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岡谷蚕糸博物館(シルクファクトおかや)

昨年、諏訪地域における蚕神信仰が気になる、という話をしてたんですけどね。

sister-akiho.hatenablog.com

「蚕玉(こだま)さま」。読んで字のごとく、養蚕業の守護神。

そもそも、この諏訪地域は昔から養蚕業が盛んで、とりわけ岡谷市は明治時代から日本有数の製糸業の中心地として日本の近代化に大きく貢献した土地なのでした。

その岡谷市に、岡谷蚕糸博物館(シルクファクトおかや)があります。このまえ、この博物館で郷土研究家の小野川美恵子さんをお招きして「諏訪の蚕神」という講演会をやると聞いてワクワクしながら聴講申し込みをしていたのですが、残念ながら感染症の警戒レベルが高く、その講演会は一度延期されたのち中止になってしまいました。

博物館のスタッフさんから中止のお知らせの電話を頂いた際に、残念だわ、諏訪の蚕玉信仰についてすごく興味があるのに、と申し上げたところ、岡谷市内の蚕玉さまをまとめた「蚕玉さまMAP」を博物館の受付でお配りしておりますので、お近くにいらした際には是非お立ち寄りください、と言われていたのでした。

そのことを、今日レイクウォーク岡谷でお買い物をしている途中でふと思い出して、そういえばすぐ近くだし、せっかくだからMAPをもらうだけじゃなくて製糸業について勉強してみよう、と立ち寄ってみたのでした。

silkfact.jp

どんな施設なのかは、こちらの動画を見て頂いたほうが分かりやすいかな。


www.youtube.com

近代日本の主要な輸出品であった「絹」を、いかに速く、多く、品質高く製造するかについて、その要である「操糸機」の改良をどのように重ねていったかが年代別に展示されています。さらに、現在の製糸の様子については、博物館の中にある株式会社宮坂製糸所の工場見学という形で見ることができます。

驚いたのは、この工場の中で実際に使っている大型自動操糸機が日産自動車製だということ。あのリーフやノートやスカイラインでお馴染みの、やっちゃえNISSANですよ。なんで自動車メーカーが蚕の繭から糸を作る機械を作っているのかというと、日産自動車に吸収合併された「プリンス自動車工業(旧社名:たま電気自動車)」が戦後、自動車以外の平和産業として着手したのが、そのころ機械化が遅れていた操糸機の自動化でだったそうです。プリンス自動車工業が完成させた自動操糸機は生糸生産量を一気に増加させ、戦後の日本の高度経済成長に貢献しました。その技術を現在の日産自動車が受け継いだのだそうです。

ちなみに、この自動操糸機の分野において日産のライバルとなるのがグンゼ。これも初めて知ったけど、グンゼって漢字で書くと「群是」なのね。何鹿郡発展において是たるべきことを奨励すべし、ゆえに郡是製絲株式會社なのだそうで。

www.gunze.co.jp

 

ほかにも、当時の工女さん(女子工員)の暮らしに関する展示もありました。工女さんのほとんどは10代後半から20代前半で、諏訪地域のみならず他県からも多くの女性たちがこの岡谷に働きに来ていたそうです。どうしても『女工哀史』の連想があるもんで悲惨な労働環境をイメージしてしまうのですが、もちろん厳しかったのは厳しかったようですが、そればかりではなくて、岡谷の町には女の子向けの雑貨屋や芝居小屋などの店がずらっと並んでいたとか、工場での給食はご飯はおかわり自由だったとか、そういう日常風景も見えてきます。何百人もの工女さんの給食を賄うために味噌や漬物を自家製造していた会社も多かったので、製糸業が衰退した後、製糸工場は味噌や漬物の工場に転換していったんですって。

 

ところで、展示物や工場での作業を興味深く眺めておりましたところ、上品そうな高齢の男性から「熱心にご覧になっておられますな」と声をかけられまして、名札を見ると「宮坂」――うわ、宮坂製糸所の会長さんだ!と内心ドキドキしたのですが、にっこりなさって、「今、あちらで『トルネードシルク』という珍しい糸を作っておりますが、お近くでご覧になられませんか」と工場内へ誘導してくださるので、せっかくの機会だしと生産ラインを覗き込んでみました。

トルネードシルクというのは、宮坂製糸所が開発した全く新しいタイプの絹糸です。絹糸といえば、細くて、滑らかで、光沢があって……というイメージですが、こちらはまるで麻糸のようにざっくりと太く、たくさんの節があります。

takaraginu.com

操糸機の水槽の中には、まるで洗濯機のように高速の渦(トルネード)ができていて、その中でいくつもの繭がぐるぐると踊っています。そこから巻き上がる糸には、節があったり、繭の内側の袋がくっついたまんま上がっていったり、時には煮えた蚕の死骸も巻き込まれていったりします(もちろんその後の処理で蚕の死骸は取り除きますが)。

宮坂会長が仰るには、このトルネードシルクに使うのは、普通の操糸機に使えなくて弾かれた繭たち。その繭をなんとか有効活用したいと考えてこの糸を開発したのだそうです。この糸で作られたジャケットや織物は、軽くて柔らかく、節や袋があることで個性的なアクセントになっていて、織物家の方々にも高評価を得ているのだそうです。

 

見学を終えて、売店でシルクのマスクを購入し(肌触りが最高!)、最初の受付に戻ってきました。

そうそう、「蚕玉さまMAP」を頂くんだった、と受付のスタッフさんに声をかけてMAPを頂き、よろしかったらこちらもお手に取って見られませんか、と講師の小野川恵美子さんが書いた『諏訪の蚕神』という本を出していただいた。A4版、171頁、カラー刷りの自費出版本で、ぱらぱらとめくってみると、諏訪6市町村内にある蚕玉さまを祀る石碑、祠、神社の写真がたくさん載っている。しかも地図もついているので、この本を片手に歩いたら、いつでも蚕玉さまめぐりができるということじゃないか。すげえ。これは買わなきゃでしょ。自費出版本ということで、どこの本屋でも手に入るというわけにはいかなそうだしね。興味がある方は岡谷蚕糸博物館の売店へどうぞ。税込1900円です。

 

そんなわけで、思いがけず良い勉強ができた今日一日となりました。社会科の授業で製糸業が日本の近代化を支えた最重要産業であったことは知っていても、実際にどうやって糸を作っているのかなんて気にしたことなかったもんなぁ。

ところで、岡谷市を発祥とする製糸業の大企業といえば、かの富岡製糸場の経営にもあたっていた片倉製糸紡績株式会社、現在の片倉工業ですけれども、その片倉工業がかつて大宮に大きな製作所を持っていた。その跡地が、現在、さいたま新都心駅のそばにある大型商業施設「コクーンシティ」。コクーンシティコクーンとは蚕の繭(cocoon)の意味だったのですよ……ということを、つい先日知りました。へー。

ついでに言うと、その片倉工業の創設当時(片倉組)の本社社屋が国の登録有形文化財として岡谷市川岸上1丁目に残っていて、その建物の隣にあるのが、前にお話しした、タケミナカタを祀る藤島社。

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蚕玉さまに始まってタケミナカタで終わる記事でございました。諏訪って奥が深いわ。