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『コロナと潜水服』

ついに「コロナ」が小説のタイトルになる時代になったんだなぁ、と図書館の新刊コーナーに置いてある本を手に取ったら、あら、奥田英朗さんじゃないの、じゃあきっと面白いはずだし、読もう読もう、と迷うことなく借りてきた。 

 

奥田英朗さんといえば、第131回の直木賞受賞作『空中ブランコ』などの精神科医・伊良部一郎シリーズが大好きだ。私はノイタミナ枠で放映された同名のアニメーションからこの原作を読んだのだが、アニメも原作もどちらもすっごく好きだ。アニメまた観たいなぁ。ネットフリックスあたりで配信してくんないかなぁ。三ツ矢雄二のヘンタイチックな演技が何とも言えず可笑しくて最高なんだよなぁ。 

sister-akiho.hatenablog.com

 

話を戻して、『コロナと潜水服』の話ね。

この本には、『海の家』、『ファイトクラブ』、『占い師』、『コロナと潜水服』、『パンダに乗って』という5編の短編小説が納められている。そして、全体を通じて、幽霊や超能力など、現代のありふれた日常の中で不意に異なる次元に迷い込んだような、ちょっぴり不思議な物語集である。

とはいえ、ホラーやオカルトといったたぐいのおどろおどろしいものでは決してない。むしろ、閉塞した環境の中にいる主人公たちを不思議なチカラがそっと励ますような、優しくて人情味にあふれた作品集だ。文体は明朗でとても読みやすく、ドタバタしたコメディタッチな部分もあり、読後感がとても爽やかだ。

 

表題作の『コロナと潜水服』は、まさにこのコロナ禍の日常を描いている。35歳のサラリーマン・渡辺康彦も在宅勤務を余儀なくされているが、日がな一日家にいて5歳の息子・海彦の相手をしているうちに、息子には新型コロナウィルスを感知する超能力があるのではないか?と思うようになる。

そんな折、やむを得ず出席することになった講習で、マスクもせず密着して喋りまくる講師の飛沫を浴びてしまった康彦は、息子の反応から、自分がコロナウイルス感染症に罹ってしまったらしいことを知る。

家族に感染させないため防護服を着用しようとしたが、防護服はおろか雨合羽さえも売り切れで、仕方なく妻が古道具屋で買ってきたのはなんと潜水服。それを着て外出したら、近所の話題になって、しまいにはテレビのワイドショーまでやってきてしまって大騒ぎ、というドタバタコメディーな展開は、いかにも奥田英朗さんらしくて笑ってしまう。

 

奥田英朗さんらしさといえば、こういう言い回しも実に分かりやすくて、好きだ。 

どうせなら海の見える静かな一軒家がいいと贅沢な希望を抱き(自分にはそうする権利がある気がした)、湘南地域の不動産屋を回って貸別荘を探したところ、一軒の不動産屋で、国会議員の鈴木宗男を彷彿とさせる初老の店主から、「ご主人、だったらいいのがありますよ」と、つばきが飛んできそうな勢いで勧められたのが、葉山御用邸近く、一色海岸から歩いて一分という奇跡的希少物件であった。

(『海の家』P8)

この直後に、不動産屋の店主の有無を言わせぬ無尽蔵のセールストークが長々と続くのだが、早口でまくし立てるその馴れ馴れしい言葉遣いが、もうすっかり鈴木宗男議員のあの独特の高い声で脳内再生されてしまうのだった。いや、うん、確かにいるよね、こういう押しのやたら強い人www

 

また、前にも言ったが、奥田英朗さんは野球がお好きで(中日ドラゴンズファン)、『占い師』はプロ野球選手を恋人に持つフリーアナウンサーの悲哀を描いている。年俸1億円以上を稼ぐスーパープレイヤーの妻になりたいと思いつつも、成績が良くて注目が集まると他の女たちも彼に群がってしまう。じゃあ成績が悪くなれば周囲の注目も集まらないから私だけの彼氏でいてくれるのか?という悩みを抱いた彼女に、占い師は不思議な提案をする――というお話。

これなどは、私もプロ野球選手とアナウンサーの恋愛モノを書いている(ずいぶん放置してるけど)だけに、興味深く読んだ。スター選手はちやほやされるけど、使えなくなったら酷いヤジを浴びせられるのがプロアスリートの辛いところ。そして彼女が最終的に選ぶのは、愛情か、それとも、玉の輿か?

 

5作品どれも甲乙つけがたく面白いのだが、とりわけ、最後の『パンダに乗って』は、中古のフィアット・パンダを購入した男が、不思議なカーナビゲーションに導かれて、新潟県内を走るロードムービー仕立ての作品で、その旅の理由が少しずつ明らかになるうちに、人と人との繋がり、巡り合わせの大切さに心を打たれる素敵な物語。

b-cles.jp

最後の目的地に行くことをためらうフィアット・パンダと、その決断を待ってやる主人公の様子が、しみじみと心を打つ。

文章が軽妙洒脱で読みやすく、1編が割と短めなので、通勤電車などの合間の時間に1編ずつ読むのにもうってつけ。コロナ禍の今だからこそ、ぜひ読んでほしい1冊です。