つれづれぶらぶら

旅行記はちょっとずつ仕上げていきます。お楽しみに~。

『春画先生』

いつも、YouTubeで新作映画の予告編をあれこれ物色しているのですが、すると先日、実にヤバい感じの動画がオススメに上がってきたんです。


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P音とバキューンだらけの謎の動画。そして最後にどどーんとでっかく表示される「15禁」映倫表示。そして、ここで紳士淑女が鑑賞しているのは、かの「鉄棒ぬらぬら」先生の不朽の名作、「蛸と海女」ではありませんか!

sister-akiho.hatenablog.com

そう、この映画春画先生』の題材は、タイトルそのものの春画。その春画を偏愛する「春画先生」と、春画先生に一途に想いを寄せる若い娘の、変態ぬらぬらラブコメディなのであります。

happinet-phantom.com

春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。

退屈な日々を過ごしていた春野弓子は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。

やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村や、芳賀の亡き妻の姉・一葉の登場で大きな波乱が巻き起こる。

それは弓子の“覚醒”のはじまりだった────。

(公式サイトから引用)

 

春画かぁ。以前、芸術新潮だったか何かの雑誌の特集で見て、そのおおらかさやユーモア、多彩な技巧に驚いたことがあります。特に鈴木春信の「風流艶色真似ゑもん」シリーズが面白くてね。コロポックルみたいなちっちゃな侍・真似ゑもんが、市井の人々のエロチックな場面をこっそり覗き見ている、といった趣きの滑稽画なんですけども、男女の交わりのシーンかと思いきやよく見ると男色だったりとか、色々と驚きのある絵なんですなこれが。

というわけで、ちょっと面白そうだなーと思いまして、今日も今日とて特急あずさに飛び乗って、ちょいと東京・銀座のシネスイッチ銀座さんへ行ってまいりました。

 

で、映画の内容は────というと、まだ公開直後の映画ですし、それに何しろ15禁の映画ですから、あんまりネタバレとか具体的なお話はできないんですが、とりあえずこれから観ようかなとお考えの方にね、最初にちょっとお伝えしといたほうがいいかなーと思うことをネタバレになんない程度にちょいちょいと。

まず、「15禁」ってことで、先の予告編を観た段階では「無修正の春画が画面に出るからかな?絡みのシーンもありそうだな。でも15禁ってことは露骨な絡みでもなさそうだし、『ドライブ・マイ・カー』くらいのエロ表現かな?」と思っていましたが、見終えた感想としては────、

これ15禁どころじゃねぇやwww

こんなもん中高生に見せられへんwww

ええとね、画ヅラとしてはね、さほどヤバくはないんですよ。濡れ場はいくつかあるけど、せいぜいおっぱいとかおしりが見えるぐらいで、そんなもん今どきのスレた中高生は動揺もせんでしょ。ましてや無修正の「春画」ったって「絵」だし。

だけど、この映画のヤバさは画ヅラの問題じゃないんすよ。

展開がめちゃめちゃド変態www

映画の中の台詞で言えば、登場人物がそれぞれ性癖のリミッターを外されちゃったヒトばっかりで、しがない喫茶店のウエイトレスであった弓子さんは、あーんなこと(ピーッ!)や、こーんなこと(ピーッ!)や、さらには、そーんなこと(バキューン!!)までさせられちゃって、そのたびに怒りをぶちまけるんだけれども、弓子の怒った顔こそが春画先生の大好物だっていうんだから、もうタチが悪いったらありゃしない。

 

そんな「春画先生」こと芳賀一郎を演じるのは、現在シーズン2が絶賛放送中の『きのう何食べた?』でケンジを演じている内野聖陽さん。柔らかい雰囲気のケンジに対して、春画先生は何を考えているのか分からない浮世離れした感じで、雰囲気が全然違う。内野さんは熱血漢だったりヤクザだったり、役ごとに雰囲気がガラッと変わる技巧派の役者さんで、ホントどんな役柄を演じてもすごくハマる。さすがだなぁ。

また、春画先生の助手として、弓子さんを変態の道に引きずり込む編集者の辻村を演じるのは、『シン・仮面ライダー』で一文字隼人を演じていた柄本佑さん。本作でも軽妙洒脱な持ち味を活かして、性に奔放なバイセクシャルを演じています。あの空色のブーメランパンツのインパクトが目に焼き付いて離れないwww

さらに、弓子さんを精神的にも肉体的にも苛む、春画先生の亡き妻、そしてその双子の姉の2役を演じるのが安達祐実さん。現在放送中の『大奥』では額に青筋を立ててキレ散らかす松平定信をすごい迫力で演じていますが、本作においてもまた強烈な役どころを迫力満点に演じていらっしゃる。だけどすっごく綺麗で、黒いレースのドレス姿が猛烈にエロチック。

そんな強烈な変態たちによって、ド変態の道に引きずり込まれていくヒロイン・弓子さんを演じるのが北香那さん。大河ドラマなどでご活躍中の新進気鋭の若手女優さんだそうですが、いやはや、この「弓子」という癖の強いヒロインを見事に演じ切っておられました。もうね、この映画は彼女を見るためにあると言ってもいいんじゃないかな、それぐらいの存在感がありましたよ。

弓子さんは、パッと見は、清純でおとなしそうな若い娘さんなんだけれども、その薄皮一枚の下にはドロドロのマグマのような情念が滾っていて、感情の発露のエネルギーがすさまじい。喜怒哀楽が全部顔に出ちゃうタイプで、とりわけ怒りのパワーがものすごい。直情型で、物怖じせずに思ったことを真っすぐに口に出す。そして勘が鋭くて、春画の中に描かれた物語や感情も余さず読み取っては春画先生を感動させ、最終的には春画先生そのひと自身についても悟ってしまう。

濡れ場シーンでの北香那さんの脱ぎっぷりも良くて、あられもない声も存分に堪能することができますが、しかしながら、そのエロスだけに目を向けてしまうと、その外側にあるさまざまな物事を見逃してしまう────、そう、序盤に春画先生がレクチャーした春画の見方のとおり、その一点だけに注目してしまうのはもったいない。むしろ、どんどん偏愛の世界に引きずり込まれてしまう弓子さんの変身の過程を、その表情や仕草から読み取っていってほしい、そう思うのです。

 

ところで、この映画自体は、なんというか極めて昭和的なムード、そう、伊丹十三あたりの映画を連想させるような────、もっとズバリ言っちゃうと「日活ロマンポルノ」的なニュアンスを、かなり露骨に表現しています。って、日活ロマンポルノを観たことはないんだけどね。でも多分こんな感じなんだろうなぁ的な。あの回転ベッドとか、あのお屋敷の赤いベッドとか。何かのパロディかな?と思うシーンもちらほら。

そして、物語自体も極めて昭和的。谷崎潤一郎とか夢野久作とか、あのあたりが好きな方ならハマるかな。ぶっちゃけ、ネタバレを恐れずに言えば、この作品の大枠自体は、谷崎潤一郎の『刺青』と同じだったりするわけです。芸術に魅入られた男が、無垢な女を虜にして自分の芸術の道具にしてしまうのだけれども、その芸術が完成したとき、その女の中に秘められた魔性が覚醒して、主従関係が入れ替わる。そういう話なわけです。ただ、まぁね、そこに至るまでの道程が色々とね、現代のお話ですもんで、違うわけなんですけども。うーんスマホをおでこに貼るのはどうだろうねwww

 

なんだかんだ申し上げましたが、特定の方々にはめっちゃ面白い、人を選ぶ映画に仕上がっております。私ですか?ええ、めっちゃ面白かったです。何度も笑いましたよ。引き笑いも含めてねwww

ちなみに、春画についての細かいレクチャーは前半部分のみで、後半になると春画自体はたいして関係なくなっちゃいます。そんなわけで、「春画自体には学術的な興味があるけど、恋愛ドラマには興味ない」という方は、11月公開予定のドキュメンタリー映画『春の画  SHUNGA』をご覧になったほうがいいかもですね(ただし18禁)。

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