つれづれぶらぶら

旅行記はちょっとずつ仕上げていきます。お楽しみに~。

広島人は何でも「つぐ」

先日の雪の夜のこと。灯油ファンヒーターの灯油が切れてしまいまして、ベランダに置いてあるポリタンクから給油しないといけなくなったんです。しかしながら、なにしろ寒くて寒くてコタツから出たくない。あと、灯油の匂いが手につくのもイヤだなぁと思いましてね、我ながらワガママだとは思ったんですけども、コタツの向かいに座っている旦那にお願いしてみたんですよ。

「ねぇ、悪いんだけど、灯油ついできてくれない?」

「へいへい」

旦那はちょっと面倒くさそうに唇を尖らせたものの、すんなり立ち上がって、寒いベランダで給油してくれたんですね。

「はいよ、灯油いれてきたよ」

「ありがとう」

ファンヒーターに点火し、暖かいお部屋の中でまたコタツを囲む私たち。すると、ふと、旦那が私の顔をまじまじと見て、こう言ったのです。

「……さっき、灯油つぐって言った?」

 

はい、「他県の方々には伝わりにくい広島(安芸)弁」シリーズの第3弾、今回のテーマは【つぐ】です。

sister-akiho.hatenablog.com

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つぐ。漢字で書くと【注ぐ】。こう書いて【そそぐ】とも読むけど、今回のテーマはあくまでも【つぐ】のほう。

これね、ネットで調べたら、どうやら東日本などにおいては、この【つぐ】という用語は【お酒】を酒器にそそぐ際にしか使われていないようですね?ええっ?ほんまに?うそじゃろ?

「ちょ、ちょっと待ってよ、お茶は?【お茶】はさすがに【つぐ】じゃろ?」

「【お茶】も【いれる】だよ」

「うそぉ~~~ん……」

 

この【つぐ】という方言に関しては、かつてJタウンネットさんが【ご飯の盛り付け】の方言を調査してマップ化してくださっています。

j-town.net

そう、言うまでもなく、我々広島人は、【ご飯】も【つぐ】。それが当然でなかったことに、むしろ驚きを隠せない。おろおろ。ちなみに、生まれも育ちも長野県民の旦那は、やっぱり【ご飯】は【盛る】なんだけど、【よそる】もたまに使うらしい。

そういえば、このJタウンネットのマップを見ていて、ハッと気づいたことがあるんだけどさ、私の大好きな漫画でNHKのドラマにもなった『作りたい女と食べたい女』の中で、登場人物の「春日さん」が、定食屋の主人にご飯を勝手に少なめにされたことに対して「普通についでください」って主張するシーンがあるのね。このシーンは、ごくありふれた悪意なきジェンダーバイアスの一例を示す印象的なシーンなんだけどさ、いや、今ここでそれを議論したいわけじゃなくて!春日さんが!【つぐ】って!言った!

春日さんは、男尊女卑の強い封建的な実家に嫌気がさして上京してきたという設定なんだけど、作中では出身地は明らかではない(野本さんは仙台出身という設定)んだけど、この言い回しから察するに、瀬戸内海周辺ないし九州の出身なのかな?(よく見ると、春日さんの学生時代のお弁当に明太子らしきものが入っている……?)

sister-akiho.hatenablog.com

 

で、まぁ、ここまでは、ここまでだったらさ、うちの旦那にも、このブログをご覧になっている広島県民以外の方々にも、「まぁ、そういう言い回しの違いって、あるよね~。でもまぁ、なんとなくでも通じりゃいいじゃん?」って感じなんじゃないかって、そう思うんですよ。ほいじゃがのう、広島のもんはのう、こがぁなところで立ち止まったりはせんのんじゃ。まだまだ【つぐ】を何にでも使うちゃるんじゃけぇのぅ。

 

そう、冒頭に挙げた【灯油】ですよ。もちろん灯油だけじゃありませんよ、【ガソリン】だって【つぐ】んです。ですからね、広島市周辺のセルフでないガソリンスタンドで耳をそばだててごらんなさい、ほぅら、こんな声が聞こえてきますよ。

「レギュラー、満タン、ついで」

間違いないです。大袈裟じゃないです。絶対にこう言ってます。ほんまに広島市周辺の人(安芸の民)にとってガソリンは【つぐ】ものなんです。そう信じて生きてきたんです。就職して県外に出たとき、初めて知ったんです。えっ、ガソリンって、……【いれる】なの……?

 

いやいやいや、それでもまだ、ここまでは、ギリ、分かってもらえなくはないと信じている!だって、お酒もお茶もガソリンも「液体」だから、ちょっと違和感はあるけど、まだ皆さんの顔に微笑みは残っているものだと信じている。だがしかし、安芸の民は皆さんの予想を越えて、これ以上なおも【つぐ】のだった……!

 

それが何かと問われたら、【空気】!

あのね、自転車のタイヤとか、バレーボールとか、浮き輪とかをね、空気でぱんぱんに膨らませるでしょ。あの時に使う用具。そう、これ。何て呼ぶ?

空気入れ。ポンプ。……うん、そうね、そう呼ぶらしいね、全国では……。

ええ、もっちろん、広島ではこの用具のことを【空気つぎ】と呼びます!

「あんたの自転車のタイヤ、ちぃと凹んどるけぇ、ぼちぼち空気ついだほうがええよ。空気つぎ貸しちゃるけぇ、此処でついできんさい」

これは、広島市周辺の人々(安芸の民)にとっては、たいへんありふれた日常会話のひとつでございます!本当です!だって、だって、安芸の民は知らんのんじゃもん、全国的には、空気は【つぐ】ものじゃなくて【いれる】ものだってことを……。

ああ、目を瞑れば思い出す。我が母校の用務員室の入口に置いてあった「備品貸出簿」のことを。高校の備品ったって、生徒がわざわざ用務員室に借りにいくようなものは【空気つぎ】しかないわけですよ。ほいじゃけぇ、その貸出簿の貸与物品欄には、何ページにもわたって「〇年〇月〇日、〇年〇組、〇野〇夫、空気つぎ」というボールペン書きの文字がずらずらと並んでいたんですよ。誰ひとりとして【空気入れ】や【ポンプ】などとは書かなかった。じゃって、知らんかったんじゃもん、うちら安芸の国の高校生にとっては、ありゃあ【空気つぎ】ゆう名前なんじゃもん……。あれを使うて、自転車やらバレーボールやら浮き輪やらに、空気を【つぎ】よったんじゃもん……。

 

これに関してね、ついさっき、衝撃的なものを発見してしまったんですよ!

あの百均ショップ最大手のダイソー。そう、今やアジア、北米、中南米、中東、オセアニアを含む26の国と地域に海外事業を拡大し、海外に2296店舗を有するグローバル企業である、あの大創産業さんがですよ、以前、こんな名前の商品を出していたそうなんですね。

www.daiso-sangyo.co.jp

【空気つぎ式水鉄砲】という玩具。どうやらすぐに壊れてしまう欠陥商品だったらしく、上のリンク先は、公式サイトでお詫びとお知らせをしているページのようなんですが、今、ここで取り上げたいのは水鉄砲のことじゃない。その前についている【空気つぎ式】という言葉のほうだッッッ!

リンク先の写真を見れば分かるとおり、自転車のポンプによく似た形状の水鉄砲です。だったら、シリンダー型ポンプ式水鉄砲、とでも命名すればよかったじゃありませんか、ねぇ、そうでしょう?

しかし、大創産業の本社は広島県東広島市にあります。そうです、ダイソーさんはバリバリの安芸の民なのです……。だから、ついうっかり、っていうか極めてナチュラルにアレのことを【空気つぎ】って信じちゃってて、まさかそれが極めて狭い地域にしか通用しない方言だなんて思いもよらなくて、だから、……ほら、ね…………?

 


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