つれづれぶらぶら

「予告先発」という単語を見て胸がトゥンク。ついに始まるのね……!

瀬戸内寂聴さんの訃報に「ぱーぷる」さんを思い出した件

作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが9日にお亡くなりになったとの訃報を聞いた。

ニュースで99歳だったと聞き、えっ、そんなお年だったのかと思った。だって、テレビや雑誌でお姿を拝見すると、いつも若々しくて、精力に溢れている感じだったもの。お肌がつやつやしていて、表情が豊かで、怒っているときでさえチャーミングな雰囲気をまとっている方だった。

瀬戸内寂聴さんの書籍というと、『源氏物語』関連の本や、良寛さんを題材とした『手毬』などを読んだ記憶がある。性愛をテーマとした作品が多いというイメージを持っている。露骨じゃないけど生々しい、女のドロッとした部分を描く作家さんという印象。

で、そうか、寂聴さん亡くなられたかぁと思ったとき、ふと記憶の引き出しがひとつ開いたのだ。

そういや、瀬戸内寂聴さんの書いた小説、私、もういっこ読んでたな、と。

いや、正確には、「瀬戸内寂聴」さんの作品ではない。「ぱーぷる」さんが書いた「ケータイ小説」だ。タイトルは『あしたの虹』という。

紙の本には「ぱーぷること瀬戸内寂聴」と、しっかり作家名が表示されているけれども、初出の時点では匿名の「ぱーぷる」名義だった。

この作品が投稿されたのは、ケータイ小説サイト野いちご。魔法のⅰらんどから分離独立したケータイ小説サイトで、魔法のⅰらんどとともに「ケータイ小説大賞」というアワードを主催していた。この『あしたの虹』は2008年の「第3回ケータイ小説大賞」への応募作として書かれたもの。この第3回は、源氏物語が千年紀を迎えるということで、瀬戸内寂聴さんを名誉実行委員長にお迎えして開催されたという背景を持ち、授賞式で寂聴さん本人から「ぱーぷるは私でした」とサプライズ告白した。

そんなわけで、応募期間中はまったくの素人のふりをしていた「ぱーぷる」。わざわざ偽のプロフィールまで準備されていた。それがこちら。

ぱーぷるさんのプロフィール | 野いちご - 無料で読めるケータイ小説・恋愛小説

ツッコミどころは満載だが、やはりここ↓にツッコむべきだろう。

【好きな食べ物】お肉(特にウシ)

僧侶なのにお肉。しかもウシて。ええのか。あと、「ジャカスカ」という言い方もほのぼの可愛い。このとき既に寂聴さん86歳。文豪のおばあちゃまが嘘プロフをニヤニヤしながら書いていらっしゃる姿が目に浮かぶようで、楽しそうだなぁ。

で、『あしたの虹』である。

当時、ネタバレ発表の後で、私も野いちごでそれを読んだ記憶がうっすらとはあるんだけど、まるっきり内容を覚えていなかった。いや、ごめん、つまらんかった、という記憶だけがかすかに残っていて、内容自体は――おそらく途中で読むのんやめたんちゃうかったかなぁ。

それで、野いちごで改めて読み返してみようと思ったら、既に作品は非表示になっていて読むことができない。権利関係かな。いや、しかし、野いちご運営さんや、せめて公式Twitterあたりで瀬戸内寂聴先生の訃報への言及ぐらいしなさいよ、かつてお世話になった偉大な作家への謝辞ぐらいあってしかるべきじゃないのかね、そういうとこだぞスターツ

そんなわけで、どこかで読み返せないかなと思い、いつものように「すわずら~」で諏訪6市町村の図書館の蔵書状況を検索。すると、なんと岡谷市図書館に1冊あることが判明。岡谷市図書館は使ったことがなかったけど、この機会に登録しておこう。

で、岡谷市図書館に行ってみると、入口すぐのところに「瀬戸内寂聴さん追悼コーナー」が設けられている。おお、仕事が早いな、と思って覗いてみるも、『あしたの虹』がない。館内検索システムで確認してみると、なんと閉架書庫にあるらしい。さっそく司書さんに頼んで取り出してきてもらい、借りてきた。

 

『あしたの虹』は、両親の不倫・離婚による心の傷を抱える女子高生のユーリが、アルバイト先で出会ったヒカルという青年に恋をする物語。ヒカルは絶世の美貌を持つ青年だが、顔の半分に大きな火傷の痕があり、何らかの秘密を抱えているらしい――。

ええと。寂聴さん、ごめんなさい、改めて読み通しましたが、やっぱおもんないです。

『恋空』とか『Deep Love』とか、あのへんを一生懸命研究なさったんやろうなぁ、という感じが、すごく、する。高校生が軽はずみなノリで性交渉しちゃったり、元カレが芸能人になって戻ってきたり、避妊もしないで「愛を確かめ合った」ら、そりゃ妊娠しますわなというか。なんかもう、全体的に軽率でご都合主義で、出てくる登場人物がことごとく刹那主義的っつーか、まぁ無責任にぽいぽい失踪したり戻ってきたり、なんでそれで笑顔で皆で迎え入れちゃうんだろう、と開いた口が塞がらない内容であった。

ごめんなさい寂聴さん、ぶっちゃけ苦痛でした。つまんねぇぇぇ~~~と呟きながらページをめくっておりましたよ。この声が届いておりませんように。

でも、それでもやっぱり、寂聴さんはスゴい。これだけのキャリアがあって、数々の輝かしい文芸賞の受賞歴があって、僧侶としても超有名で多くの悩める人々に尊敬されていて、審査員席にふんぞり返っていても誰も文句言わないっていうのに、わざわざ「ケータイ小説とはどのようなものかしら」と我々のところまで降りてきてくださった。

馴れない文体に相当苦労もなさったようで、こんな講演録も残っている。

internet.watch.impress.co.jp

ワクワクとドキドキを忘れた瀬戸内寂聴氏は、感動をよみがえらせるためには「秘密を持つ」という結論に達した。「秘密を持つには恋をするのが一番良いのですけれど、なにしろ86歳の尼さんがいまさら恋をするのはみっともないだけでなく見苦しいだけ。相手にしてくれる人もございません」。そこで、若い人が夢中になっているというケータイ小説に着目した。

99歳まで、あれほど精力的に活動しておられたのは、やはり並外れた好奇心とチャレンジ精神をお持ちだったからなのだなぁ、と感服するばかりだ。いかんいかん。私なぞはすぐに「めんどい」とか言っちゃう。若い人の流行りについていけなくなっちゃってる。で、「昔のほうが良かった」なんて言い訳がましく言っちゃう。いかんいかん。雲の上にいるような大ベテランの先輩方が果敢に新しいことに挑んでいる姿を見習わねばいかんのだ。

そうそう、岡谷市図書館には、筒井康隆氏の『ビアンカ・オーバースタディ』も(やっぱり閉架書庫に)あったので、これも一緒に借りてきた。筒井康隆といえば泣く子も黙るSF・ナンセンス小説の神様だが、その筒井先生が77歳にして執筆したこちらは、なんとジャンルが「ライトノベル」、いわゆるラノベである。

いや、これは「メタ・ラノベ」とでも言うべきなのかな。ラノベのフォーマットで書かれているけど、内容は筒井康隆的通常営業、要するに下世話ドタバタはちゃめちゃナンセンス。美少女がひたすらピチピチのオタマジャクシを収集し続けるお話(下ネタ)。

内容もなかなかにバカバカしくて笑えるけれど、この作品の一番の読みどころは「あとがき」だろう。ひたすら「太田が悪い」を連呼するあとがき。ちなみに、太田克史さんは現在の星海社代表取締役社長CEOである。

 

それにしても、キャリアも実績もあるおじ(い)さん・おば(あ)さんが、貪欲に次のステージに進もうとしている世界って素敵だね。最近では和田アキ子さんが若いアーティストと組んでバズってたりとかね。ホント尊敬するわ。若い人にも刺激になってるみたいだし、こういうのはいいね。素敵。いやもう、頑張ろう私も、ホント……。


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