つれづれぶらぶら

カセットテープミュージックで久々に「レインダンスが聞こえる」を聴いた。こんなカッコいい曲だったかな。懐かしいな。

『掘る女 縄文人の落とし物』

茅野市民館で『掘る女 縄文人の落とし物』という映画を観てきた。

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縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間にわたって記録したドキュメンタリー映画である。私が松本貴子監督の映画を鑑賞するのは『≒草間彌生 わたし大好き』に続いて2作目だ。

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GW最終日で外は大雨という状況ではあったものの、会場となった茅野市民館コンサートホールはほぼ満席に近い180人超の観客が集まっていた。上映後は松本監督と出演者の大竹幸恵さんのアフタートークが行われるということもあったと思うが、やはり茅野市民は考古学への関心が高いのだなぁと思った。

映画の内容については、上に貼った公式サイトや予告編動画を見ていただければだいたい分かってもらえると思うが、長野県の星糞峠、岩手県の北玉川遺跡、神奈川県の稲荷木遺跡、栃木県の中根八幡遺跡の発掘調査を中心に、その他の遺跡調査の経験談なども交えながら、そこで泥と汗にまみれながら発掘している人々のイキイキとした表情にカメラを向けている。

導入部分がいい。目の前には広大な発掘現場があり、そこへ下りる梯子段が映し出される。その梯子段を一段一段くだっていくごとに、江戸時代、平安時代弥生時代へと、時を遡っていくのだと説明される。そして最後の段を降りて発掘現場に降り立つと、そこは、縄文時代の人々がかつて確かに暮らしていた場所────。

 

長野県長和町にある星糞峠は、高純度の黒曜石が産出されることで有名な場所だ。黒曜石は縄文時代の人々がナイフや矢じりとして活用していた貴重な資源で、この星糞峠産の黒曜石は遠く離れた場所でも発見されるという。この「星糞峠の黒曜石」は日本初のブランド製品であっただろう、と映画は言う。

その星糞峠でひたすら地層を掘り、地質の違いを見極めて線を引くという作業を何年も続けている研究者がいる。大竹幸恵さんだ。彼女が解き明かそうとしているのは「縄文人はどのようにこの土地を掘っていたか」ということだ。縄文人は地面を深く掘って、地下深くにある火山灰堆積層に混ざっている黒曜石の岩石を掘り出していた。ということは縄文人が掘った跡は、新しい地質が一番下になり古い地質が一番上になっているはずだ。その痕跡に目を凝らし、その境目に「生きた線」を引く。その過程で、縄文人たちが使ったであろう道具も掘り出される。それを手に取った瞬間に、ひとりの縄文人を感じるのだと言う。

どんなに掘っても目立った成果が見つからないことも多々ある。岩手県洋野町の北玉川遺跡で作業員を指揮する八木勝枝さんは、根気よく調査を続け、鹿などの捕獲に使用したであろう落とし穴の跡を見つけ出した。

東名高速道路の建設事業に伴う稲荷木遺跡の発掘調査では、100件掘って1個見つかるかどうかという貴重な「釣手土器」が見つかった。それを掘り出しているのは作業員の池田由美子さん。元々、発掘とは無縁の生活をしていたが、ポストに入っていた求人チラシをきっかけに発掘調査の世界に飛び込み、以来30年間発掘に携わっている。青森県八戸市で見つかった国宝「合掌土偶」の発掘チームにも参加していたと誇らしげに語る。

その合掌土偶を発掘したのもまた女性たちだ。山内良子さんと林崎恵子さんは、土器の肩の部分にコツンと当たった瞬間のこと、土器がどんなふうに横たわっていたのかを嬉しそうに語り合う。

栃木県の中根八幡遺跡の発掘調査を行っているのは、國學院大學の学生たちだ。大学院生の伊沢加奈子さんは掘ることが大好き。子どもの埋葬に使われたであろう巨大な甕を掘り当てて夢中になって掘り続けている。時には、頭の上に栗の実が落ちてきて痛い思いをしながらも、彼女の目はキラキラと輝いている。

たくさんの人々が、泥まみれ、汗まみれでひたすら地面を掘り続けている。地味でしんどい作業だというのに、なんだかとっても楽しそう。

しかし発掘調査は、常にシビアな現実と向き合っていかざるを得ない。彼女らが掘っている場所は、じきに高速道路などが建設される場所だからだ。調査が長引けばそれだけ道路の開通が遅れることになる。遺跡調査の必要性に疑問の声を上げる人々もいる。何のために調査するのか、なぜ古代の遺物を掘り出すのか?

その問いに、八木さんは東日本大震災後の経験を語る。震災からずいぶん時が経っても、被災地で人々は何かを一生懸命に探していた。それは写真など、被災者の思い出の品々だ。「物」を通じて「人」は過去と繋がることができる────。

 

とても面白い映画だった。

発掘調査の映画ということで絵ヅラ自体は非常に地味だが、なにしろ人々の表情がとてもイイ!夢中になって土器を掘り出す人々のキラキラした目が印象的だった。また、ところどころに差し込まれる素朴な雰囲気のアニメーションもコミカルで可愛らしかった。真面目な話なのかなと思いきや笑えるシーンも多く、時おり客席からドッと笑い声が上がった。私もたくさん笑った。

 

上映後のアフタートークでは、まず、松本監督が「茅野市縄文時代に最も栄えていた大都会だと聞いています。縄文時代の『銀座』で上映できたことを嬉しく思います」という挨拶で客の笑いを誘った。

今回の映画を撮ることになったきっかけは?という質問に対し、松本監督は、元々「渦巻き」が好きで、縄文土器の渦巻き模様に惹かれていた。その後、NHKで土偶に関する番組を2本手がけたことから、縄文を扱った映画を作りたい意欲が高まったのだと言う。

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企画書を書き、まず岩手に八木さんを訪ねたが、その発掘現場ではおそらく何も出ないだろうと言われ、他にも遺跡調査をしている人はいないかと探していたところ、大竹さんを紹介されたのだそう。しかも、大竹さんはこれまで30年も発掘を続けてきて、今年が定年退職のラストイヤーだと言う。長年調査を続けてきた人の最後の1年だけを、いったいどうやって撮ればいいのか悩んだものの、とりあえず現場に行ってみようと監督は長野県へ向かった。

その言葉を受けて、大竹さんが初めて監督に会ったときの思い出を語る。山の中に綺麗な車でお洒落な服装の女性が現れたことに最初はとまどい、まぁすぐに音を上げるだろうと思いつつ密着取材を了承したが、その後、本当に雨の日も風の日も監督が山の中に3年間通って来たことに驚いた、と。

松本監督のポリシーは「現場主義」だそうで、事前になるべく何も調べないようにして、とにかく現場に飛び込んでみることを大事にしているそうだ。あれこれ調べて頭の中をいっぱいにしても、実際に現場に行くとけっこう違うのだと。今回の取材でも、最初から八木さんを質問攻めにしてしまったが、どんなに素人くさい質問にも八木さんは丁寧に答えてくれた。大竹さんも地層の見方を一生懸命教えてくれていたが、実は全然理解できていない(笑)。でも、私の理解度が最低だとしたら、そのまま映画にしたらきっとお客さんにも分かりやすいものができるはずだと思っていたと言う。

ここで、司会者から「伊沢さんの上に落ちてきた栗は偶然か?それとも仕込みか?」という意地悪な質問が投げかけられ、監督は苦笑。伊沢さんの甕の発掘作業は遅々として進まず、ずっと同じ画面が続いてしまうので、監督も途中で飽きてその場を離れていたところ、ふとカメラマンがたまたまカメラを回し始めたとたん栗が落ちてきたそうで、「うちのカメラマンが『持ってた』んです」と、またもや場内を沸かせた。

学生たちの発掘現場を撮りたいと思って中根八幡遺跡の発掘調査を取材したが、誰を中心に撮ったらいいものかと考えていたところ、伊沢さんがとりわけキラキラ輝いて見えたので、カメラマンと「彼女を中心に撮ろう」と決めたとのこと。

大竹さんも、伊沢さんについて「私は今回の映画の中で最年長、しかも定年間際という存在ですが、伊沢さんは大学を出てこれから考古学の世界を引っ張っていく存在。彼女からは未来を感じさせる。何のために発掘するのかと考えている彼女が既にプロの顔になっている」と褒めたたえる。

また、大竹さんは「触れる」ことの大切さについても語ってくれた。遺跡発掘に当たっては重機でガーッと掘ってしまうことはできないから、縄文人と同じように、自らの手でさまざまな道具(豚汁用のお玉とか)を使いながら掘っていくしかない。その身体の動きから、縄文人の姿を思い浮かべるのだと。子どもたちに黒曜石などの古代の遺物を触らせて、古代の人々がそれをどのように使っていたのかを教えると、子どもたちはすぐに自分自身の日常の中にオーバーラップして吸収できる。そういった「特殊な物」は自分自身にフィードバックして普段の生活を考え直すきっかけになる。現代の私たちも昔の人も変わらない。私たちはこの地球の上に代々住んできたのだと、きっと過去の人々もコロナのような病を乗り越えながら生き延びてきたのだろうと思う、と語る。

監督は、この映画の「裏のテーマ」は、好きなことを見つけたらこんなにも人はイキイキとする、ということだと言う。八木さんはベテランの専門家なのに「土偶カワイイ!」という気持ちを持ち続ける。池田さんはごく普通の主婦だったのに、釣手土器を発見してあんなにもイイ笑顔になる。「つまり、『推しがいると人生は楽しい!』ということを伝えたかったんです!」と監督は笑顔で語る。

最後の挨拶として、大竹さんは「日常、身体を動かして、自分の身の回りで何かを見つける喜びを大事にしてほしい」と語り、監督は「この作品は元々『掘る人』というタイトルになるはずでしたが宣伝効果的に『掘る女』となりました。この映画を、過去・現在・未来、全ての人に捧げます!」と締めた。

このほかにも色々と面白い話(結婚式を抜け出してきた話とか)があり、終始和やかな様子でアフタートークは終了した。満員の観客を背に記念撮影して終了。

 

映画の内容自体も面白かったし、池田昌子さん(永遠の時の旅人)の上品なナレーション、栗コーダーカルテットの音楽もとても良かった。なかなか観る機会のない映画かとは思うけれど、もし近隣で上映される機会があれば、是非ともご覧頂きたい。進路に悩んでいる学生さんにもオススメしたい映画だ。