つれづれぶらぶら

旅行記はちょっとずつ仕上げていきます。お楽しみに~。

『ウィ、シェフ!』

ここ数ヶ月かなり面倒な仕事を抱えていて、気力をすり減らす日々が続いてましてね。ここんとこイヤな雰囲気の夢を見て飛び起きたりすることも多々あったんで、こりゃ精神的にもけっこう負担が溜まってんのかなぁ、と。

その仕事が今朝、どうにかこうにか片付きまして、ようやく一息つくことができたんですよ。ああ、あたし、よう頑張ったわー、誰も褒めてくれんけど、自分で自分を褒めてあげたい、と思っていたら、おっ、そういえば今日は「1日」じゃんか、と気付いたのでした。

このパターン、前にもありましたよね。

sister-akiho.hatenablog.com

そやそや、「毎月1日はファーストデー」、今日は映画館の割引デー。午後からお休みを貰って、映画を観に行っちゃえ。だって頑張ったんだもん、私。

でも、何の映画を観ようかな?

近場のシネコン(岡谷スカラ座イオンシネマ松本、シネマライツ8)のラインナップは、どこもかしこもほぼ同じ顔触れ。いわゆる「売れ線」ばっかで、田舎の映画文化の弱さを感じてしまう。ジブリの新作は今はそんなに見たい気分じゃない。ましてや子供向けの夏休み映画という気分でもない。どうしたもんかなー。

そういえばミニシアターがひとつあったな。塩尻市の「東座(あずまざ)」。今まで利用したことないけど、良い機会だから行ってみようっと!

www.fromeastcinema.com

塩尻駅から徒歩15分ほどの、少々裏寂れた場所に、その昭和感ただようレトロな映画館はありました。東座は1号館と2号館に分かれ、1号館がミニシアター、2号館は成人映画館です。今どきは成人映画館もほとんどないよね、懐かしい。

まぁ、私の目的はミニシアターのほうです。他のシネコンではなかなか観られないような単館系の映画を1日に2作品ずつぐらい上映していらっしゃいます。

で、今日、私が観たのは『ウィ、シェフ!』という2022年のフランス映画です。ルイ=ジュリアン・プティ監督。原題は『LA BRIGADE』。

どういう内容なのかは、やっぱりトレイラーを観てもらうのが早いよね。


www.youtube.com

ouichef-movie.com

一流レストランでスーシェフ(料理長に次ぐ料理人)として働くカティ。でも、自分が作ったレシピの味付けをシェフに勝手に変えられそうになったことに腹を立て、カティは店を飛び出し、違う職場を探す。しかし実力はあってもなかなか希望通りの職にはありつけず、ようやく見つけた職は、未成年の移民を支援する施設の住み込み料理人。キッチンは不衛生で、食材も調理器具もまるで足りていない。そんな状況でストイックに「きちんとしたランチ」をカティ1人で作ろうとすると、2時間遅れになってしまう。やむなく、移民の少年たちに料理を教えて手伝わせようとしたものの、彼らのほとんどは包丁を握ったことすらなく、フランス語も堪能でない。最初は彼らにキツく当たるカティだったが、少年たちがさまざまな事情を抱えて命懸けでこのフランスにやってきて、18歳までに職業訓練学校に就学できないと強制送還されてしまうことを知り、少しずつ彼らに対する親愛の情、彼らの未来を守りたいという気持ちがわき上がってくるのだった。そこで、調理師専門学校を開校して、彼らを救おうとするのだが、それには資金が必要だ。カティが目をつけたのは、大人気のテレビ番組で、料理対決ショーの「ザ・コック」の優勝賞金5万ユーロ。カティと少年たちは、一世一代の賭けに打って出る——!

日本に住んでいるとなかなか考える機会がありませんが、移民大国フランスでは、こういった未成年者で、かつ保護者のいない移民がけっこういるんだそうです。そして、この映画に登場する少年たちもまた、実際にパリの移民支援施設で暮らす移民の少年300人以上の中から、オーディションで選ばれた40人なんですって。演技経験のない少年たちに対して監督はあえて台本をきっちり読み込ませることなく大筋だけ伝え、主演俳優たちとの掛け合いの中で生まれる自然なリアクションをカメラに収めていったのだそうです。

この映画は、移民問題という重たいテーマを扱ってはいるものの、物語の核となっているのは人々の交流、そしてその中で各自が成長していく様子を描いています。

カティは、料理人としては一流ですが、あまりにストイックすぎて人づきあいが苦手。移民支援施設の施設長であるロレンゾ、施設の教員のサビーヌにも、ずけずけと言いたいことを言ってしまいます。でも、考え方は違っても、ロレンゾもサビーヌも少年たちを精一杯守ろうとしていることに気付いてからは、カティも少しずつ自分の頑なな考え方を変えようと努めていきます。また、最初のうちは自信なさげな様子だったロレンゾとサビーヌも、カティから刺激を受けて、どんどん自己主張し、野心を持つようになってくるのです。ある目的のためにサビーヌが「はったりの」電話をかけるくだりなんかは、ちょっとスカッとしますよ。

そして、何といっても少年たちがイイのです。パンフレットを読むまでは全員素人だとは思わなかった。さぞかし芸歴のある子役さんなのかと。それぐらい演技が自然で良かったんですよね。最初のうちはつまらなそうに下を向いていて、でも料理が面白くなってくると、まるでサッカーチームのように全員が一丸となって助け合う、その活気に溢れた笑顔が最高に素敵なのです。そういえばこないだの『エンドロールのつづき』も素人の子供を抜擢していましたね。この流れは世界共通なのかしらん?

sister-akiho.hatenablog.com

心に残るシーンはいくつかありましたが、「ザ・コック」の予選を勝ち抜いたカティを、少年たちが施設で出迎えるシーンがとりわけ心に残りました。窓という窓に子どもたちの笑顔があって、その彼らに向けて、カティは高々と指を立ててみせる——友情と尊敬、人種も性別も年齢も飛び越えて、人々がひとつになった美しい瞬間でした。

ちなみに、この主人公・カティには実在のモデルが存在します。映画の中にもちょっとだけ登場するカトリーヌ・グロージャンというシェフで、移民の子どもたちを調理師として育成し、フランスでの安定した生活へと導く社会活動を行っている女性なんですって。

『エンドロールのつづき』や『100人の子供たちが列車を待っている』も同じですが、学ぶ機会を充分に与えられていない子どもたちに対して、どのように学びへ導いていくのか。映画であったり料理であったり、学ぶ切り口はさまざまあるとしても、大切なのは、子ども自身が意欲を持って未来を切り開いていこうとすること。そして大人には、その機会を与える責任があるということでしょう。

楽しく人間ドラマを鑑賞しながら、同時に色々なことを考えさせられる映画でした。機会があればぜひご覧ください。

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