つれづれぶらぶら

しーごーとーがー終わらないーのよー(;´д⊂)

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

先日、図書館で『「RRR」で知るインド近現代史』という本を借りたんです。

映画『RRR』めちゃくちゃ面白いですよね。あんなに面白い映画がこの世にあるのかって思うぐらいに熱狂しているんですけどね。

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この映画『RRR』はフィクションなんですけど、実際にインドの独立運動を牽引した英雄たちをイメージして描かれた作品であることは知っているんです。でも、じゃあ実際のインドの独立運動がいかなるものであったのかは知りません。恥ずかしながら、歴史や地理についてはまったくの不勉強で、ほとんど何も知らないんです。なので、『RRR』を切り口にした本なら、この私にも学びやすいかもしれないと思って読んでみました。

とても分かりやすい本でした。映画の中に登場する出来事や人物名の説明があったり、なぜエンディングで描かれる英雄たちの中にガンディーがいないのか、そのガンディーはいかなる革命家であったのかといったことなども語られていたりして、とても勉強になりました。

そして、私が「あ、自分、何にも知らないんだな」と改めて認識したのは、インドとパキスタンバングラデシュの関係でした。ホント、恥ずかしいことに、パキスタンと言われても「なんか、しょっちゅう紛争とかしてる国???」ってぐらいのイメージしかなかったんですよ。ニュースで「パキスタン情勢」という言葉は聞くけど、詳しく知ろうとは思っていなかった、つまりまるっきり無関心だったんです。

『RRR』でビームがデリーに潜入した際に、自分の身元を隠すためにムスリムのふりをしていたようなことから、インドにはヒンドゥー教徒イスラム教徒(ムスリム)がいることは理解していました。ですが、その後、インドがイギリスの占領から独立する際に、インド国内のイスラム教徒の運動によって、イギリス領インド帝国を分割する形でパキスタンが独立、さらにパキスタンからバングラデシュが独立した、という歴史があったことは、本当に恥ずかしながら、全然理解していませんでした。

すると、この本の中で、インドとパキスタンの現在の対立の様子がよく分かる映画として『バジュランギおじさんと、小さな迷子』という2015年にインドで制作され、2019年に日本でも公開された映画のことが紹介されていました。へぇ、こんな映画があったんだと気になっていたところ、静岡旅行中にホテル周辺の映画館の情報を集めていたら、なんとびっくり!まさに今ちょうど「静岡シネ・ギャラリー」でレイトショーをやっているというではありませんか!これは何?神さまのお導きなの?

というわけで、18日の夜に観てきました、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』を。


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パキスタンの小さな村に住む女の子シャヒーダー。
幼い頃から声が出せない彼女を心配したお母さんと一緒に、インドのイスラム寺院に願掛けに行くが、帰り道で一人インドに取り残されてしまう。
そんなシャヒーダーが出会ったのは、ヒンドゥー教ハヌマーン神の熱烈な信者のパワンだった。

これも、ハヌマーンの思し召しと、母親とはぐれたシャヒーダーを預かることにしたパワンだったが、ある日、彼女がパキスタンイスラム教徒と分かって驚愕する。
歴史、宗教、経済など様々な面で激しく対立するインドとパキスタン
それでもパスポートもビザもなしに、国境を越えてシャヒーダーを家に送り届けることを決意したパワン。

国境では警備隊に捕まり、パキスタン国内ではスパイに間違われて警察に追われる波乱万丈の二人旅が始まった。
果たしてパワンは無事にシャヒーダーを母親の元へ送り届けることができるのか?
そこには、思いもよらなかった奇跡が待っていた……

(公式サイトより転載)

 

もう、ね……、心温まる、とかそういう安直な言葉を使いたくないレベルで、すごく考えさせられた素晴らしい映画でしたよ。

 

主人公のパワンは、勉強が苦手で要領も悪い、底抜けに正直者でお人好し。ハヌマーン神に誓って嘘やごまかしは絶対にしない。そんなパワンが保護したのは、口もきけず文字の読み書きもできない小さな女の子。パワンは女の子のことをヒンドゥー教徒のインド人だと信じ込んでいたけれど、その彼女がイスラム教徒のパキスタン人だと知った際には、さすがに激しく動揺するわけです。だけど、恋人のラスィカーに、あなたは宗教や人種で人を差別するのかと問われ、ハッとして、女の子をパキスタンに送り届けることを決意するんですね。

そんなパワンと女の子の、インドからパキスタンへの旅は、想像以上に過酷なものでした。大使館にビザを取りに行けば、暴動に巻き込まれ渡航禁止になってしまう。密航させてくれるという旅行代理店に騙されて大金を払ったら、あやうく女の子を売春宿に売り飛ばされそうになる。国境では密航者のグループに秘密の通路を教えてもらうも、パワンはバカ正直に国境警察に許可を貰おうとして真正面から乗り込んでしまう。

パキスタンに渡っても苦難は続き、インドからのスパイだと疑われて警察に追われてしまう。インド人のスパイと聞いて、スクープ狙いのジャーナリスト、チャンドもパワンたちを追いかけてくる。しかし、チャンドはパワンを追う中でその純粋な人柄に触れ、一転して彼らを支援するため、その旅に同行する……。

 

国家や宗教の対立という大きな枠組みがあって、さらに個々人のレベルでも差別や偏見が存在するわけです。ラスィカーの両親は、唖者で迷子の女の子を憐れんで、家族のように愛しんできたけれども、女の子が異教徒のパキスタン人と知ったとたんに嫌悪感を剥き出しにして排除しようとします(末っ子の幼い男の子だけがイデオロギーに感化されておらず、最後まで女の子と遊びたがります)。正直者で純朴なパワンですら、イスラム教の聖者廟に足を踏み入れることを嫌がります。

しかし、国境を越える長い旅の中で、パワンは「祈る心」に、宗教の違いは関係ないのだということに気づきます。パキスタンでも女の子の出身地の手がかりがほとんど得られず、万策尽き果てたパワンは「なんでも祈りを叶えてくれる」というイスラム教の祈願所に意を決して足を踏み入れますが、そこで懸命に祈っている人々の姿を見、祈りの歌を聴いているうちに、心の中のわだかまりが解けたかのように、はらはらと涙をこぼします。そして、物語のラストシーン、パワンがパキスタンの人々に、女の子がパワンに、それぞれ語りかける言葉は────。

 

この物語の原案者、V・ヴィジャエーンドラ・プラサード氏は、あるパキスタン人の夫婦の間にできた子どもが重い心臓病を抱えており、手術のためにインドに行かなければならなくなったが、受け入れ先のインドの病院が手術代を免除してくれたという実際にあった出来事をヒントに、この愛の物語を思いついたのだそうです。

ちなみに、プラサード氏は『バーフバリ』や『RRR』の脚本を書いた人でもあり、S・S・ラージャマウリ監督の実のお父さん。インド映画界の超超超ヒットメイカーだっていうんだから、すげぇぇぇとしか言いようがないんですが。

 

ところで、インド映画といえば「歌と踊り」が付き物のように言われていますが、この映画でも随所に楽しい歌と踊りが盛り込まれています。パワンと女の子が出会う冒頭のハヌマーン祭りや、元気をなくした女の子をパワンやラスィカーが励まそうとして踊る愉快なチキンダンスは、インド映画らしい華やかさに溢れたシーンですよ。


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いや、本当に観て良かったと思いました。ニュースで問題になっている紛争の背景を理解することができて、あらためて自分の無知・無関心をしっかり思い知ったし、それだけじゃなくて、人種や宗教の違いを乗り越えて、お互いの偏見を捨てて、理解し合おうとしている人々がたくさんいるのだ、だからこそこの映画は世界中でヒットしているのだ、ということを知れたのも良かったです。まだあちこちの映画館で上映しているようですので、興味がある方は、是非。長野県下では7月に塩尻東座で上映されるようですよ。是非是非。