つれづれぶらぶら

旅行記はちょっとずつ仕上げていきます。お楽しみに~。

meet up Ⅼab「8Peaks BREWING」奮闘記

茅野駅に隣接する商業施設「ベルビア」の2階にある「ワークラボ八ヶ岳」。茅野市営のコワーキングスペースとして、企業、大学、個人などのワークライフ支援や地域コミュニティの活動拠点となっている施設です。私もちょいちょいデスクシェアを利用させてもらっています。

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そのワークラボ八ヶ岳では、定期的に「meet up Ⅼab」というビジネスネットワーキング・イベントを開催しています。地域で活動する著名人をゲストに招き、そのビジネス論などを聴講することで、参加者自身のビジネスなどに役立つヒントを得ようとする試みです。

まぁ、私はしがないサラリーマンだし、別に起業を考えているわけでもないから、無縁なのかなと考えていたのですが、今回、そのゲストが、我が茅野市の地元クラフトビールブルワリーである「8Peaks BREWING」の齋藤由馬さんだと聞き、是非ともお話を聴きたいと思って参加申し込みをしました。

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8Peaks BREWINGさんについては、過去にビールまとめ記事でご紹介しましたね。風光明媚な蓼科湖の正面にあるブルワリーさんです。8Peaksさんのビールは茅野駅のお土産屋さんなどでも買えますよー。

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というわけで、本日午後2時半から開催されたイベントに出席してきました。会場はワークラボ八ヶ岳のミーティングルームで、参加者は十数名。ゲストと参加者の距離が近く、参加者との質疑応答などもあって、充実した内容でした。

イベントに先立って、受付でビールの試飲チケット(500円)を購入するかどうかを尋ねられ、もちろん迷わず購入しました。

講師の紹介の後、「美味しいビールのすすめ」と題して、8Peaksのビールを作るに当たって「諏訪地域の食に合うように作る」というテーマがある、というお話をされました。諏訪湖日本海からと太平洋からの双方の「塩の道」が合流する地点。また、諏訪地方には古来から鹿肉などの赤身肉を食べる習慣(諏訪大社の「鹿食免(かじきめん)」など)があり、そういった諏訪地域の特性を考えながらビールをデザインされているのだそう。

その後、本日試飲できる4銘柄のビールについて、それぞれのビールに込められたコンセプトや特徴、オススメのペアリングなどについて、詳細な説明がなされました。

 

① Yai Yai Pale Ale

赤身肉の料理に合うように作った。オレンジの香りが特徴。麦芽のコク味があり、苦みが肉の脂を切ってくれる。

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② Meta Wheat Ale

淡泊な鶏肉や、白身魚、サーモンなどの淡水魚に合うように作った。バナナやトロピカルフルーツの香りが特徴で、酸味があり、苦みが少ないビール。セロリなどの香味野菜との相性も良く、とりわけ「セロリの塩漬け」とすごく合うので、是非試してみてほしい。

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③ Acii la Saison

夏限定ビール。高原の風を浴びながら昼間からビールを飲むイメージで作った。柚子の皮のみを使用した。

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④ 8soba

八ヶ岳の食といえばやっぱり蕎麦、ということで茅野市の北山柏原地区で作られている「玄蕎麦」(粉にする前の殻付きの蕎麦の実)を使ったビール。パイナップルやレモンのような香りが特徴で、蕎麦由来のとろみがあり、最後にふわっと蕎麦の香りがある。オススメのペアリングは、もちろんお蕎麦。

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4種類のビールの説明を聞いた後で、ビール試飲券を購入した参加者は1本ずつビールをその場で選びます。私は前々から気になっていた8ソバをチョイス。液色なども見ておきたかったのですが、今回は会場の都合上、瓶での提供になりました。

飲み口は非常に軽く、爽やかな香りとはっきりした酸味が印象的でした。苦みは少なめです。講義を聴きながらゆっくりちびちび飲んでいたのですが、ぬるくなるにつれて蕎麦の風味ととろみ感が増してきます。ぬるめぐらいのほうが私は好きかな。

 

その後は、起業向けビジネスセミナーということで、「これまであまり語られてこなかった創業期の苦労」について、創業期の苦いエピソードの数々を赤裸々にお話しくださいました。

まずは、上田市出身の斎藤さんがなぜ八ヶ岳クラフトビールブルワリーを立ち上げたのかというお話から。斎藤さんの御実家は花農家なのですが、斎藤さんは「切り花」よりも「人の役に立つ花」は何かと考えていたとき、ホップの「毬花」に注目されました。「花(ホップ)の二次加工品」としてのビールに興味を持ったのだそうです。

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そして、自分でホップを栽培してみようと考えたときに、八ヶ岳が冷涼な高原であり、80年前には日本最大のホップ産地であったことから、栽培に適した場所で栽培するのが一番いいと判断し、茅野市に移住しました。まずは市場調査から始め、諏訪でクラフトビールが市場として成り立つと判断し、28歳の若さにして会社を立ち上げました。

ところが、そこからは苦労の連続。齋藤さんが「起業に当たってやっちゃいけないとされることをことごとく網羅しました」と自虐的に語られるその内容は赤裸々なもので、メモはしっかり取ってあるのですが、私のブログで具体的にそのメモの内容を記述するにはちょっと生々しすぎるので、詳細は端折りますね(;^_^A

それらの数々の苦労から導き出された結論だけ記述しますと、方向性をすり合わせていない複数の人間が多数決で何かを作ろうとしても、しょせんは「烏合の衆」になる、ということです。ひとつ物事を動かそうとしても、全員の賛同を得るのは難しく、あれこれ口を出してくる人間はたくさんいても、実際に行動して責任を取るのは自分ひとりだったと。また、お金や商号を巡る人間関係のトラブルが後を絶たず、創業期は「美味しいビールを作りたい」という本来の目標があったにもかかわらず、人間関係の悩みに振り回されていた、と語られていました。結局は「自分でやる」のが一番ですよ、と。うーん、身につまされる。これって起業だけの話じゃないよね(;^_^A

 

続いて、「8Peaksが目指すものとその戦略」と題して、齋藤さんが考える未来への展望についてのお話がありました。

齋藤さんが目指しているのは「八ヶ岳に行ったら8Peaksを飲みたい」「8Peaksのビールを飲むために八ヶ岳に来た」と言われるようなビールを作ること。

その背景にあるのは、ビールの修業のために訪れた南ドイツでの経験でした。ドイツは世界有数のビール大国で、村ごとにブルワリーがある感じなんだとか。齋藤さんは1軒のビアパブに入り、そこにいたおじさんに「この店で一番うまいビールはどれか」と尋ねました。するとおじさんは「これだから日本人は」と呆れ、「この店で一番うまいビールだって?そりゃこの町のビールに決まってるじゃないか!」と答えたのだそうです。そして、そのおじさんと談笑しながら飲んだヘレス(ラガービールの一種)がとても美味しかったので、お土産にと同じものを買って、ホテルに帰ってから部屋でひとりで飲んでみると、あの店でおじさんと飲んだときほどの美味さは感じられなかった、と。

この体験から齋藤さんは、ビール自体の美味しさもさることながら、「ビールが美味しくなるシチュエーション(環境)を作ること」の重要性に気づいたのだそうです。そのためには「八ヶ岳いい」ではなく「八ヶ岳いい」と言わせるような環境の構築にコミットしていく必要があるのだと。

つまり、ビールづくりはすなわち「まちづくり」であり、その「まち」を好きになってもらうことが大切。一過性の「観光」から「滞在」ができる環境へ、さらに「定住」する人口を増やす。人口が少なくなればスーパーマーケットの数も減少し、ビールを売る環境も減ってしまうことから、人が減らない地域を目指していく。そのためにも、より住みやすい地域にしていくことが大事なのだと力説されました。

また、ビールという商材の特性を考えたときに、それが「液体」であるがゆえに、どうしても輸送コストがかかってしまう。またアルコール度数が低いことから、長距離の輸送にも不向き。そう考えると、齋藤さんは「ビールに旅をさせる」のではなく、「お客様に旅をしてもらう」ほうが有効ではないかと考えます。国内の観光需要とインバウンド需要、それらがうまく共存していけるように、と。

 

ここから先は「頭の中を大公開」というお題で、質問タイムとなりました。

まずはイベント企画者である牛山さんから「日々の中で大切にしていることは何か?」という問いかけがありました。それに対し齋藤さんは、会社の目的として「生き残っていくこと、先に繋げていくこと」を常に考えていると答えました。会社は個人と違って、寿命というものがありません。先の先まで、事業承継のことまで考えてやっていく。その中で、変えてはいけないこと、変えなきゃいけないことは何か、考えていくことが大切だと語られました。

同じく牛山さんから、「人(協力者)をどのように選んでいるか」という問いかけがあり、それに対しては、おそらくは先ほどの創業期の苦い体験を踏まえてのことでしょうが、「共通の価値観を持っていること」と回答されました。古い伝統のある地域に行くと、その地域の経済界の老人たちはしきりに「昔は良かった」と不平をこぼす。だが、では「今」はなぜ「良くない」のか、これから良くするために何を今すべきかという考えは持っていない人が多い。しかし、八ヶ岳地域にはそういった考えを持ち、良くするために行動を起こしている人がたくさんいる、と仰いました。

 

その後は、参加者からの質問タイム。牛山さんからの「ご質問がある方は?」という問いかけに、最初は反応を示す方が少なかったので、起業セミナーとしての質問にはなんないけどいいのかなぁ、と迷いつつも、最初に手を挙げました。

私からの質問は、クラフトビール愛好家としてのマニアックな質問。「今後、作ってみたいビアスタイルは何ですか?」と切り出しておきながら、すぐに「私はサワーエールやファームハウスエール、バレルエイジドが好きなんですが、そのへんを作ってみられる予定はありませんかッ?」と自分の個人的な嗜好を直接ぶつけてみました。っていうか、直訴やね(;^_^A

ちょっとマニアックな質問だったため、齋藤さんは他の参加者の方々にサワー、ファームハウスエール、バレルエイジドの簡単な説明をされた後(お手間をかけてスミマセン)、ファームハウスエールに関してはアチーラセゾンがありますよ、と言われましたが、もちろんそこはプロの醸造家、私が言いたいこともちゃんと汲み取ってくれて、「冬に合うファームハウスエールも考えてみたいところです」と付け加えられました。サワーに関しては、やはり乳酸菌発酵の難しさがネックになるとのこと。しかし、新しい酵母ラカンセア酵母のことですね)がその問題を解消してくれると思うので検討はしてみたい、と言われました。バレルエイジドについてもその管理の難しさがネックになっているとのこと。

そして、これはビジネスとして当たり前ですが、やはり壁になるのは市場の問題。第一次地ビールブームが頓挫した原因でもありますが、やはり人々は「飲み慣れたビール」以外のビールには抵抗感を示しがちであること。そうなんだよなー、サワー系はやっぱその問題に行きついちゃうんだよなー。私の周囲にも、サワーが好き!って言ってる人ほとんどいないもんね。ここはクラフトビール市場の成熟を待つしかないのかもなぁ。とはいえ、齋藤さんは「最近では、うちの従業員たちも自分たちで色々なビールの提案をしてくるようになりました。今後は違ったスタイルのものもお見せできるかもしれません」とフォローしてくださいました。ありがとうございます!諏訪の食に合うサワーやバレルエイジドの誕生を首を長くしてお待ち申し上げております!

 

他の参加者さんからは、「観光客だけでなく、地元住民へのアピールをしてはどうか。とりわけ冬の寒い時期、観光客の少ない時期にどうやってビールの需要を増やすかを考えるべきではないか」という提案や、「八ヶ岳登山者に対する働きかけを強めてみてはどうか」などの意見が出されました。それらに対しても、齋藤さんはひとつひとつ丁寧に、的確な現状認識に裏打ちされた経営者としてのリアルな考えを述べられていました。諏訪地域の人口の推移、ビール業界の市場規模の推移、ビール業界を支える年齢層のデータなど、詳細な分析に基づく説明にはすごく説得力がありました。

しかし、やはり全てに共通するテーマはやはり「まちづくり」。この諏訪地域をどうしていくべきなのか、そのために何を今すべきなのか、という点について繰り返し熱く語られて、クラフトビールというひとつの切り口でありながら、全ての物事、全ての地域に共通する内容だったなぁ、と充実した気持ちになりました。一介のサラリーマンである私にも何かできることがあるのかも?と考えるきっかけになりました。

 

ビールも美味しかったですし、お話もたいへん興味深くて、本当に充実した時間を過ごさせていただきました!参加して良かったです!

そして、8Peaksさんのこれからのますますのご発展を、一介のクラフトビールファンとして、心よりお祈り申し上げます。新作にも期待してます!「八ヶ岳に行かないと飲めない旨いビールがあるんだってさ」、そんな評判が全世界を駆け巡り、八ヶ岳クラフトビールファンが結集するその日を楽しみに待っております。齋藤さん、牛山さん、ワークラボ八ヶ岳のスタッフの皆さん、本日はどうもありがとうございました!