つれづれぶらぶら

今期夏アニメの覇権は「しかのこのこのここしたんたん」で決まりだな。まだ始まってすらいないけど。

週末ビア旅行【West Coast Brewing(静岡市駿河区)】

こちらの記事の続き。

sister-akiho.hatenablog.com

反射炉ビヤさんで醸造所見学をさせてもらった翌日(19日)は、静岡駅から2駅先の「用宗(もちむね)駅」へ。

用宗は、シラスの水揚げ量が多いことで知られる用宗漁港のある港町ですが、クラフトビールファンにも有名な町ですよね。だって、この町には……、

あの「West Coast Brewing」(以下、WCB)がある!

www.westcoastbrewing.jp

このブログでも何度か取り上げたWCB。質の高いアメリカンクラフトを提供するブルワリーとして、日本中にたくさんのファンを有しています。また、ビールに留まらない独自のカルチャーを意欲的に創造しており、例えば、上の写真の「The Villa & Barrel Lounge」は「ブルワリーに泊まる」をコンセプトにした画期的なホテル。なんと客室に宿泊者限定ビールのタップがあって10リットルまで飲み放題!という、ビアギークにとっては「ここが天国か……( *´艸`)」と言いたくなっちゃう。また、静岡が誇るミュージシャン「電気グルーヴ」とのコラボもめっちゃ嬉しい。

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そんなWCBさん、毎週土曜と日曜は醸造所見学ツアーを開催しています(20歳以上限定:完全予約制)。今回、せっかく静岡に来たのだから、反射炉ビヤさんだけじゃなくてWCBさんの醸造所も覗かせてもらっちゃおう!と、事前に見学ツアーに申し込んでおいたのでした。

集合場所は「The Villa」の1階にあるバレルラウンジ。なお、この1階にはショップとタップルームもあって、宿泊者でなくとも自由に利用することができますよ。

開始時刻の10時半には、私も含め10名ほどのツアー参加者が集まりました。昨日からこのホテルに泊まっているグループもいましたよ。羨ましいなぁ。

女性スタッフさんの案内によって、見学ツアーは始まりました。ツアーの途中にはところどころクイズも盛り込まれていて、正解した人にはオリジナルステッカーがプレゼントされます。私は「WCBのパッケージにはホップを模したキャラクターが描かれていますが、そのキャラクターの名前は何でしょう?」という最初のクイズに正解して、可愛らしい「Hop Dude(ホップ・デュード)」くんのステッカーを貰っちゃいました。ちなみに、Hop Dudeくんはひとつの壮大な物語世界に生きていて、缶のパッケージに表示されている二次元バーコードを読む込むと、そのストーリーを読むことができるのです。全てのビールの物語が、実はちゃんと繋がっているんですって。


www.youtube.com

説明の始まりは、まず、WCBの成り立ちの物語から。そもそもWCBの母体は、アメリカ人建築家のデレック・バストンさんが代表を務める「West Coast Design」という設計事務所工務店。そのデレックさんが、静岡市葵区にあるガイアフロー静岡蒸溜所というウイスキー蒸溜所の建築設計を請け負ったことからこの物語は始まるのです。

www.westcoastdesign.co.jp

建築を通じて「酒造」の世界に触れたデレックさんは、自分がアメリカ時代にいつも飲んでいた美味しいアメリカンクラフトビールを日本でも飲みたいという想いを強めていました。するとちょうどそのタイミングで、用宗漁港にある、使われなくなったマグロ解体場をリノベーションして温泉施設を作る計画が立ち上がりました。そのマグロ解体場はとても広いので、温泉施設以外にも何か他の施設を作れそうだ。ならば、ここに自分たちのクラフトビール醸造所を作ったらいいじゃないか……!

というところで、ホテルを出て、道路を挟んだ向かいの大きな建物へと移動します。そう、これが旧マグロ解体場をリノベーションした「用宗みなと温泉」。その施設の一角にあるのが、そう、我らがWCBの醸造所です。

ちなみに、醸造所内での写真撮影はNG。ですが、「入口のシャッターの下の線の外からだったら、手を思いっきり伸ばして写真を撮ってもOKでーす!」とのことで、私も短い腕をせいいっぱい伸ばしてパシャリ。場内はこんな感じ。1000~3000リットルのビールを貯蔵できる巨大なタンクがたくさん並んでいますね。

工場に入る前に、全員マスク着用、靴にはビニールの靴カバーを装着。なぜかというと、例えば、参加者が朝に納豆を食べてきていると、なんせバチルス・ナットーは繁殖力が高いもんで、あっという間に工場内が納豆菌に汚染されてしまうからなのですね。かもすぞー。

この入口の右側の壁には、日本を含む4か国の国旗が掲げられています。それはこの醸造所で働くブルワーさんたちの出身国を表しています。異なる国籍の人々が集まって醸造をしているのですね。人間は、人種や顔の形などによってそれぞれ鼻腔の形が違い、また、それまでにどのようなものを食べてきたのかによっても味覚は異なります。WCBでは、毎週1~2本の新作ビールをリリースしていますが、出荷するかどうかの判断をするために、貯蔵タンクから新作のビールの味わいを数値化して評価する(官能評価)を複数の醸造スタッフで行うのだそうです。その際に、誰か1人でも点数が低いと、そのビールはまだ出荷のタイミングではないと判断されるのだそうです。異なる味覚を持つ仲間たちが存在することが、より良いビール造りに生きてくるのですね。

 

まず、工場の奥にある貯蔵庫に案内してもらいました。モルト麦芽)の袋などがたくさん積んであります。今日は日曜日だからまだ少ないほうだけど、モルトの入荷日には部屋がいっぱいになってしまうほどなんだとか。

この部屋では、実際に麦芽の粒をかじってみて、その味わいの違いを学びました。薄い色をしたベースモルトに、濃い色をしたローストモルトなどを加えることで、色合いや味わいの調整をします。焦げた麦の味は思わず顔をしかめたくなるほど苦くて、スタッフさんの「やかんで麦茶を作ろうとして、うっかり煮込みすぎちゃった時の味に似ていると思いませんか?」という表現に、思わずうんうんと頷く参加者たち。

1000リットルを基準として、1つのビールに使用するモルトの量は10袋(1袋25キログラム)から、度数が高いものだと17袋ぐらい。それらを貯蔵庫の隅にある粉砕機で細かくしてから仕込みを始めるのですが、どのモルトをどれぐらいの粗さに粉砕するのかも微調整が必要で、粗すぎると糖化しにくくなるし、細かすぎると網目などに詰まってしまうので、ここは職人の勘の見せどころ。大麦、小麦、オーツ麦など、使用する材料によっても違ってくるんですって。

ところで、WCBでは元々モルトをイギリスやドイツから輸入していました。両国は古くからのビールの歴史があって精麦技術が高いのですね。しかしながら、ウクライナとロシアの戦争によって両国からのモルトの輸入が難しくなり、現在はカナダからモルトを輸入しているそうです。おまけに円安などの影響もあるため、そろそろ現状の価格でビールを提供することが厳しくなってきているとのこと。国際情勢が私たちの食卓を直撃しているのですね……。

さて、この貯蔵室にはちょっと意外なものがあります。それは、米の籾殻です。ビールを濾過する際に、米の籾殻を濾過材として使うとちょうど良いらしいんですね。ただ、こちらも農家の減少などによって、安定して供給してもらうのが難しいらしいです。

 

工場の中に進んで、さらに説明は続きます。

ホップのペレットの紹介があって、いくつかのペレットを嗅ぎ分けた後で、「でもこのペレットは見学ツアー用にけっこう長く使っているので、匂いの鮮度が落ちています。そこで、封を切ったばかりのホップペレットの空き袋を用意しました。こちらの袋のほうが香りは強いと思いますよ」とのことで、空の袋の中に鼻を突っ込んでくんくん。おお、確かに香りがぶわっとクルー。袋の表面にはホップの銘柄が印字されていて、それぞれけっこう香りが違います。ここで、ある参加者が「こっちの袋とこっちの袋、同じ【MOSAIC(モザイク)】って書いてあるのに香りが違う。どうして?」という質問を投げかけました。スタッフさんは「非常に良い質問です」と微笑んで、それぞれの印字をもう一度よく見せてくれました。一方には【MOSAIC】、もう一方には【MOSAIC CRYO(クライオ)】と書いてあります。この【CRYO】というのは、最新の技術を使って、ホップの香り・苦み成分であるルプリンをさらに凝縮してペレット化したものなんですって。へーっ。

ホップと酵母にも不思議な関係があって、麦汁が酵母によって発酵している間に、酵母がホップの持つ香りの成分と化学反応して、異なる香りの成分に変えてしまう【バイオトランスフォーメーション】という(まるでSF映画のような名前の)現象が起こるのだそうです。それによって、全くフルーツを使っていないのにマンゴーに似た香りがするビールができたりするわけですね。面白いなー。化学の世界だ。

ホップをビールに投入するタイミングによって苦みや香りが変わってくるわけですが、ホップは高熱で煮れば煮るほど苦みが増し香りが減るもの。そこで、この工場の隅には秘密兵器──ホップを詰めた小さなタンク──があって、煮沸した麦汁を一気にそのタンクに通過させることで、苦みを出さずに香りをつけることが可能になるそうです。色んな設備があるんだなー。

また、醸造の苦労話では、スタウトは時間をかけて煮詰めれば煮詰めるほど美味しくなるということで、長いものでは48時間(丸2日)ぐらいずーっと煮続けたりのだそうですが、もちろんそうなると途中で水分が蒸発してしまうので、定期的に誰かが水を足してやらないといけない。そのためにブルワーが工場に寝泊まりしたとか、さらにブルワーが急用でいなくなった際には、なんとデレックさんご自身で水を足していたとか、そんな話も聞かせてもらいました。その話の後で、そのじっくり煮込んだ濃厚なスタウトの試飲。小さなプラカップに少量注がれたスタウトは、どっしりと甘くてコクと苦みもズーンと深いです。小さなカップのせいか、参加者の中には「子どもの頃に小児科で貰った小児用シロップを思い出すわ……」と呟く人もいたりして。そう、この喉の真ん中に存在感が残り続ける感じ、お薬のシロップに似てるっちゃあ似てるかしら。

濃厚スタウトで痺れた喉を洗い流すべく、次は綺麗なお水が配られました。これはこの工場の地下に流れる地下水で、純度の高い良質の軟水。WCBのビールはこの天然の地下水を仕込み水として作られているのですって。お酒は水って言いますもんね。

他にも、パッケージのもととなる鉛筆書きの原画を見せてもらったり(ホテルの客室内にも飾られているそうですよ)、実際に作業しているブルワーさんが参加者の質問に答えてくれたり、ここでしかできない貴重な体験をたくさんさせてもらいました。勉強になりました!

 

ホテルのラウンジに戻って、アンケートに答えたら(ステッカーが貰えます)、見学ツアーは終了。お土産にビールが1本もらえます。さらにタップルームやショップで使える200円割引券も。せっかくだから、そりゃやっぱり飲んでいきたいよネー。

どれにしようかな。IPAも美味しそうだけど、せっかくだから普段は飲めないものを飲んで行きたいよね。とか考えると、私が選ぶのはやっぱりバーレイワイン。どんだけバレルエイジド系好きやねんって感じだけど、いいじゃない、美味しいんだもの。

というわけで、こちらが【Triple Barrel BA Basic Blend】。アルコール度数は10.5%。もちろんこんなハイアルコールな代物をがぶ飲みできるはずはないので、サイズは一番小さい試飲サイズ。もう見るからに重たげな漆黒の液体の上に、カフェオレのようなクリーミーな泡がふんわり。この泡ちょー旨い。味わいは先ほどのインペリアルスタウトに負けず劣らず、どっしりとした甘さとコク。だけど苦みはそれほどでもなくて、まろやか。ビールというよりはウイスキーやワインのような感じの奥深さと滑らかさがあって、うまし。

帰りの電車の時刻を考えたら、ここで酔っぱらっている時間はあまりなさそう。というわけで、ここでのビールはこれ一杯限りにしておいて、ショップでビールを買って帰ります。お土産のビールと一緒にカバンに詰め込んだら、スタッフさんにお礼を言ってホテルを後にします。

時刻は昼の12時。帰る前にお昼ご飯を食べていかねばね。っていうか、用宗に来たらしらす丼を食べねばなるまいよね。というわけで、先ほどの温泉施設に戻りまして、食堂で「しらすサーモン丼セット」を食べました。うっまー。

その後、用宗駅から東海道本線で静岡駅に戻り、「特急ふじかわ」で甲府駅へ、そこから「特急あずさ」に乗り換えて、夕方には茅野駅に戻りました。1泊2日の静岡、ブルワリー見学の旅。素敵な出会いと、素敵なビール、ブルワリーごとのこだわりの違いも楽しめて、とっても有意義な旅になりました!そして、次はどこへ行こうかな……なんて、車窓に遠ざかる富士山を眺めながら、さっそく次の計画を練り始める私なのでした。楽しかったです!!!ヾ(*´∀`*)ノ