広島県呉市に「音戸の瀬戸」という、とても細い海峡があって、そこに住む人々の足となって古くから利用されてきたのが「音戸の渡し」こと、音戸渡船である。
私はこの音戸の渡しがとても好きで、以前、このような記事を書いたことがある。
片道3分ほどの、本当にあっという間の船の旅なのだが、簡素な掘っ建て小屋のような小船が、波にざぶざぶ揺すられながら狭い海峡を突っ切っていくスリル感が楽しい。
そして、その船を利用する人々――自転車を引いた学生さんたち、買い物袋を提げた主婦たち、待合室のベンチで酒を酌み交わしながら昨日のカープの試合についてああだこうだ喋っているお爺ちゃんたち――の姿や、瀬戸内の穏やかな陽気、狭い海峡をまたぐ真っ赤なループ橋の風景などが混然一体となって、なんとも形容しがたいのどかな雰囲気を作り上げている。その光景がとても好きなのだ。
その、私の愛する音戸渡船が存亡の危機にあると聞いて、さっそくクラウドファンディングで、ちょっぴりだけど応援してきたところなのだ。
もし、興味を惹かれた方がいらっしゃったら、とりあえず覗いてみてほしい。その上で、お財布に余裕があったら、支援を検討してみてほしい。お財布に余裕がなくても、お知り合いやSNSのお仲間の方々に話を広めてもらえたら嬉しい。
それ以上に私が望むのは、「へぇ、こんな風景があるんだ。コロナ禍が落ち着いたら行ってみたいな」と思ってほしいのだ。ご家族やお友達と、ぐらぐら揺れる小さな船のちっちゃな旅を楽しんでほしい。瀬戸内海の美しい島々の風景をあなたのそのカメラの中に収めてほしいのだ。小鰯の天ぷらやお好み焼きや牡蠣、美味しいものもようけあるけぇねー。
ともあれ、瀬戸内の住民にとって「船」は大事な公共交通機関のひとつなのだ。私自身も下関に住んでいた頃は日常的に唐戸港から対岸の門司港までちょいとお買い物に行っていたわけで、そりゃ関門海峡は電車でもバスでも車でも徒歩でも渡れますけどね、一番早くて安くて手っ取り早いのはなんたって船なんだもん。
そういえば以前、Mさんに尾道に連れてってもらった時にも、渡船に乗ったんだった。
この時も自転車を引いた学生さんたちに囲まれたような記憶がある。かように渡船とは住民の大事な足なのよ。なんぼ橋が架かってても、やっぱり船のほうが具合がええのよ。だから守りたいと思った、そんだけのことです。渡船が好きなのです。