの事務所やスナックなどがあるアンダーグラウンドな地域「ミナミ銀座」のシーン。その名もずばりの「南銀座」と呼ばれる一帯が甲府市街地にあると知り、すぐにグーグルマップで検索してみたところ、おやおや、ちょうど今から行こうとしていた「Hops&Herbs」のすぐ近くじゃないの。「Hops&Herbs」は、このブログでも何度かご紹介したとおり、私の大好きなアウトサイダーブルーイングさんのブルーパブです。ちょうどいいやということで、甲府市街地に戻ってから、ロケ地となった南銀座に立ち寄ってきました。

おー、このゲートなんかは、映画で見たそのまんまですね。通りの入口の右手、映画では壊れかけた「ミナミ銀座」という看板がはめ込まれていたところもあります。スナックやソープランドなどが並ぶあたりで、さすがに中学生が1人でうろうろする場所ではないかな。甲府の市街地はこういった細い路地がたくさんあるみたいですね。ここに綾野剛さんたちが来てたんかーっ。撮影してるの見てみたかったなー。

ロケ地の聖地巡礼した後は、徒歩1分ほどの近くにある「Hops&Herbs」で美味しいビールを堪能しました。そのビールについてはまた今後の記事でご紹介しますね。

 

ともあれ、なかなか良い映画でした。エンディングで流れる、Little Glee Monsterと府中第四中学校合唱部の合唱による「紅」も感動的でした。是非でっかいスクリーンでご堪能ください。


www.youtube.com

 

『ゴジラ-1.0』

先日、松本市美術館で『映画監督 山崎貴の世界』を息子と一緒に鑑賞して、VFXすごかったね、『ゴジラ-1.0』はなかなか面白そうだね、観に行きたいね、なんて話してたんですね。sister-akiho.hatenablog.com

というわけで、今日、息子を連れて、岡谷スカラ座に観に行ってきました。もうご覧になった方も多いとは思いますが、まずは予告編からご覧くださいまし。


www.youtube.com

godzilla-movie2023.toho.co.jp

物語の舞台は、第二次世界大戦末期の昭和20年(1945年)から、敗戦の傷がまだ色濃く残る昭和22年(1947年)にかけて。なんと、初代ゴジラ(1954年)よりも前の時代を描くというのがこの作品の最大の特徴であります。

主人公は、特攻隊の生き残りの敷島少尉。特攻に向かう途中、乗っていた零戦が不具合を起こしたとして、大戸島の守備隊基地に緊急着陸したが、そこで島の住民が「呉爾羅」と呼んでいる謎の巨大生物の襲撃に遭う。

敗戦後、東京に戻ってきた敷島は、東京が一面の焦土と化し、自分の帰りを待っているはずの両親も亡くなったことを知る。そんな中、敷島は、赤ん坊(明子)を抱いた一人の女性・典子と出会い、成り行きで共に生活することになる。

やがて、敷島は生活費を稼ぐため、危険な機雷除去の仕事を行う掃海艇「新生丸」で働くことになり、秋津、野田、水島という仲間を得た。生活は少しずつ豊かになり、典子・明子とも家族のように暮らしていく。しかし、敷島の心の中では依然として戦争は終わっておらず、毎夜、自分が見殺しにしてきた人々のこと、そしてあの恐るべき「呉爾羅」の記憶にうなされ続けるのだった。

その頃、ビキニ環礁では米軍による核実験が行われていた。そしてそれ以降、太平洋で謎の超大型怪獣の目撃情報が相次ぐこととなる。そして、その謎の怪獣は、ようやく復興を始めたばかりの東京に向かって、移動を開始したのだった────!

 

あらすじを見ただけでも、なかなかに興味をそそられる内容ではあります。敗戦で何もかも失った「零」の状態の日本を、さらにゴジラが蹂躙していく。これはもはやゼロではなくマイナスだ、という意味を込めたタイトルが秀逸ですね。

ただ、ですね。私個人としては、少しだけ躊躇するところもあったんですよ。同じ山崎貴監督の『STAND BY ME ドラえもん』を過去に劇場で観た経験があって、お好きな方には申し訳ないんだけれども、どうにも私には合わなかった。映像はね、すごく良かったんですよ。ただ、脚本がね、なんかこう、「泣けるでしょ?」ってドヤ顔で差し出された気がして、私の苦手なタイプだったんです。だもんで、公開直後はちょっとだけ様子を窺ってたんですけど、シネフィルの方々にもおおむね評判が良いのを確認して、ほんじゃ行こうかねと。私も用心深いなー(;^ω^)

 

で、観た感想なんですけど、いや、なかなかに面白かったです。

何と言っても、やっぱり映像が半端なく凄いですよね。これはCG合成だと分かっていても、ものすごくリアルに見えて、爆風や砂煙、水しぶきなどの臨場感がものすっごい。松本市美術館で事前に映像作りの裏側を見せてもらっていたにもかかわらず、実際に映画を観ると本物としか思えない。とりわけ、あの波打つ海の表現にはビックリですよ。あれ全部CGなんですってさ。はえ~すっごい……。

そして、スクリーンいっぱいに襲い掛かってくるゴジラの大迫力ったら、ホント恐怖の化身ですよ。あの背中のトゲみたいなのが青く光ってガシャンガシャンって動き始めると、うわっ、来るぞ来るぞ!ってドキドキしちゃう。ちょっと傷を負わせたぐらいじゃすぐに皮膚がむにゅむにゅって増殖してあっという間に再生しちゃうってんだから、こんなんどないして倒せっちゅーねん。しかもこっちには満足な武器も軍隊もないっちゅーねん。もうね、前半パートは、ひたすら「やめてぇぇ」って言いたくなる感じ。もうやめて!日本のライフはとっくにマイナスよ!

なんせね、大戸島の「呉爾羅」(特撮ヲタの息子によると、あれはゴジラザウルスという「生き物」なのだそうです)の時点で既に恐ろしい。大きさも12メートル程度で口から熱線も吐かないんだけど、逃げまどう守備隊を次々と頭っからマミってはポイ、マミってはポイするあたりがタチ悪い。そんなただでさえ恐ろしいジュラシックパークの生き残りみたいなやつが、放射能を全身に浴びてさらに巨大化、体内に原子炉もってて熱線も吐くぞ!みたいな悪趣味な進化を遂げたわけですから、もうホントにどないせえと。ってか、これ70年前に作られた初代「ゴジラ」の設定に忠実なんですね。よくこんなの思いついたよね。すごいな。

 

個人的に、これは特に良かったと思ったのは、劇伴音楽です。

ゴジラと言ったら、そりゃもう伊福部昭先生の「ゴジラのテーマ」なわけですよ。今回の映画でも、劇中でゴジラが現れるシーンでは効果的に鳴り響いていました。改めて聴くと、本当にこの曲の完成度はものすごく高いなぁと感服してしまいます。少ない音数で展開もミニマル、なのにどこまでも重厚で、何か恐ろしく禍々しい雰囲気を否応にも高めてくれます。そもそもゴジラは戦争の象徴として作られた存在ですが、このゴジラのテーマも、まるで軍隊が足並みを揃えて進んでいくようなザッザッザッザッというリズム、戦艦や戦車のような重々しい音の迫力があって、まさしくゴジラそのものという感じです。

そんなゴジラのテーマを中心に据えたサウンドトラック作りというミッションは、相当に難易度が高いものと思われます。そんなところに今どきの歌手の甘ったるい歌声やら、泣け泣けと言わんばかりのお涙頂戴メロディなんぞを乗せられたら、そりゃもう全部が台無しになってしまっていたでありましょうよ。でも、今回、ゴジラのテーマを最大限にリスペクトしつつ、クールでドライな感じで、劇伴音楽が自己主張しすぎていないのが効果的だったと思います。エンドロールの曲も良かったですね。

 

で、懸念していた「脚本」については。

うーん…………。やっぱりね、ちょいちょい気になるところは、正直ありましたよ。っていうか、あまりにも台詞が直截的すぎる。序盤の安藤サクラさんのシーンなんか「ああ、もったいない。サクラさんなら、こんな露骨な台詞を言わなくても、演技力で充分にこれ以上の感情を表現できるだろうに」って思ったぐらいです。いや、ホントにね、せっかく演技力に定評のある俳優さんをこれだけキャスティングしたんだから、もうちょっと俳優さんの力を信頼してほしかったな。っていうか、おそらく、台詞で全部説明しちゃいがちなのが山崎監督の脚本のクセなんでしょうね。そこは賛否両論あるところだと思うんですけどね。「はっきり台詞にして説明してほしい」っていう観客もいるでしょうし、私のように「皆まで言うなよダセーな」って感じる人もいるでしょう。いや、感じ方は人それぞれあっていいんだけど。いいんだけどさ。あくまでも個人の感想です。

 

あと、山田裕貴くんが唯一の元気キャラで、なんかホッとしますね。山田裕貴くんは個人的に贔屓にしている俳優さんで、役ごとに表情から何から全部変えてくるカメレオン俳優ぶりが素晴らしいなと思うところなんですが、今回は、戦争にちょっと憧れる無邪気キャラで、ちょいちょい失言もするけど、最終的には美味しいところを持っていく愛されキャラです。彼の明るさが映画の中の光になっていましたね。

それと、吉岡秀隆さんは子役の頃から見ているけれども、最近はめっきり「ぼさぼさ白髪の先生キャラ」に落ち着いちゃった感がありますね(;^ω^)

 

さてさて、今回、岡谷市の中心部にある映画館・岡谷スカラ座で観たわけなんですけれども、なんと、この映画館の近くには、今回の映画のロケ地があるのです!

それが「旧岡谷市役所庁舎」。国登録有形文化財に指定されている歴史的建造物です。

せっかくなので建物の前を通りかかってみましたが、表札が「第二復員局」になってる~( *´艸`)

普段は一般公開されていないのですが、この週末は、事前に抽選で選ばれた人々限定で特別に内部が公開されていたようです。映画の中でも重要なシーンに使われていた建物なので、中に入れなくとも、外観からその雰囲気を楽しんでほしいですね。

そんなわけで、ロケ地となった岡谷市は、現在、街を挙げての「ゴジラブーム」が真っ盛り。ショッピングモール「レイクウォークおかや」では歴代のゴジラの映画ポスターが展示されていたり、スタンプラリーや謎解きゲームなどの企画も行われています。

もちろん、期間限定のコラボ商品もありますよー。唐揚げのテイクアウト店「マンモウ万博」さんの大鶏排(ダージーパイ)、その名も「ゴジラチョップ」は、まるでゴジラから剥がれ落ちた皮膚みたいに真っ黒け!LCVの地域情報バラエティ番組で取り上げられたのを見ていて、これは是非とも食べてみなくては!と買いに走ったのでした。

1枚がとんでもなくでっかいので、晩御飯のおかずに、油淋鶏タレをかけて食べました。パリパリの黒い皮が美味しかったです。ああ、これでうちの家族も全員ゴジラ細胞に感染してしまったわー(;^ω^)

 

ともあれ、純粋に面白かったし、やっぱあの映像の素晴らしさは是非とも大きなスクリーンで満喫してもらいたいと思うので、皆さんも映画館に足を運んでみてくださいねー!ヾ(*´∀`*)ノ

『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

『北極百貨店のコンシェルジュさん』に続いて、もう1本観たのが『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。タイトルが長くて覚えきれない(^_^;)

元SDN48の大木亜希子さんの実話に基づくエッセイを原作とする映画化だそうです。まずは予告編からどうぞ。


www.youtube.com

tsundoru-movie.jp

原作を読んでおらず、映画館で予告編を観たことがある程度の知識しかない状態で入場。タイトルの「元アイドル」という部分のインパクトが強いせいで、なんとなくセンセーショナルな、ガヤガヤした派手な内容の映画なのかなと思っていましたが、実際に観てみると、良い意味で予想を裏切られましたね。

まず、この映画では「元アイドル」という部分はたいしてクローズアップされていません。序盤に主人公の青木安希子が、押し入れの奥から出してきたアイドル時代のコスチュームを着ようとするも太ったためにもう着られなくなっている、というエピソードが小さく挿入される程度で、この映画のシナリオ的には「元アイドル」であるという属性はあまり重要ではありません。要するに20代前半まで煌びやかな生活を送っていた女性が、セカンドキャリアに失敗して貧困に陥っている、というシチュエーションが前提となっているわけです。そういう意味では、この映画は多くの女性、あるいは男性をも含む、「かつてキラキラした日々を過ごしたことがある」人々にとって共感できるテーマであると言えましょう。

かつての「キラキラした日々」の感覚から抜け出せず、SNSなどでリア充アピールを繰り返す安希子。しかしセカンドキャリアとして始めたライターの仕事も鳴かず飛ばずで、生活はジリ貧で気持ちは焦るばかり。ついには駅で「足が動かない」というパニック障害を発症し、会社を辞め、預金残高たったの10万円という「詰んだ」状況に陥ってしまう。

そんな安希子を見かねて、親友のヒカリからある提案が持ちかけられた。都内の一軒家に住む56才のサラリーマン男性とのルームシェア。赤の他人のおっさんと同居なんて!と戸惑う安希子だが、風呂付き家賃月3万円という好条件に、背に腹はかえられぬと、おそるおそるその家を訪ねてみた安希子。そんな安希子を出迎えたのは、穏やかでつかみどころのないおっさん「ササポン」だった────。

 

主人公の安希子を演じるのも元アイドル、乃木坂46の深川麻衣さん。私はあまり秋元康系列アイドルに詳しくないもんで、失礼ながら初めて認識したんですけど、表情が豊かで表現力のある女優さんだと思いました。意志の強さを感じさせる目元と、口元のほくろが愛らしいです。やさぐれた般若の表情や、顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣く表情、恋に落ちかけた時の素直じゃない笑顔とか、スクリーンいっぱいに深川さんの魅力が広がっていました。これから注目してみていきたい女優さんですね。

しかしながら、この映画で最も愛くるしいのは、何と言っても、井浦新さん扮する「ササポン」でしょう!丸眼鏡にくしゃくしゃな髪、まったくお洒落とはほど遠い気の抜けたファッション。好きなものは刑事ドラマと大根の漬け物で、口癖は「テキトーにくつろいでー」。若い美女が目の前にいるというのに全く緊張感がなく、安希子のプライベートに対しても、「同居人」としての最低限の介入(冷蔵庫の棚は分けてねとか、夜中に大声は出さないでねとかいう、本当にその程度)しかしてこない。

日中はサラリーマンとして出社しているけど、どこで何の仕事をしているのかも不明(どうやら管理職らしい)。休みの日は庭で土いじりをしていたり、珈琲を丁寧に淹れたり、へったくそなピアノを弾いていたり。でも、軽井沢に別荘を持っていて、過去には真っ赤なスポーツカーも所有していたらしいことから、ササポンにもどうやらキラキラした過去があり、いくつかの挫折を経てきたらしい……(終盤に少しだけササポンの口から語られるものの全体像は最後まで不明)。

ササポンの、安希子へのほどよい距離感がホンットに素敵です。安希子の見栄を張った強がりにも、人生詰んだと嘆く悲哀にも、嬉しいことがあって喜んでいる時にさえ、淡々とした表情を変えずに「へー。そう。これ食べる?」と漬け物を差し出してくる、この暖簾に腕押し感たるや。

それでいて、安希子が病に倒れると仕事も置いて駆けつけてきてくれる。安希子が真剣にアドバイスを求めてきた時には、きちんと安希子の胸に届く言葉をくれる。ササポンは、安希子をまるで「遠い親戚からお預かりした大切な娘さん」のように扱ってくれるから、安希子のささくれた心も徐々に癒されてゆくのです。

こんな都合のいいおっさんが現実におるんかね!?本当は妖精さんか何かじゃないんかね!?……と思うけど、映画パンフレットの対談にも登場している(お顔は秘密)ところを見ると、ちゃんと実在するおっさんのようです。いいなぁ大木亜希子さん!こんな素敵な経験ができたなんて、全然詰んでないじゃん、むしろ超ラッキーじゃん!……なんて、やっかみたくなるぐらい、ホントにササポンは素敵なおっさんなんですよー!

ササポンの名台詞の中で、私の胸に刺さったのが、これ。


www.youtube.com

「おまえの話を聞かせてよ。」

そうなんだよね。若いうちは自分のことだけで世界が回っていたのに、結婚とか育児とか介護とかを経ていくうちに、だんだん子どもや家族を中心に世界が回っていく。「私」は透明なフィルターになって、周囲の世界を語るだけの存在になっていく。でも、どんなに年齢を経たとしても「私」が消えるわけではなくて、そこにはさまざまな夢や葛藤があるはずなのにね。そこを指摘できるということは、やはりササポン自身の内側にも色々な夢や葛藤が未だに存在しているということなのでありましょう。ほとんど外に表さないだけでね。

また、この台詞から、なぜササポンが見知らぬ若者をルームシェアさせているのかも、ほのかに推察できます。まるで人生を達観したようなササポンだけど、その心の奥底ではやっぱり人間の生々しい感情を愛おしむ気持ちがあるのかな。あるいは過去の苦い挫折の記憶から、迷える若者を救いたいと思っているのかな。そんなふうに考えてみたところで、きっとササポンは「ふーん?」って興味ない感じでスルーしちゃうんだろうけど(笑)

 

あまり期待しないで観たわりには、予想外に良い映画でした。最初にも言ったとおり、男女の別に関わりなく普遍的なテーマを扱っているので、やることなすこと裏目に出ちゃってるなぁとか、ちょっと煮詰まってきちゃったなぁとか、SNSを盛るのにも疲れたなぁとか、最近なんか自分が情けなく感じるなぁとか、そんなふうに「詰んだ」と感じている人々には割と刺さるかもです。私も、いくつかのシーンで、これってあの日の自分みたいだなぁ、と胸をキュッと締め付けられるような気持ちになりましたしね。おばはんになったってね、まだまだ達観なんか出来っこないしね、もがいてますよ毎日あれこれ、ね(笑)

 

ところで、ササポンの軽井沢の別荘のロケ地って、ドラマ『カルテット』の別荘と同じ建物かな?あの特徴的なテラスに見覚えが……?