つれづれぶらぶら

5月の反射炉ビヤ行きますよー!酔い蛍グループの皆さんにまた会えるかな?

『作りたい女と食べたい女』2巻

栗林くんの新人王ユニがもう届きました。なんという驚きの早さ。

sister-akiho.hatenablog.com

新人王が発表されたのが15日。その日の夜には早々にカープ球団公式から新人王ユニ発売の告知があって、翌日の16日の朝10時に発売開始、17日の夜に発送しましたというメールが届いて、そんで今日、もう届いたっていうね。なんせ、カープ球団は自社のTシャツ工場を持っている。どこのアパレルメーカーかっていう話。

じゃーん。こちらが栗林くんの新人王ユニでーす。

f:id:sister-akiho:20211218213329j:plain

レプリカユニなので全部プリント。ま、刺繍でやろうと思ったらこのスピードにはならんわな。まだ圧着したばかりでツヤっツヤですわ。ユニフォームは着てナンボなので、来シーズンはこれを着てスタジアムに行きまくりたいものです。はよ感染症おさまらんかねー。

 

***

 

さて、話は変わりますが、『このマンガがすごい!2022』が発表になりましたね。

konomanga.jp

今回、嬉しかったのは、「オンナ編」の1位が『海が走るエンドロール』、2位が『作りたい女と食べたい女』、3位が『大奥』と、私の好きな、うちの本棚にある愛読書が揃い踏みしていることでした。

sister-akiho.hatenablog.com

sister-akiho.hatenablog.com

もちろん、これは「私が贔屓にしたものが受賞した」という意味ではなく、「世間一般に広く評価されたものだから私の目にも留まった」というだけの意味でございます。トレンドワードとかレビュー記事とかはこまめにチェックしているのでね。色んな方面から「これが良いよ」という声が聞こえてきたら、とりあえず試し読みぐらいはするようにしている。あ、よしながふみ先生の作品に関しては試し読みしないで買うけどね。ファンだもん。

で、『作りたい女と食べたい女』については、先に挙げた記事のとおり、1巻は衝動買い的に買ったんだけど、内容がとても気に入ったもんで、ネット連載も定期的に追いかけてて、2巻の発売を心待ちにしていたのですよ。

前回の記事の中では、あまり恋愛に重きを置いていない感じ、と言いましたが、2巻ではそちらの方向に明確に舵を切ってきました。野本さんが、自分の春日さんへの感情は何だろうと考えて、ようやく自分がレズビアンであることに気付くという内容になっております。

ところで、昨今のコミック界はこういったLGBTQの世界に割とリアルに切り込もうとしているものが目立ちますね。『きのう何食べた?』あたりが火付け役になったのかなという気もしますが、いわゆる「BL/GL」といったこれまでの「同性愛もの」ジャンルの作品とは微妙に性格が異なるものが登場してきているように感じます。

これまでは、「JUNE」だの「やおい」だの「BL」だのと、言葉は変わっても、結局のところそれはヘテロの読者をターゲットとして、ちょっと変わった色恋ものという味付けで消費されるものであったと思うのですよね。美少年同士の禁断の恋を、あくまでもフィクションとして楽しむという。

さらに言えば、女性同士のこういったジャンルは本当に少なくて、だいたいはヘテロの男性向けのエロコミックの素材といった感じであったように感じるんですよね。まぁ、そればっかりではないにしても、リアルな同性愛者の目線を感じさせてくれるものはあったかしら、と。

その風潮に変化が生じ始めたのが、壮年~中年男性をメインターゲットとする『週刊モーニング』に『何食べ』が掲載されたことがエポックメイキングといえるのじゃないかしら。初老カップルのテツさんとヨシくんが相続対策のために養子縁組をしようとするエピソードなんて、どう考えたってJUNEでもやおいでもBLでもないでしょう。リアルなんですよね。ああ、同性同士のカップルだと病院の付き添いや遺産相続やパートナーの葬儀やなんかで、色々と不自由なことがあるんだなって、今まで気づかなかった、気づこうともしてこなかったことに気がつくじゃないですか。

この『作りたい女と食べたい女』も、食事を題材にしながらも、これまで女性を縛ってきた旧い慣習や思い込みなどをひとつひとつ丁寧にほどいて問題提起しているんですね。

野本さんは、自分を取り巻く世界が「女性と男性の恋愛」を前提として進んでいることに苦しむ。例えば、春日さんとデート(お買い物)に行くためにどんな服装にしようかと悩んで雑誌を開いてみても、そこにあるのは「男性からのモテコーデ」ばかり。さらにクリスマスシーズンともなると、男と女は恋愛して当たり前、といった空気感が街じゅうに漂う。そこに追い打ちをかけるように、親からは「そろそろいい人を見つけないと」というプレッシャーがかかる。その「いい人」は、当然のように「男性」を想定されている。それが野本さんを息苦しくさせていることに、周囲は誰ひとり気づかない。

そして、2巻では春日さんの過去も語られる。保守的な家庭に育ち、男がお酒を飲んで遊んでいる間に女はひたすら家事。おかずも弟のほうに多く盛られ、姉である自分には不出来で小さなものしか与えられない。育ち盛りの春日さんは、人目を忍ぶようにして、真夜中の台所でこっそりパンを焼いて食べていた。そのみじめな気持ち。その反動から、現在の大食が始まったのだと、野本さんに打ち明ける。

いわゆる「ジェンダー」の話なんですね、この漫画は。

女は男に仕えてなんぼ。料理も化粧も男に媚びるためにやるもの。女性たるもの、可愛く、小食で、「良き母親」になるべく生きるべし。そういう無言の圧力って、そう言われてみればあっちもこっちにもあるわねぇ、そういえば。もちろん、これは裏返せば、男性は「男性たるもの」という概念を背負わされているわけで、どちらにせよ息苦しいのは間違いないのです。この作中では、それを「同じ形に型抜きされたクッキー」という比喩で表現されていますね。

でも、野本さんははっきりと自覚します。

私は 女のひとを好きになっていいんだ

春日さんを 好きになっていいんだ

(第16話:P122より)

そして、春日さんもまた、自分の中にあった暗い思いを野本さんに打ち明け、食べたい自分を受け入れてもらったことで、少し肩の荷がおりたのか、雰囲気が明るくなります。そして、野本さんとずっと一緒にいたいという気持ちをストレートに表現してくるようになります。春日さんはまだ自分の性的指向がどうであるかについて考えるに至ってはいないんだけれども、それでも、野本さんと「家族」になれたらいいなぁという願いを持ち始めるのです。

さらに、野本さんと春日さんの周りにも、少しだけ考え方を変えつつある人々が現れます。それは、近所で定食屋を営む老夫婦。1巻で春日さんが唐揚げ定食を食べようとしたら、春日さんが女性であるということだけで、良かれと思ってご飯を小盛りにしてしまった、あのご主人です。

2巻で、春日さんが野本さんを伴って再びその定食屋を訪れた際には、注文を取る際に「ご飯は大盛と普通と小盛が選べますが、どうします?」という質問が追加されていたのでした。しかも、その同じ質問は他の男性客にも同じように行われていて、男性客は「小盛で」と答えていました。

「女性のほうがご飯の量は少なくあるべき」という、春日さんを苦しめてきた「思い込み」が、この場所でひとつ取り払われたわけです。その老夫婦の姿を見て、春日さんは素直に「おいしかったです」と自分の気持ちを口にして老夫婦に伝えます。その春日さんの姿を見て、野本さんは嬉しくなります。

 

そういった、ジェンダーやLGBTQといった今日的なテーマを軸としながらも、この作品が漫画として決して重くなり過ぎないのは、やっぱり出てくる料理がとても美味しそうだから。

食べるのに躊躇してしまうキャラ弁。いくらたっぷりのはらこ飯。コンビニ食材で作るフルーツサンド。ホットケーキミックスで焼くシュトーレン風パウンドケーキ。春日さんが野本さんのために作ってくれた消化の良い鍋焼きうどん。おうちで作るローストビーフ。楽しい手巻き寿司パーティ。

そして、やっぱり春日さんの食べっぷりがすごく気持ちいい。ばくん、ばくん、ばっくんと、大きなお口を開けて美味しそうに食べている姿が、本当に素敵で、野本さんじゃなくても惚れちゃうよね。もっと食べたいと訴える春日さんの甘えん坊なキラキラお目目の可愛らしさに耐えられる人がいるだろうか、いや、いない。

2人の関係がこれからどうなっていくのか、とても気になります。『このマンガがすごい!』で、これからさらに注目度が上がっていく作品ですよ。未読の方は、ぜひ、一度お試しください。